十八節、最後の仕上げ
「あそこよ」
「おおっ、すごい」
「わあ~っ!」
辿り着いた小さなお花畑には一ヶ所目よりも多くのアマニエが生えていた。 他の草丈が低いためよく目立つ。
早速先程と同様にリックスとテオルドフィーの二人掛かりで抜いてゆき、アルフェネリアは再びそれを集める係だ。 黙々と作業を続けた三人は思い思いに体を伸ばし、強張った筋肉を揉み解す。 アルフェネリアのは見様見真似だ。
「ふぅ~っ、疲れたわね」
「はい。 けどこれで十分足りそうです」
三人で顔を見合わせて笑い合う。
「りあもがんばりました!」
「偉いわ、リア」
テオルドフィーはぎゅっと抱き上げて頬と頬を寄せ合い、アルフェネリアの頑張りを称える。 今まで引き隠りに近い生活をさせられてきたアルフェネリアは、ここに来て慣れない事の連続なのに本当に良く動いている。
「後もう一頑張りね」
「はい、さいごは水ばさがしです」
日が昇って暖かくなってきた気温とこれまでの疲れで何時しかうとうとと瞼が弛み、頭が揺れ初めたアルフェネリアを見たテオルドフィーは腕に抱いたまま一旦座り、魔術具を空いた片手に取る。
その間にリックスは集めたアマニエを拾って袋に詰めていく。 アルフェネリアが集めた根は向きや位置をぴったりと揃えて丁寧に並べられているのが、性格が出ていて面白い。 几帳面で凝り性だと分かる。 何となくそれを雑に入れるのは忍びなくて、心持ち普段より気を遣って仕舞っていった。
「えーと、村の方角が初めは……此方へ下ってこう歩いて……彼方かしら?」
テオルドフィーはぶつぶつ独り言を呟きながら落ちていた枝で地面に大まかな山の全容と自分達と村の所在予想地、進路を描いて優先的に調べる方角を選択する。 地表から上空に当てて探した先程までとは反対に、今度は地表から地下に焦点を絞って水脈を辿るのだ。
「良かった‥リック、また暫く歩くけれど村へ向かう途中に恐らく、水場がありそうよ」
「やった! それじゃあさっそく向かいましょう」
今度は僅かに山を登る方向に歩く二人。 より歩き難くはなるが、ぐるりと横這いに回り込むのではなく極力真っ直ぐの近道を選んだ。 時折休憩を挟み、見掛けた野生の果実等を口に含んで英気を養う。
お昼寝していたアルフェネリアも目覚めて三人並んで下り坂を歩き始めて少し、湿り気を帯びた匂いや
「この辺りに湧き水があると思うのだけれど……、どこかしら?」
「おかーしゃま、りっく、こっち!」
アルフェネリアは迷い無く二人の手を引きながら、とてとて危なっかしい足取りで走り出す。 そこにはちょろちょろ滲み出す水溜まりと、それが幾つも集って出来た小さな川。
「あった! リアすごいな」
「りあ、しゃがしものとくいでしゅ」
「本当ね」
リックスは流れを追い駆けて作業にも支障の無い水量に増えた所で川縁に跪いて両手を洗い、待ち兼ねた勢いで掬った水を夢中になって嚥下していく。 まだ山の上方には雪が残っている位なので、下方とは言えこの小川の水もキュンと冷たい。
「っぷは~っ! あ~、生きかえったぁ~っ」
そしてついでに顔もジャブジャブごしごし洗ってさっぱりした。 その様子を見て、テオルドフィーとアルフェネリアも泥にまみれた顔や手を丁寧に洗い、水分補給する。 本当は飲用するなら熱消毒すべきと知ってはいたが、そう贅沢も言っていられない。
微かだが水と共に魔力も補給できてほっと一息吐いた。 魔素は水中に溶け易いが揮発する性質があって、大気中に永く留まることはなく直ぐに霧散してしまう。 朝の探索で見つけた泉とは濃度が違うので、川だと魔素が抜け易いのかもしれない、とテオルドフィーは脳裏に刻んだ。
その間にリックスはこっそりズボンの中から潰れた丸い革製の袋を引っ張り出して皺を伸ばし、立体形に戻していた。 厚手で持ち手の付いた筒状の袋には防水処理が施されており、余り長時間でなければ桶として使える代物だ。
普段リックスは固い場所へ座る時の緩衝や、濡れた場所へ座っても下着まで滲みない様に‥という目的を兼ねて、お尻の下に入れて持ち運んでいる。 ……このやり方は荷物を出来るだけ小さくしたかったリックスが考案したものの、特に女性陣から「汚い!」と受けが悪かった事を覚えているので、二人に気付かれない内に後ろに隠れてささっと済ませた。 それから一応下流で手早く洗って「よし」と頷く。
「手伝うわ。何をすれば良いかしら?」
「わっびっくりした~っ」
横から声を掛けると飛び上がったリックスにテオルドフィーは目を丸くする。
「あら、ごめんなさい」
「あ、いえ、すみません。 えーっと、そうですね……おれがさっきのアマニエを洗うから、それをこまかくきざんでほしいです」
少し挙動不審になりながら応えたリックスは袋に半分程の水を汲んで、出来るだけ平らで泥濘の少ない場所を選んで置く。 そしてアマニエの根を全て袋から出し、入っていた袋は中表にひっくり返した。
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