第4話 砂漠のオカン

(スフィンクス視点)


俺は本当に優しいスフィンクスだと思う。


とりあえず冒険者…キンカというらしいそいつが泣き出したことでパニックになった俺はキンカを落ち着かせることに専念した。


別に俺がほんとは優しいからとかじゃなくて、こんな奴に会うのが何十年単位で久しぶりだったから対処に困ってしまっただけだ。


「…ところでお前それ150年前以上の地図じゃん」


「道理で全然あてにならないと思いました…」


ていうかそもそもの話、この広大な砂漠でちゃんとモンスター分布まで記された地図を使えば大体の生息地が固定されている俺のようなモンスターとは出会うはず無かったのだ。


あ、俺が生息地を固定しているのは、単純に面白い人間だけと出会うようにしたいから。


面白い話を持つ人間は大概普通の奴とは違う思考を持っているため、わざわざ此方のいるルートを使おうとする。


…この砂漠の都市と隣国への最短ルートにしてるのは別に人間への嫌がらせとかじゃないぞ。


たかが少し知能の高いスフィンクスだと侮って最短ルートを通ろうとする馬鹿を喰らうのも悪くないなんて考えてないったらない、嘘ごめんある。


ああいう奴らも単純に襲っていたぶるのが愉快だからたまには来て欲しい。


でも、たまに本当に道に迷って、とか本当にここにスフィンクスが住んでいるのを知らなくて、とかそういう奴も昔は来なかったわけじゃない。


だけど活動初期の頃だけだったぞ、流石に…。


それにたとえ地図を持ってなかった奴だって、何処かしらで「ヤハのオアシスにはスフィンクスが住んでるから注意しろ」って聞くレベルには俺有名だし…。


どこか相当に情報が隔絶された村に住んでるらしい。このキンカって奴は。


「ひっ、うぅ…食べないんですよね?本当に僕殺されないんですよね…?」


「あーはいよしよしよし。ほら、砂漠の夜は寒いだろ、もっと寄って大丈夫だぞ」


ところで八つ当たりのように俺の毛をモフモフと触っているこいつは、臆病なんだか図太いんだがどっちなんだ…。


触るのを許可した覚えはあるが、ここまで大胆に触るなんて予想外だぞ。


「あっ、おい首の毛はダメだっつーの!おい!!そこもだめだ!!ぁっう"なぁぁぁぁぁぁ!!」


ネコ科特有の鳴き声まで出ちゃって割と恥ずかしさで泣きそう。


ネコ型モンスターは割とどんな奴でもあるポイントを撫でられるとうなーうなーと鳴いてしまう。


あーもー、ほんとどーしよっかなコイツ。


咄嗟に首を振り回して投げ飛ばしたい衝動に駆られながら、一度約束したら撤回したことのない俺は懸命にそれを抑えながらため息をつくのだった。


別に明日になったら普通にここから通してやっても良いけど、地図がポンコツな辺り絶対他のAランクモンスターにぶち当たって殺されそうなんだよなぁ…。


この時点で今晩は護衛をしてやろうという思考になっていることには気付かない。


…明日安全な場所まで送っていくか?死なれたら寝覚め悪いし…


スフィンクスから逃げられたのにサンドゴーレム辺りに殺されたら俺が弱いみたいになるしな!うん、そう考えれば別におかしい考えでも無いんじゃないか?


不夜のスフィンクスは知らない。


彼のこういうなんだかんだで「考えなしの馬鹿以外には優しい」ところから、『不夜のスフィンクス』以外にもう一つ名前を付けられている事を。


それが『オカンのスフィンクス』だと言うこともーーーー。



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ちなみにオカンのスフィンクスという名前をつけたのは何十年前かにキンカと同じ目にあった人です。



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