第2話 ジョニ・ミッチェルを知っているか


私の尊敬する女性の一人に、ジョニ・ミッチェルがいる。

私は極めて直感的に彼女を好きになった。たまたまラジオで流れていた時に耳にしたのが始まりだった。確かあれは、高校生3年生の春。恋人の運転する車でどこかへ向かい、上京する少し前だった。


すらりとした長身にブロンドのロングヘアー、頬骨が印象的で、鹿のようにイノセントな瞳は海色に輝いている。子供のような無邪気さと、大人の繊細な心が同居したような複雑な美しさを宿している。そして、少し妖精的とも言える顔立ちをしている。

寒いカナダの冬と、カリフォルニアの太陽を同時にイメージさせるような、素朴でありエレガント、安直には捉えられないその存在は、人をハッとさせる気づきを秘めている。クラシカルで、前衛的なのだ。


彼女の代表的なアルバム『BLUE』に収録されている、A case of you という曲が始めて聞いた彼女の音楽だった。

ギターのシンプルな響きと、優しい憂いを帯びた歌声は彼女の詩を際立たせる。

ただ上手いんじゃなくて、すごく上手い。違いを頭でわかるような知見を持ち合わしていない私でも、本能でそう感じた。


叙情的な彼女の詩は、一見理解しがたい個人的な物を想像させる。

全ての創作物にはその人でしか知り得ないものが詰まっている。

「もっとも個人的なものが、最もクリエイティブなことだ。」とマーティン・スコセッシが言ったように、個人の物語が見える詩を、私は愛する。

そこに自分が重なると、もう運命と呼ばざるを得ないような特別な想いを抱く。

ある種のこういった才能を持った歌手は、曲を書く、詩を作るというよりも、まるでずっと昔から知っていたお話を聞いているかのような気持ちにさせる。

見たことのない景色でもかつて見たことがあるように、すっと心に馴染んでくる。

個人的なことが、共有できる親友のように。



A case of you / Joni Mitchell


Just before our love got lost you said,

"I am as constant as a northern star."

And I said, "Constantly in the darkness,

Where's that at?

If you want me I'll be in the bar."


ふたりの関係が見えなくなる少し前 あなたは言った

「僕の気持ちは北極星ほど揺るがないものだ」って

わたしは言った「暗闇の中じゃ見えない、

どこにあるのかもわからない わたしを必要としているなら、バーで待ってる」


On the back of a cartoon coaster

In the blue TV screen light

I drew a map of Canada

Oh, Canada

With your face sketched on it twice.


絵が描かれたコースターの裏

テレビのブルーの光の中

カナダの地図を描いた

そう カナダ

その上に、あなたの顔を二回描いた


Oh, you're in my blood like holy wine

You taste so bitter and so sweet

Oh, I could drink a case of you, darling

And I would still be on my feet

Oh, I would still be on my feet.


聖なる葡萄酒のように、あなたはわたしの血の中を流れてる

あなたの存在はほろ苦く、甘い

このワインがあなたなら、1ケースくらい大丈夫

酔わずにしっかりしていられる自信があるの


Oh, I am a lonely painter

I live in a box of paints.

I'm frightened by the devil

And I'm drawn to those ones that ain't afraid.


わたしは孤独な絵描き

絵で埋め尽くされた箱の中住んでる

悪魔に怯えるわたしは

そんな物を恐れない人にひかれている


I remember that time you told me

You said, "Love is toching souls."

Surely you touched mine.

'Cause part of you pours out of me

In these lines from time to time.


あなたがこう言ってたのを思い出す

「愛は魂に触れることを意味するんだ」

確かにあなたはわたしの魂に触れた

だってあなたの一部が未だに溢れ出してくるから

そういうちょっとした一言を、時に思い出してしまう


Oh, you're in my blood like holy wine

You taste so bitter and so sweet.

Oh, I could drink a case of you, darling

And still I'd be on my feet

I would still be on my feet


聖なる葡萄酒のように、あなたはわたしの血の中を流れてる

あなたの存在はほろ苦く、甘い

このワインがあなたなら、1ケースくらい大丈夫

酔わずにしっかりしていられる自信があるの


I met a woman

She had a mouth like yours

She knew your life

She knew your devils and your deeds.

And she said, "Go to him, stay with him if you can

but be prepared to bleed."


ある女性に出会った

彼女はあなたみたいな口をしていて

あなたの生き方をよくわかっていた

あなたの悪いところもいいところも知っていた

彼女は言った「彼のもとに行けばいい、できるものなら一緒にいてあげるといい。でも、傷つくことを覚悟してね。」


Oh, but you are in my blood

You're my holy wine

You're so bitter

bitter and so sweet.

Oh, I could drink a case of you darling

still I'd be on my feet

I would still be on my feet.


だけどやっぱり 聖なる葡萄酒のように

あなたはわたしの血の中を流れてる

あなたの存在はほろ苦く、甘い

このワインがあなたなら、1ケースくらい大丈夫

酔わずにしっかりしていられる自信があるの



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