第3話 女王様の分身

 シルフィは、しゅん、とうつむく。


「それが、ちょうど一週間前なの。それで女王様の力が効かなくなって、魔族が思う存分動き出してしまったのよ。国の軍隊がなんとか力で抑制しようとしているけれど、それでもこっちの世界まで影響がきてしまったわ」


「なるほど……」


「それでね、これはゆゆしきことだっていうんで、女王様の次にえらい、ばばさまがでてきたの」


「ばばさま?」


「正式な名前はみんな知らないの。ばばさまは占いをする人で、力もほかの妖精と比べ物にならない妖精だから、へたに名前を教えたりはしないのよ」


「どうして名前を教えないの?」


「力と名前とは、影響し合っているの。力のある人ほど、名前にもパワーがある。だから、ばばさまの名前を口にしただけで、そのパワーを受け止めきれずに、名前を口にした人が気絶しちゃったり、意識不明になったり、大変なことになってしまうのよ」


「すごい……ばばさまがそんなにすごい人なら、女王様はほんとにすごい人だったんだね」


「そうなの!」


 シルフィは、鼻息を荒くする。


「でもそれは、いまはおいておくとして。そういうわけで、ばばさまが『どうしたらこの世界もルイシュタルトもよくなるか』っていうことを占ったの。そしたら、いくつかのことがわかったわ」


「うん」


「女王様は、その命が尽きる間際、自分の分身を生み出していたの。本来ならその分身はルイシュタルトに生まれ落ちるはずだったんだけど……」


「うんうん」


 陽真は、いつのまにか話に引き込まれていた。

 シルフィは、続ける。


「魔族の力に邪魔をされて、それがかなわなかった。分身は姿を変えて、この世界に『生まれた』。それが、あなたがいままでお水をあげ続けていた、このひまわりなのよ」


「ええっ!?」


 またまたびっくりしてしまう。

 まさか自分がお水をあげていたひまわりが、女王様の分身だなんて……!


「じゃ、ひまわりが咲いたっていうことは、女王様の分身も生まれたっていうこと? でも人の姿ではないけど……」


「魔族に邪魔されなければ、ちゃんと人の姿として、元の女王様のように『花の妖精女王』として、ルイシュタルトに生まれることができたのよ。でも、それはかなわなかった。この世界に、このひまわりとして、生まれることしかできなかった。だけど、それでは女王様の分身とは言えないの。ちゃんと咲いて、咲かせてくれた人の力を借りて、パワーを集める。そうしないと、ちゃんと生まれることができないのよ」


 だんだん話が見えてきた。


「つまり、花を咲かせたのがわたしだから、あなたは現れたとき、なんだっけ……『ナントカが誕生した』って言ってたの?」


「そのとおりよ! さすが女王様の魂の欠片を見つけてくれただけはあるわね。呑み込みが早いわ!」


 シルフィはうれしそうにくるくると舞い踊る。

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