第一章―④ ウサギと階段 

 扉の先には、縦長の真っ白なホールが広がっていた。低い天井からは明るいライトが一列に下がっていて、ホールを照らしている。

 白い壁の傍には白い柱が幾本も立っていて、柱と柱の間にはそれぞれ扉が並んでいる。

 後ろでパタン、と入ってきた扉が閉まる。ウサギ耳は見当たらなかった。


 この建物はなんだろう。ここだけ見たら大きな洋館のようだけれど、そんな洋館、学校の傍にあっただろうか。

 ゆっくりと、扉を一つずつ押したり引いたりしながら、ホールを一周する。開く扉は一つも無かった。入ってきた扉でさえ、もう開かなかった。

「そんなことある?というか、こんな光景、何かで…。」

 階段を降り始めてから、なんとなく頭に靄がかかっているような感じがある。


 思い出せない何かを必死に手繰り寄せようとしながら、再びホールをゆっくり歩き出すと、中程に小さなガラスのテーブルがあるのに気付いた。テーブルの上には、金の鍵。まるで物語に出てくるような、古風な鍵がそこにはあった。

 小さな鍵を片手にしっかり握りしめ、もう一度ホールを一周する。けれど、開く扉は一つも無い。そもそも、この鍵が合うような鍵穴が一つも見当たらなかった。


「待ってたら、ウサギ、戻ってくるかな…。」

 小さなテーブルに手を突き、そっとこぼす。それまで何も考えずに進んできた分、進む道が途絶えたことが思いの外堪えた。

 その時、視界の端に白ではないものが映った気がして、そちらを見る。

 テーブルの傍の柱の陰に、深紅のカーテンがかかっていた。それまで扉にばかり気をとられて、気付かなかったらしい。

 そっとカーテンを捲る。ぱっと見なにも無いように見えたが、よく見ると足元に小さな扉が見つかった。紅い扉には古風な、金色の鍵穴。

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