新幹線通学
定食亭定吉
1
いつの日か仲良くなる天一(てんいち)と又一(またがず)。きっかけは体育の柔道の乱取りで試合をしてからだ。
「あーんしてあげる」
「えっ?」
母親に作ってもらった卵焼きを天一の口に入れる又一。まるでカップルのようだ。
晩秋の昼休み。ベランダで冷え込みを感じる。
「今日はバイトだよ」
天一はぼやいた。
「何のバイト?」
「流しそうめんのバイト」
「変なバイトだな。何するの?」
「ひたすら、そうめんをレーンに流していく感じだよ」
「時給いくらなの?」
「1000円」
「それで1000円?」
「でも四時間、そうめん流すの辛いよ」
バイトの話で盛り上がる二人。
「少しは親の負担も軽減できるから、メリットはあるけれど」
天一の弁当は、そうめんが主食。
「偉いな」
感心する又一。
弁当を食べ、容器を閉まった二人。立ち上がり、校舎を見渡す。数人、派手な男子のグループがサッカーをしている。
「モテたいな」
彼らの姿を見てぼやく又一。
「夢だね」
諦めぎみの天一。
「いやー、君ならモテるだろう?カッコいいし」
天一を賞賛する又一。天一はイケメンのソース顔。外国人に勘違いされるホリの深さ。
ベランダから教室へ戻る二人。
「アブね!」
天一はバナナに滑りそうになった。
「あ、すいません。バナナの皮、落としていたの気付かなかったみたいで。」
クラスメートの女子の木口の肉声を初めて聞き、顔をまともに見る。元のパーツはいい。股間が反応する天一。彼女は地味で大人しいタイプ。教壇から一番遠い、列の最後尾の席。そして、いつも一人でいる。
「平気だよ。それより、いつも一人なの?」
天一は木口に話しかける。
「はい。そうです」
「いや、タメ口で話しなよ。よかったら、今度、俺らと昼飯、食おうよ!」
思わず言葉が出た天一。
(翌日)
化粧をバッチリし、軽く茶髪にして登校した木口。
「えっ?」
驚く天一。
「今日、一緒にご飯、食べようね!」
明るくなった彼女。
「うん」
それしか返答しようがない又一。
普段は長く感じる授業が早く感じた。
(昼休み)
三人しかいないベランダ。晴天に恵まれている。天一を真ん中に木口と又一で囲む。体を密着させる木口。
「そういえば、どこから通学しているの?」
彼女の情報に乏しい天一。
「小田原」
「マジで?遠いねー」
「新幹線だから。そうでもないよー」
彼らが通う高校は品川区に所在する。
「そうかー」
「今日、金曜だから、帰り新幹線でどこか行かない?」
「えっ?二人で?」
「嫌なら、彼も連れてさ」
又一を指差し言う。
「えっ?まあ、金を出してくれるなら、でもまた、月曜日、学校だぜ」
「いいでしょう。そしたら、また、一緒にお昼、食べられるから」
「そうだねー」
「宿はどうするの?」
「じゃあー、私の家にお泊まりしなよー」
キラキラした目で言う木口。
「わかった。まあ、二泊三日の小田原旅行というわけねー」
「そうだねー!色々と楽しみね!」
意味ありそうな木口。
更なる夢を叶えるため、旅立った一同。かまぼこの残りカスのような又一と、ピンク色に輝くかまぼこ、木口と天一だった。
新幹線通学 定食亭定吉 @TeisyokuteiSadakichi
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