十五節、打ち合わせ

 リックスの目にテオルドフィーは随分と若く見える。 母と言うより年の離れた姉と言った方が問題なく通じそうだ。

「相談と言うのは、採集に関して?」

「りあ、りっくおにーしゃまと、かみのけ、おそろいするんでしゅ!」

「フィーさん、村によそものが入って平気かって気にしてたから、あたまだけでもそめたらいいんじゃないかとおもって。 村の人は茶色ばっかりで、だから」

 テオルドフィーは思わぬ申し出に目を瞬き、アルフェネリアとリックスを交互に見て納得の表情になる。 島では自分達のような金か銀、灰や、そうでなくても白に近い明るい色味が多かったので、リックスの鉄錆の様に濃い、暗い色は見掛けなかった。

 自分達と比べて褐色に近い日焼けした肌の色も違うし、もしも島にリックスが居たらさぞかし目立つだろう。 自分達が村へ入ればそれと同じ事なのだと十分想像がつく。

「色々と考えてくれたのね。 有難う、髪の色が染められるなんてこれまで考えた事も無かったわ。 その案に賛成よ」

「リアはおれと同じ赤がいいって言うけど、うす茶やこげ茶もいるし、フィーさんだったら‥うーん、麦色がちかいかなぁ?」

 テオルドフィーは自分の髪を掬って見て考える。 学者に近い仕事をしていたこともあって、知らない知識への興味は尽きない。 アルフェネリアに「何?」、「何故」、と質問攻めにされたり、幼いなりに色々な事を試している姿を見ると、私の娘だなと実感するのだ。

「面白いわね。 どんな色にでも変えられるのかしら?」

「なんでもじゃないけど、ちかい色なら。 元は“しらがぞめ”のやり方なんだ」

「私とリアは似た色にしなくても良いの?」

 リックスにとって不思議でないことが疑問なのは、それだけ色んな常識が異なっているのだとアルフェネリアとの会話から既に学んでいたのでただ頷いて返す。

「子どもは、おやのどっちか一色か、まだらになることもあるけど、同じになります。 だから二人だけならちがってもだいじょうぶ。 おれは父さんが同じサビ色で、母さんはクリ色です」

「私達とは色の引き継ぎ方が異なるのね。 天上だと両親の色が絵具の様に融け合うのよ。 簡単に言うと、赤と青の親からは紫色の子が生まれるの。 先祖返りで思わぬ色になる場合も稀にはあるけれど……色がどちらかに別れたりはしないわ。 リアの父親は白銀だったから、私の黄金と中間のこの色になったのよ」

「えぇーっそうぞうできないや」

 リックスは驚きを隠せず目を見開く。 何かが違うのだろうと予想していても、いざ聞けばその内容は意外でしかない。

 アルフェネリアは二人の会話に出てきた「父さん」、「父親」と言う言葉にテオルドフィーを振り返って見上げた。

「おとーしゃま?」

 テオルドフィーは曖昧に笑んでアルフェネリアの頭を、乱れた髪を鋤くようにするりするりと撫で整える。 この事を子供達に説明するのは難しい事情がある。 成人を待って‥尚知りたいと願うならば、その時は教えようと思うがすぐには応えられない。

「それは今度ね、リア。 そうね……特に希望は無いから、色はリックにお任せするわ」

「わかりました。 あともう一つ、じつは……村の方角は大まかにわかるけど、ここがどこなのか、ちゃんとかえれるかわかりません……」

 もじもじと申し訳なさそうにテオルドフィーの様子を窺いながら白状するリックスは、先程までの“自分がどうにかしなければ”と気負って背伸びする姿ではなく、等身大の子供らしく見える。 テオルドフィーはふ、と眼尻に皺を寄せた。

「それは私が補助できるから、大丈夫よ。 血が近い者の元へ導く方法があるの。 村の場所そのものは分からないけれど、ご両親が居る場所への距離と方角なら知れるわ」

 リックスは心配事が消えたのでホッと安堵の息を吐いて笑顔に戻った。

「それじゃあさっそく、のこりのざいりょうを見つけて、フィーさんとリアのかみをそめましょう!」

「ええ、そうしましょう。 一刻も早く帰して、リックのご両親を安心させてあげなければいけないもの。 後探している物は何かしら?」

 テオルドフィーの問い掛けにリックスは採集済みの袋を広げて見せて、残りの素材を挙げながら指折る。

「さっきこのパレムは見つけたから、えっとあと、アマニエのねっこと、ラピズのはっぱも。 でもラピズはかわいたらつかえなくなるし、水のちかくに生えてるからさいごにして、今はアマニエをさがしてます」

 テオルドフィーは揃えた指先を頬に添えて上品に首を傾げる。 記憶を探るように瞼を閉じて小さく「うーん‥」と唸った。

「どれも私は知らない名前ね……天上には無い植物なのか、もしかしたら呼び名が違うのかしら」

 元より植物自体を知っているとは期待していなかったリックスは生息条件を添えて助力を請う。

「アマニエはかわいたお日さまが好きなんです。 おれたちあっちは見てきたんですけどなくって、フィーさんはありそうなとこ見てませんか?」

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