第二章―② ネズミとプール

 かちゃり、と扉が開いた。

 音がした方を振り向くと、入ってきた扉と近い別の扉から、ウサギ耳の青年が現れた。まるで結婚式の新郎のような真っ白い燕尾服に、相変わらず白いウサギの耳を着けている。手には真っ白な手袋と、豪奢なくれないの扇子。前から見ると、背が低い上に小太りに見える。なんだか気の弱そうな目がおどおどと、眼鏡の奥で揺れている。

「…公爵婦人まで待たせて。どうするんだ…」

 声は相変わらず小さくて、言葉は全部聞き取れないけど。

 やっと近くに寄れた。

「あの、すみません。」

 これで話し掛けることができる。

「っ!!」

 誰もいないと思っていたところにいきなり声が掛かったからか、ウサギ耳の青年はビクリと身体を跳ねさせ、声にならない叫びを上げて。バタバタと。

 まだ開いていた扉の向こうへ、走り去ってしまった。


 ばたん、と扉が閉まった。

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