第一章―⑤ ウサギと階段 

 果たして、金色の鍵はピタリと合い、小さな扉は静かに開いた。扉から入り込む風は、わずかに緑と花の優しい匂いがする。しゃがんで覗き込むと、紅の薔薇が咲く、美しい中庭が見えた。しかし、

「…出られない、よね。」

 猫用や犬用の扉を思い出す。人間では到底通ることができない、彼らのためだけの特別な扉。

「本来なら、この横の扉から行けるんだろうけど。」

 隣にある、鍵のかかった大きな扉を見上げる。あのウサギ耳の青年は、鍵を持っているのだろうか、どの扉に入ったのだろうか。

 もう一度だけ庭を覗き、諦めてテーブルに戻る。後ろで静かに扉が閉まる。


 テーブルの上には、きれいな色の小瓶があった。『Drink Me』と書かれたタグが結ばれている。

 さっきもあっただろうか、気付かなかっただけだろうか。

 靄がかかったままの頭に様々な考えが浮かんでは消える。

「でもこの瓶は、見たことある気がするな。」

 小瓶を手に取り、蓋を服の上から掴む。固そうに見えた蓋は、意外と簡単に開いた。思わぬ手ごたえの無さに、掴んでいた服に少し中身がかかる。

 そっと瓶の中身を嗅ぐと、甘い。表面に小さな粟粒が浮かんでは消えていく。一口飲むと、

「…ソーダ?」

 よく知った味がした。小さな小瓶の中身は、すぐに空になった。


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