第2話 妖精シルフィ、説明する

「あなた、ずっとこのひまわりにお水をあげてくれていたでしょう? 『咲いてほしい』っていう願いをこめて。だからこのひまわりは咲くことができて、あなたが『選ばれた』のよ」


 もう妖精でいい、現実でいい。

 それは認めよう。

 だけど、この妖精の言っていることはさっぱりわからない。

 陽真は、心に決めた。


「あの、よければわかりやすく、最初から説明してほしいんだけど……」

「そうね、わたしも興奮しすぎたわ」


 妖精は、コホンと咳払いする。


「最近、このへんで不穏な出来事が起きてない?」

「ふおん?」

「いやだったり困ったりする出来事が起きてない?」


 言い換えて尋ねてきた妖精の言葉に、陽真はうなずいた。


「確かに、起きてるけど……」


 そう。陽真が住む、この神奈川県鎌倉市、特に陽真が通っている中学校、常(じょう)翔(しょう)中学校を中心として、困った事柄が増えているのだ。

 幼稚園の時からの知り合いである桐原(きりはら)駒子(こまこ)が、突然指を骨折してピアノが弾けなくなってしまったとか。

 校長先生が飼っていた愛猫が、行方不明になったっきりとか。

 そのほかにも、クラスメートの中でも「一週間前からずっと頭痛が続いてる」だの、「勉強机が急に真っ黒く汚れて、拭いても拭いてもきれいにならない」だの、みんなが困ったことを急に言い出し始めたのだ。


「それって、一週間前くらいからじゃない?」

「うん、そう」

「それってね、魔族が悪さをしているのよ」

「まぞく? あやかし、妖怪の外国版みたいな?」

「まあ、そんなところかしら」


 妖精がいるのなら、魔族だっているだろう。

 もうこのころには陽真は、そう思うようになっていた。半ばヤケである。

 さらに妖精──シルフィは言う。


「この世界とは別に、わたしが住んでいる世界、ルイシュタルトがあってね。この世界あってのルイシュタルト、ルイシュタルトあってのこの世界っていう感じで、どっちも影響しあってるの。だから、ルイシュタルトでなにか悪いことが起きればこの世界にも悪影響があって、悪い出来事が起きるようになってくる。特にこの鎌倉のこのあたりはルイシュタルトの首都、ゼーベルクと直結しているのよ。だから一番最初に鎌倉のこのあたりが影響を受けたのね」


 なんだかまた新しい単語が出てきたけれど、陽真は一生懸命頭の中で整理する。

 すると、わかったことがひとつ、あった。


「ってことは、一週間前くらいからこのあたりに悪い出来事が起きてるっていうことは、その……異世界の首都で悪いことが起きた、っていうこと……?」

「そのとおり!」


 シルフィはパタパタッと羽をはばたかせた。

 きらきらっと光の粉が舞い散る。

 まるでティンカーベルみたいだ。シルフィは金髪だし、……でもおさげだからティンカーベルとはちょっと違うかな?

 なんて陽真が思っていると、シルフィは告げた。


「首都ゼーベルクには、ルイシュタルトを束ねる女王様がいたんだけど、……魔族によって殺されてしまったの」

「えっ!?」


 陽真は思わず声を上げていた。

 殺された、だなんて……それこそ穏やかじゃない。

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