第11話 ゆうべはお楽しみでしたね?
朝、自室のベッド。
俺は小鳥たちのさえずりで目を覚ました。
自然に眠ったというより、半ば気絶状態だったため目覚めはよろしくない。
ナニか根元からふにゃふにゃになったような酷いだるさがある。
出してないのに出し切ったような変な気分だ。
かぶっていた毛布をあげた
上半身は裸である。
下半身は……ズボンを履いたままであった。
母さん……ワシ……ワシね……間違いは起こさなかったよ?
涙がほろりとこぼれて嗚咽が漏れた。
口元を押さえながらエンエンと泣いて右肩に感じる重さに目を向ける。
毛布から見える細い肩は実に健康的である。
昨夜の妖艶さなど影も形もない赤毛の美少女が、俺に緩く抱きつき穏やかな表情で眠りについていた。
TSサキュバスのアユム/カーミラ君だ。
その顔色は昨日とはうって変わって活力にあふれ、どうやら俺からの魔力補給は上手くいったようだ。
昨夜、カーミラからサキュバスの吸精方法には二つあると言われた。
極々一般的な青年男子がイメージする凸と凹を熱烈合体させるエロ漫画な手法と、裸で抱き合うけどなぜか最後まで行かない鈍感系主人公ラブコメな方法である。
ようは致さなくても、肌を接触させているだけで魔力の受け渡しは可能らしい。
ただデメリットとして、その場合は時間がかなりかかる……それこそ一晩抱きしめあうくらいに……。
『キスするのと手をつなぐの……恋人同士でどちらのほうがより親密になれるかしら?』
カーミラさんが妖艶に微笑みながらレクチャーしてくれた。
なるほどと納得してしまったのは俺が童貞だからだろうか?
悩みに悩んで生殺しになる方を選んだ。
添い寝中、カーミラが誘惑するように俺の背中を撫でまわす。
しかもサキュバスの特性なのか、男の欲望を煽るほのかな甘い香りと、絹のような手触りの肌に何度も挫けそうになった。
耐えるために思い出したのは……そう、前世で鬼畜エロゲマイスターイズミにハメられた鬼畜動画事件のことであった。
大学に入ってすぐ、加入した漫研でイズミがお近づきにと俺に渡してくれたデータディスク。
それは厳選エロティック動画集。
まだ世間の厳しさや汚さを知らなかったピュアでチェリーな俺は、イズミの
想像以上のブツだった。
ただ素晴らしいの一言であった。
かゆい所に手が届くベストシーンなセレクションにヤンチャな息子も大はしゃぎ……俺はイズミを永遠のベストフレンドにすると心に決めた。
しかしそれこそが鬼畜エロゲーマイスターの罠であった。
奴は動画の最高の見どころを、最高の盛り上がりどころを、マッチョ兄貴に差し替えてぶっこんでいやがったのだ。
恐るべきことに、俺の発射タイミングを狙い撃ちしてだ……‼
俺の
熱いぶっかけを受け止めた、あの頼もしくも素敵な笑顔が未だに忘れられない。
あの野郎に下手したら人生の価値観が変わりかねないほどのトラウマを植え付けられたのだ。
それ以降、鬼畜エロゲーマイスターとは、互いの足を引っ張りあい罵りあう醜い戦争状態に入っていて……というか変な感じでベクトルが反転しているだけで奴のやってることは今も対して変わりなくないか……?
まあ、そんな悲しい体験ゆえに、カーミラと致している最中に前世イケメン武人顔なアユムでも思い出したら二度とおっきき……じゃなくて勃ち直れなくなる可能性があるって、その恐怖で耐えることができたのだ。
「んんっ……」
甘いと表現できる寝起きの声に、思考を中断する。
俺の肩に頭を乗せていたカーミラ……いや、アユムが目を覚ましたようだ。
なぜアユムと分かったかって?
俺の顔を間近でしばらくぼうっと見つめ。
「…………⁉」
驚いたように目を見開き、それから真っ赤になって汗をぶわっと吹きだし、なにも言わず無言で背中を向けたから。
カーミラならセクシィに微笑んで、抱きついて頬ずりとかしてきそう。
TS少女アユム君は顔を毛布で隠し「んー‼」と悶えるように細い美脚をバタバタさせている。
薄い背中にかかる綺麗な赤毛が踊って、ぷりんっとした小さな桃尻が丸見えであった。
しかし、そんなエロゲー的イベントにも俺は動じない。
今はおっききどころか欲情もしない超賢者モード。
たぶん、魔力を提供するのに、全裸のカーミラに抱きつかれ吸い尽くされたからだろう。
まあ、それはそれとして何となく予想はしていたよ?
