十七節、魔術で出来ること
色々と設定を変えて何度か調査したテオルドフィーは「こっちの方にあるかもしれないわ」と言って、進行方向よりも山を下る向きに進路を変更した。 足場が悪いのでアルフェネリアを抱き上げて『シルフィン』と唱える。
「今のも、まじゅつ? で、何かしたんですか?」
リックスには何かが変わっているのか全く分からない。 魔術も魔力その物も、基本的に目に見えるものでは無いからだ。
「そう、風の力で体に掛かる重さを減らしているのよ。 似た効果をもたらす重力操作の魔術も存在するけれど、残念ながら私には土の素質が殆ど無いから、そちらは使えないの」
「そしつ……じゅうりょく……?」
「りあは? できましゅか?」
リックスはちんぷんかんぷんで首を捻り、アルフェネリアは期待に目を輝かせるが、テオルドフィーは困り顔で苦笑する。
「リアにもちょっと難しいかしら。 私より素質は有るけれど……」
「えぇ~」
「ちなみに、魔術と言うのは体内に取り込んだ魔力を呪文で望む形に変えて、自分や自分の皮膚が触れている限られた範囲に影響を与えるの。 だから今使用している魔術は、こうして腕に抱いているリアには効果があるけれど、離れて歩くリックには良くも悪くも影響が無い。 魔力が多く扱いの巧い者程、より広い範囲に、より強く、影響を及ぼせるのよ。 魔術具は体外で少い魔力を操り、遠く離れた範囲に影響を拡大できる補助の優れ物なの」
「まじゅつってべんりだけど、何でもできるわけじゃないんですね」
「そう、色んな決まり事があるのよ。 ええと確か、この少し先が候補地ね。 もう間も無く見えてくる筈だわ」
テオルドフィーが指差す先に視界の開けた一帯が見えてきた。 三人で手足を広げて寝転んだら一杯になってしまう程度の狭い範囲だが、確かに日が射していて周囲よりも草花が多く生えている。
「あっ! ありました! これがアマニエです」
アマニエは隣に立つとアルフェネリアと同じ位の背丈があり、下ろして貰ったアルフェネリアはそれを「お~っ!」と歓声と共に見上げる。 陽気が暖かくなった今の時期は葉の付け根に一輪ずつ茜色の小さな花が咲いており、雪が降るようになると地上へ出ている部分は枯れてしまう為、見付けるのが困難になる。 この場に何本か生えているので、手分けして採集することにした。
「アマニエのねっこは太いのが一本、まっすぐあるだけなので、引っぱればけっこうかんたんにぬけます」
まずは一本、リックスがお手本を見せる。 腰を屈めて両手で根元付近をガッシリ掴み、細かく前後左右に揺すりながら真上方向に力を入れてぐぐっと立ち上がると、僅かな抵抗の後、ずるりと長い根が抜け出てきた。
「力はいるけど……ふんっぬぅ! ‥ほら、こんなふうに」
外見は小さな牛蒡か長細い人参だ。
「おやしゃい、にてましゅね」
「‥あ、ドクがあるから、汁がついた手で目とか口とかさわったらだめです」
アルフェネリアが手を伸ばしたので慌てて一旦遠くに持ち上げて、注意してから再度見易い位置にゆっくり戻す。
「わかったわ。 リアは私達が抜いた後、それを一ヵ所に纏めて下さる?」
「あいっ、まかせてくだしゃい!」
アルフェネリアは自分に出来る事があって嬉しそうだ。 ナイフで持ち運びに邪魔になる地上部分と尖端の細過ぎる髭根を切り落としたリックスは、そのやる気に水を指さない程度に気を付けながら上向きに開かせたぷにぷにの小さな手の平に乗せた。
「それじゃあ、はいこれ。 よろしくな。 ぜったいにはしっこはさわるなよ!」
「おててもだめでしゅか?」
「口に入ったらいたくてくるしくなるし、目に入ったら見えなくなるかもしれないってきいた。 手についたら、そっからほかのとこにもついちゃうだろ? リアはちゃんと気をつけられるよな」
「あい……きをつけましゅ」
一丁前に神妙な表情になったアルフェネリアは腕を伸ばしたままてこてこ歩いて、草の少ない地面に根を置いた後、くるりと二人を振り返って得意気に満面の笑みを浮かべる。
「その調子よ、リア。 はい、これもお願いします」
テオルドフィーは二人を見つつ、自分でも引き抜いてみたアマニエから護身用で所持していた小刀を使って余分を取り払い、根だけになった物を同じくアルフェネリアに手渡して次に取り掛かる。
ふと、アルフェネリアがじっと掴んだアマニエの根を見詰めて顔を寄せていくのが見える。 一体何をしようとしているのか。
「リア」
「う?」
「ダメ」
「……あい」
採集した根は長細い形の袋に詰め込んで、アルフェネリアとテオルドフィーの希望もあってその袋は三人で分担して運ぶことにした。 付近はアマニエ以外にも背丈の高い草が多いので見晴らしは悪いが、目につく大きく育った物は粗方収穫できたので次に向かう。 ここまで、太陽の位置を見る限りまずまず順調だ。
「まだこれだけじゃ足りないので、もう少しさがしましょう」
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