第2節-F

 緑色の光の中に、一つだけ赤く光る星がある。マスターF細胞は自身の危険を察知した時、自身でセキュリティウォールを形成するのだ。故に、基本的に赤以外の一色で彩られるF細胞達の中で唯一赤に染まる。自身を守る為に。

 だが、基本的に追加のセキュリティウォールを張らない限りそのセキュリティはパターン化された脆弱な物である。そして木村のセキュリティウォールは何のカスタムもされていないF細胞であった。初期の脆弱性をそのままにしたF細胞は、いともたやすく破壊される。


 再び目を開いた時、清田の前には白目を剥き死亡した木村の骸が転がっていた。そしてその隣には、腹部を刺され傷口から血を失い続けている茜の姿があった。清田は急いで学ランを脱ぎ止血を試みたが、血は止まらない。


 「ごめんね、清田君。私の事助けようとしてくれたのに」


 「茜! 諦めるんじゃねえよ! お前がまた俺の前で死ぬなんて許さねえぞ……!」


 「もう良いんだ。私は、もう良いの」


 「何だよ、それ……! 何だよ、もう良いって……!」


 清田は救急車を呼ぶべく、スマホに手をかけた。だが茜はその手を弱々しく摑み、さらに言葉を続ける。


 「私、清田君がいてくれて幸せだったよ。ありがとう」


 そう言った後、清田を摑んでいた手は離れた。茜は力なく目を閉じ、二度と動く事は無かった。少女の顔は、月に照らされて彩られている。清田の手に握られていたスマホは地面に落ちた。そして彼は一人、泣く事しか出来ない。時間を戻そうが、彼女はやはりこの日に死ぬ事が運命付けられている。今の彼にはそうとしか思えなかった。

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