アユムにカーミラとしての記憶があるってこと。
常識人のアユムとしては昨晩のことは一生の恥だよね?
俺としては見た目は一級品の美少女と地獄の一晩だけど、お前にしてみれば男同士で肌と太ももすり合せる地獄の一晩だしな?
「あーうー! うー‼ うー‼」
おいおいアユム、あまり暴れると具が丸見えになるぞ?
でさ、この初エッチした後みたいな変な雰囲気……誤解されるから、本当にそろそろ止めようぜ?
そんな俺の願いもむなしく、アユムはうーうー言うだけの人になっていた。
それからしばらくして落ち着いたのか、赤毛の少女は毛布を胸元に抱き寄せてベッドの上で女の子座りをしている。
俺の顔をまともに見れないのか、恥ずかし気に横を向いているのが実に初心な女の子らしく……うん、藪蛇になるのでこれで止めておく。
「す、鈴木……さ、昨晩のことはさ、犬に噛まれたと思ってあきらめるから……あーそれとその、色々と助けてくれてありがとう」
「おう」
俺は刺激しないよう真面目にうなずいた。
武人アユム君のメンタルは意外とカスい。
また、うーうー言い出したら面倒だからね。
「あれは魔力補充のためには仕方なかったことなんだよね?」
「おう」
「あ、うん……でも、僕としては、相手がお前で良かったと思う」
「おう?」
「あ……ち、違う! 勘違いするなよ⁉ 見ず知らずの男と寝たくないし、消去法でお前って感じだから‼」
「お~う?」
「べ、別にお前のことが嫌いってわけでもないんだけど……どちらかというと好ましい……あ⁉ え、ええっと……好ましいというのは人としてという意味で、そう、変な意味じゃなくてだなっ⁉」
「おおう……???」
いつもは冷静なアユムが見事にテンパっている。
うん、心配せんでも君がノーマルだと知ってるよ。
そんな俺の思いをよそに、アユムは大きな瞳を忙しなくキョロキョロと動かし、休む暇なく狙っているのかと思えるようなドツボ発言をし続けていた。
つんでれ?
中身だけを考えると腐女子大歓喜なシチュエーションでしょうか?
いや、イケメンとはいえ女受けの悪い武人顔……しかも相方は異世界でもトップクラスのキモメンだぜ?
需要あるかなぁ……?
「あー、アユム、言いたいことは分かってるから大丈夫よ、変な誤解もしないからさ」
「うぅ、本当に?」
「ほんとほんと、お腹もすいたし、とりあえず部屋でようぜ?」
「うー……分かった」
紳士的に背を向けた俺が促すと、アユムはベッドから降りてごそごそとやりだす。
「鈴木、服着たよ」
「おう、じゃあ静かにでるぞ……なにもやましいことはしてないけど、ほかの連中に見つかると面倒なことになりそうだからな……」
「あー……あはは、確かにそうかも?」
俺とアユムは苦笑いした。
そう、やましいことはナニもしてないが、こんな所を白黒エロフコンビに見つかればどんな誤解が生まれ、どんな愉快な解釈をされ、どんな楽しい修羅場に発展するかは想像するに容易い。
特にカオルに見つかるのは不味い気がする。
あいつに関しては今だ底が見えず予想がまったくつかない。
結果が表か裏の両極端になる気がして……。
やましいことはなにもないが、部屋のドアを静かに開ける。
やましいことはなにもないが、中腰になって、扉の隙間からうかがうように部屋の外を覗く。
……でっかいおっぱいが見えた。
胸元を強調するロングスカートのドレススーツ。
清楚さとチラリズムの共演。
最近、彼女が良くする服装である。
質素な色合いの隣のお姉さんっぽいスタイルは俺の好みだ。
乳肉をもちあげるように腕を組んでいるので余計に巨乳が強調される。
乳房の深い谷から、視線を上に向ければ彼女の顔がのっかっていた。
白銀の髪と褐色の肌、紫水晶色をした切れ長の瞳。
笹の葉のような長い耳がゆるゆると上下し、そして黄金比の美貌は……優しく、こちらを見て、微笑んでいた。
扉が、ぎぎぎ……と静かに、触ってもないのに開いていく。
恐れるな勇者よ‼ やましいことはナニもしていないのだから‼
「ゆうべはお楽しみでしたね?」
