十六節、採集物の探し方

「そうねぇ、日当たり……」

「……あれ、リア?」

 気付けばアルフェネリアは頬をぱんぱんに膨らませ、眉間に皺まで寄せてむっつりと不満を露にしていた。 夜に大泣きした以外、基本的にはずっと笑顔だったアルフェネリアだが、テオルドフィーが目覚めた反動からすっかり甘えん坊モードに突入していた。

「リア、どうかして? 可愛いお顔が台無しですよ。 痕が残ってしまうわ」

 テオルドフィーがつんと眉間のシワを解すように笑むが、頑なになったアルフェネリアは視線を合わせないように顔を伏せてぷっすーと小さく唇を尖らせた。

「ふたりでおはなし、じゅぅい……」

「じゅうい……? …………??」

 初め何を言われたのか解らなくてきょとんと首を傾げてしまったリックスだったが、はっと思い至って苦笑する。


 ーーっ……ああ! ずるい、って言ったのか。


 そんな事を言う性格だと認識していなかったので、すぐには解らなかった。 年齢を考えたら甘えたい盛りなのは当たり前なのに、それを意外と感じてしまったのが可笑しい。

「わるかったよリア。 リアを“むし”したんじゃないし、リアの母さんをとったりしないよ」

 リックスは前に身を乗り出し、四つん這いの体勢で片手を伸ばしてアルフェネリアの顔を覗き込みながら肩を撫でるが、動かない、答えない。 中々頑固だ。

「リア、今は許して下さいな。 後で沢山、一緒にお話し出来ますからね。 リアがリックを見付けてくれなかったらこの出会いは無かったのですから、そんな風に俯かないで、もっと胸を張っていて欲しいわ。 リアは拗ねたお顔も可愛いけれど、母の大好きな笑顔を見せて下さらない?」

 テオルドフィーは柔らかな両頬をその手でむにゅりと包んで、結構強引に顔を上向け目線を合わせる。 アルフェネリアは「うぐむぐ‥」と言葉に成らない声を漏らした後、こくりと小さく頷いた。

「おかーしゃま、りっくおにーしゃま、わがままいって、ごめんなしゃい」

 ぺこりと頭を下げたアルフェネリアに、テオルドフィーは「いいのよ」と頭を撫で、リックスは慌てて制止する。

「リアはあやまらなくていいよ! そのくらいのわがまま、いつでも言え。 おれは言われなきゃわかんないからな。 それと……リアがおれを見つけてくれたんだな。 ありがとう。 おかげで、うちにかえれる」

「あい……どーいたましてっ」

 アルフェネリアににっこり笑顔が戻ったところで採集の続きへ取り敢えず出発することになった。 左にリックス、右にテオルドフィーが並んで、挟まれたアルフェネリアの両手をそれぞれ牽いて歩く頃にはすっかりご機嫌になっていた。

「そうだわ、この魔術具を試してみましょうか。 闇雲に歩き回るより可能性があるもの」

「それ、何ですか?」

「おはな!」

 テオルドフィーが鞄から出したのは、六枚の花弁を持つ花に似た形の透明な鉱石だ。 花弁部分はそれぞれ、赤、橙、黄、緑、青、紫、と異なる色をしている。

「方向、距離、範囲を指定して、その場所の属性強度を判定するの。 乾いたお日様が好き‥と言う事は、湿度が低い……要するに水が弱くて火と風は強いと言う事になるから、その条件に近い場所を探せばアマニエが生えている可能性も高い‥と言う訳ね」

「ぞくせい??」

「地上人は魔力を使わないから、属性についてお勉強する事は無いのかしら? 紅焔は溶岩を噴き上げ、大地は命を育み、植物は水を浄化し、海は空と融け合い、気流は稲妻を放ち、落雷は炎を上げる、と言われているわ。 色はそれぞれ、火、土、命、水、風、雷、の六属性を示しているのよ」

 テオルドフィーは赤から順にぐるりと花弁をなぞり説明するが、リックスには少々難しい。 アルフェネリアは訳知り顔で聞いているが、当然こちらも理解している訳では無い。

「ふふっ、これで見えない遠くでもどんな場所か何となく判る、とだけ思ってくれたら十分よ。 本来はこんな風に使う物では無いのだけど、十分目的に敵う筈だから、安心して頂戴ね」

「よくわかんないけど、わかりました」

「先ずは進行方向の村の方角から。 距離はそうね……百歩離れた辺りから先、同じく百歩四方程度を範囲に試してみましょう。 遠く、広くなる程に精度は落ちるから、この位から始めて絞り込んでいくのが妥当だと思うわ」

 テオルドフィーが花の首に当たる部分に唇を寄せてふぅーっと息を吹き掛ける。 すると息の掛かった部分にヒカリが拡がって、花弁の色の濃淡が変わっていく。 変化が落ち着けば測定完了だ。

「おかーしゃま、りあも」

「はい、落とさないよう注意するのですよ?」

「あい。 ね、りっく、きれーね」

 アルフェネリアは魔術具と同じ様に瞳をきらきらと輝かせてリックスと繋いだ手を引き、見上げる。 一緒に手元を覗くリックスも見た目の美しさ以外はその結果がどういう事なのか、さっぱり分からない。

「ほんとだ……フィーさん、これってどうだったんですか?」

「残念だけれど、真っ直ぐ進んだ範囲では近くに無さそうね。 もう少し先と、上の方や下の方を見てみるわね」

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