二一節、目指すは村
拘束を解かれてパッと表情を晴らしたアルフェネリアは機嫌を一転させ、両手を広げてにこにことリックスを見上げた。
「うん、かわいいよ」
アルフェネリアの髪はやっぱりテオルドフィーと同じで‥いや、それ以上に透き通る様な輝きが強くてリックスと同じくすみは出無かったが、元が白に近いだけに思い通りの色に染まったと思う。 それに、思ったよりはこの色も悪くない、とリックスは自分の仕事に満足してわしゃわしゃっとかき混ぜる様にアルフェネリアの頭を撫でた。
頭がぐらぐら揺らされて髪の毛をぐちゃぐちゃにされたアルフェネリアはちょっと唇を尖らせるが、怒りを持続できない性質なのか、すぐに照れ笑いに変わる。
「後は、リックが家へ帰れるようにするだけね」
「よろしくおねがいします!」
テオルドフィーはバッグを持って来て中から円盤形の道具を取り出した。 厚みは持つ手と見比べて大体指一本半分、直径は五本指を並べた位のコンパクトサイズだ。素材は金属で出来ている。 器の様に僅かに湾曲した盤面から側面にまで複雑な模様が彫られていて、中心には小さく尖った石が填まっている。
「これは……?」
「リックのご両親を捜せる魔術具よ」
「おかーしゃま、りあもみう」
「見るだけね。 触ってはいけませんよ」
「あい」
テオルドフィーが見易い様に傾けて差し出すと、アルフェネリアは興味津々の目で覗き込み、模様を辿る。
「痛いと思うけれど、リックの血を一滴、この中心の石に付けて貰う必要があるわ。 そこから読み取った情報で血縁者を捜すの」
「わかりました」
ごくっと唾を呑み込んだリックスは少し迷った末、痛みが長引きそうな指先ではなく右手首の内側に思い切って石の尖端を突き刺した。
つぷ‥と皮膚を破る感触と共に盛り上がった血はそのまますぅっと石に吸い込まれてゆき、無色透明だった石が紅い輝きを放つ。
「わっ……!」
「ふわぁ……っ」
驚いて手を引いたリックスは左手で傷口を抑え、胸の前に上げる。 小さな傷だからすぐに出血は止まるだろう。 そして石の発する光が盤面に染み込んで、模様の所々を浮かび上がらせる様を驚きと共に見詰める。
「良かったわ、そんなに遠くないみたい。 こちらの方角よ」
テオルドフィーは浮かび上がった模様を見つめたまま体の向きを変えて歩き出す。 それをリックスとアルフェネリアも慌てて追い掛けた。
「はい……!」
ーーリックは“
「‥さん、フィーさん!」
「……っ?」
くいっと腕を引かれてテオルドフィーは漸くハッと顔を上げ、立ち止まって引かれた腕の先を振り返る。 そこには心配と呆れを滲ませたリックスが眉根を寄せて見上げて居た。 隣のアルフェネリアも不安顔だ。
「ぼんやり歩いたら危ないです」
「おかーしゃま、だいじょーぶでしゅか?」
リックスが指差す先に視線を移すと、前に出した足が浮いている木の根の寸前にあるのが見える。 このまま進んでいたらテオルドフィーは無様に転んでしまったことだろう。
「あ、ありがとうリック……癖で、考え込んでしまったわ。 気を付けなければいけないわね。 リアも、心配させてご免なさい」
続けて「……恥ずかしいわ」と独り言を呟いたテオルドフィーは熱くなった頬に手を添えた。 正に先程自分の考え込んでいた内容が胸に刺さる。
乱反射する“
テオルドフィーは赤面した顔を隠すようにしているが、初めて見せる“母親”の顔では無い、娘らしく照れた様子にリックスの胸がきゅんと高鳴り、不思議な感覚に胸を抑え首を傾げる。
何やらそわそわモジモジしている二人の様子を見比べたアルフェネリアは「もうっ」と母親の如く大人びた表情を浮かべて両手を腰に当てた。
「ふたりとも、おいてきましゅよ!」
「あ、はい! ‥じゃないや、行くよっ ……行きましょう、フィーさん」
「ええ、そうね、行きましょう。 足を止めてしまって悪かったわ」
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