俺は土下座した。
◇
俺とアユムを待っていたのは、カオルだけではなくイズミもだった。
二人の足と足の間から顔を覗かせた魔女がニヤニヤしていやがる。
コノヤロウって睨みつけてやった。
「くひひひひひ」
更に笑われた……。
魔女は嘘をつかないが人を騙す……俺はまんまと幼女に一杯食わされたわけだ。
まあ、確かにこれは苦難の道だわなぁ……。
俺はやましいことはナニもしてないけど正座したまま必死に言い訳……いや事情を説明した。
しかし、もう一人の当事者であるはずのTS少女アユム君は何故か一切の弁明をせず、俺の背中に寄り添うように隠れて、俺のシャツをキュとつかみ恥ずかし気にうつむいている。
おい、止めろ馬鹿⁉
なんでそんないかにも事後ですって勘違いさせるような仕草をしてるんだよ⁉
焦る俺、気がついたらいつのまにか、顔の前にイズミの太ももがあった。
白エロフは腰に手を当てて至近距離で俺を見おろしている。
ミニスカワンピースから伸びるしなやかな足とその根元にチラチラ見えるのは
ビッチ臭漂うエロフは大きく腰を曲げて前かがみになると、俺の首元に顔を近づけクンクンと犬のように嗅いをかぎだした。
イズミの体から漂うなんだかよく分からないけど良い匂いと、重力に従うおっぱいのたぷたぷした動きに少しだけ鼻が伸びるのは男としての致し方ない生理現象で……アユムに脇腹を強く抓られた。
なんなのさ君さっきから⁉
「はい、童貞ですね‼」
長耳をぴんと立てた白エロフに判定された。
清楚系ビッチは頬を染め、美麗な鼻を得意げにスピスピとさせている……ビッチだと匂いで童貞がわかるのですか?
イズミの言葉に魔女が深いため息。
なにやっているのコイツ的な感じだ。
状況を全く飲み込めないハテナの俺とアユムに、カオルが困ったように微笑んで説明してくれた。
「ごめんねアユムちゃん。アユムちゃんの事情はポーちゃんから聞いてたし、ヒイロがアユムちゃんに手をだしたのなら、私たちも遠慮する必要がなくなるかなって少しだけ期待していたの……でもヒイロの忍耐力は想像以上だったね?」
「忍耐力ですか? 違いますよカオルさん、ヒイロの場合はそのような上等なものではなく、ヘタレなだけですよヘタレ……このヘタレイ〇ポ野郎っ‼」
「ワシの裸を見てもおっききしなかったし、ひょっとして男としての機能にナニか問題があるんじゃなかのうか? どれ、念のため、わしがナニを診察してやろうか?」
言いたい放題だなお前ら。
というか色々な意味で酷いし、おかしいぞ‼
「ま、まあ……そういうことなら……ヒイロとそういう関係になるのは少し嫌だけど別に、うん」
アユム君⁉
きみ、怖いこと言いながら、なんで頬染めてるの⁉
それから俺は公平を期すため、四人の女と日替わりで添い寝することになった。
もちろん、アユムは魔力補充のため定期的にベッドを共にする必要があるけど、他の者はその必要はないはずと反論した。
「あれあれ、ヒイロさん、私たちを拾ったお人形さんのように飾ったまま、お婆ちゃんにするつもりなのかな? 男としての最低限の責任は取って欲しいなぁ?」
「そうそう、わたくしはアナタに体を買われた、アナタの女なのですから……もちろん、わたくしから手をだすつもりはないですよ?」
「ワシは、出すものさえ出してくれればそれでかまわんのじゃ、仮に子供ができたら自力で育てるしのう、くふふふふふふ」
「ええっと、みんなが決めたルールなら僕もそれに従うよ?」
「あの……わたくしめの意見は?」
四人の女に無言で見つめられ、俺は土下座という名の防御姿勢をとった。
なにかしらこの威圧感は⁉
世の中のハーレム主たちは一見ブイブイと好き放題しているように見えて、裏ではこのように女たちから脅迫されて胃が痛くなるような毎日に耐えているのだろうか……すげえよ奴らマゾなの?
それから数時間にも渡る話し合いと泣き落としの末、俺は安息日を勝ち取ることに成功したのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます