3日目<一発試験>
一発免許などとも呼ばれている。
運転免許試験場では「普通免許試験の一般受験」や「普通仮免許試験の一般受験」などと呼ばれている。教習所へ通わず技能試験、学科試験を受けると言えばわかりやすいかと。
難易度は高く、過去に取得した経験がない者がこれに挑むとほぼ返り討ちとなる。
一発試験経験者なら、ただ運転できれば合格するというものではないことはおわかりだろう。
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「日野ちゃん!日野ちゃーん!!」
事務所から出てきた社長が、大声で呼んだ。
「はい。ここにいます。きこえてます。」
短身、眼鏡、黄色く染まった天然パーマ、サイズがあっていないツナギ姿の女の子がトラックの腹下から出てきた。
(わっ、どっからでてくるねん!おどかすなよー)
社長の股ぐらを覗くように出てきた。
「ひ、日野ちゃんて免許なに持ってた?」
「社長、それ聞いてどうするんです?」
少し冷めた感じで返す。
(やっぱ苦手やなぁこの子)
「え、えーとなあ、もう一台おおが・・」
「中型、牽引、小型特殊、大型自動二輪、フォークリフト、移動式クレーン、ショベルローダー、車両系建設機械、危険物甲種、毒物劇物、玉掛、アーク溶接、ガス溶接、発破。」
食い気味に日野陽子が答えた。
(は、はっぱ!?爆破するやつか?・・・え、いっぱいあって、何やったっけ?)
「大型持ってるんやったら話は早いな。来週から大型乗って欲しいねん、お願い!」
「・・・。あ、社長、それ二輪です。」
(もー!質問間違えたわ!)
「車の方の大型免許は持ってる?」
「いえ、ないです。取りに行け、と言うことですね?」
「あ、うむ。そうそう。費用は会社で出すから教習所どこ行くか考えといてね。」
「それだったら取りに行きます。」
費用は会社で出すから、と聞いて陽子の口角が上がった。と、同時にまんまる眼鏡もキラリと光った。
「では整備の続きしますので。」
そう言って陽子はまたトラックの腹下へ潜った。
(ソツなくこなす、というよりも何でも出来るんだよなあ。人の話を先読みするところも、何というか、洞察力にも長けてるんだよな!うんうん。そんな日野ちゃんのために、新車を用意したんだよ?日野ちゃんと言うだけあって乗ってもらうのは、ひn!)
「社長、そこ、退いてもらえますか?工具踏んでます。」
(ひぃ!!また出てきた!)
「ご、ごめん!」
腰が抜けそうになるのは堪えたが声がうわずった。
「社長、今、日野だけに『HINO』に乗せようとか考えてましたよね。」
(!!!読まれてるやないけ!!!)
図星。社長は首を横に振り、ささやかな抵抗をするのがやっとだった。
そしてその晩、社長は、夢に陽子が現れて飛び起きた。
(うう、頭が痛い・・・まさか・・・な。でもあの子ならあり得るかもな。しかし、今日はよう出おるわ。)
陽子が一発試験で合格する夢であった。
妙にリアルな夢の出来事に、すっかり目が覚めてしまい、この後社長は一睡も出来なかった。
それから数日後。
社長の夢は正夢となった。
この話をきっかけに、しばらくの間、社長は『予知夢を見る能力者』として崇められることとなった。
(しかし本当のところ、予知夢を見た!じゃなくて日野ちゃんに見せられた気がしてならん。)
すると、事務所へ陽子がやってきた。
「社長、取得費用39,800円です。経費削減に貢献できました。では今日はあがります。」
と、領収証を渡した。
淡々とした口調にある種の畏怖の念を抱いた社長であった。
(そやけど路上練習はいつの間にやっやんや?)
事務所を出る陽子と入れ違いで、ベテランの柳 玄三が事務所に入る。
「おう、日野、お疲れさん!試験どうやった?」
軽く会釈し、陽子は財布から免許証を取り出した。
「もう取ったんかい!!そうかそうか、俺の指導が良かったんやな。」
玄三は誇らしげに言った。
陽子は改めて会釈し、帰っていった。
「いやいや日野すごいで。俺の平車で路上練習させたけど、逆にこっちが教習受けてるみたいやったわ!」
「えっ?玄さんが路上練習させたん?」
「そやで。社長が出張でおらん間にな。」
(それならそうと教えてよ~。)
何も知らされていない社長。
「で、あれか!『HINO』に日野乗せるんやろ?ぷぷっ!ベタやわ社長!」
(・・・・・。)
何も言い返せない社長であった。
3日目終了。
今日も一日お疲れ様でした!
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