第2話 自己紹介
詳しい話は宿屋で、という事で彼女が贔屓にしている宿へと向かう。
ギルドを出る時に、一部始終を聞いていたらしい他の者達が一斉にこちらを睨みつけて来た時は生きた心地がしなかった。明日辺りに夜道を歩いていたら背中を刺されるかもしれない。
宿屋に向かう途中の表通りを歩いていると、通りに面している店から良い匂いが漂って来た。
そんなわけだから、空腹に意識が向いてしてしまうのは仕方のない事で……。
ぐーきゅるるるる。
「うぅ……」
そんな風にお腹の鳴ってしまうのだった。
「む? なんじゃ? もう昼時じゃろう。飯はまだ食っておらんのか」
「恥ずかしながら、一日一食が常な物で、夕食にまとめて食べます」
「ふむ、何か頼むかの。ここの宿の主人が作るものは、絶品ばかりじゃ。堪能するがいい」
「あの、お金ないです」
「童が奢ってやる。紹介料じゃ」
「そんな、悪いですよ」
「何じゃ、童の善意は受け取れんと言うのか?」
「そういうわけじゃないですけど……」
知合ったばかりの女性剣士に詰め寄られて僕はたじたじになってしまう。
「あ、そういえば……。まだ自己紹介してませんでしたよね」
「ああ、童という事がうっかりしておった。すまんの」
手のひらを打って、気が付いた様子のその人は、腰に手をあてて仁王立ちのポーズをとる。
そして、わずかに胸をそらして、張りのある声を亜中から出した。
「童の名前は、アルシャード。アルと気軽に読んでくれても構わぬぞ」
「アルシャードさんですね。えっと、僕の名前は、サイラです」
「ふむ、サイラか。なんか災禍とか読めて災いの言葉っぽく聞こえるのう。貧乏そうな人間の、いかにもな名前じゃ」
「そんなぁ」
名前まで貧乏だと言われるとさすがにショックだ。
最初からショックだったが、両親からもらった名前を貶されるのと、そうじゃないのとじゃワケが違う
肩を落としていると、アルシャードさんに笑われた。
冗談だったようだ。
「そんな顔をするでない。サイラ。ふむあれじゃ、ちょっとか弱い女性の名前にも思えなくはないぞ、男なのじゃから元気を出すがよい」
「はい……」
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