第一章―⑥ ウサギと階段 

「…あれ?」

 大きい。

 周りが大きく見えた。低かった天井は高く遠くにあり、小さかったテーブルには到底手が届きそうにない。

 まるで自分が小さくなったかのように。白いホールは大きく見えた。


 はっとして、深紅のカーテンに駆け寄る。不自然に重く感じるカーテンを必死に除けると、大きく紅い、閉じた扉があった。押しても引いても開く気配は無い。入ってきた扉と同じように、一度閉じたらもう一度鍵で開ける必要があるらしい。

「家のゴミ捨て場の扉と同じ仕組みだ。」

 どうでもいい感想がぽろりとこぼれた。鍵は手元にない。大きく見える鍵は、手の届かない高さに、ガラスのテーブルの上にあった。

「ポケットに入れておけば良かった。」

 思わず、不貞腐れた口調になる。

 届くはずがないと思いながらも、何とか上に登れないかと、テーブルに近づく。


 今度はテーブルの下に、ガラスで出来た大きな箱。いや、本来なら小箱なのかもしれない。中にカップケーキが入っていて、色とりどりのチョコスプレーで『Eat Me』と書かれている。

「これは絶対無かったはず。あったら蹴ってるし。」

 不審には思うけど、カップケーキはお店で売られているようにちゃんとした出来で、とても美味しそうに見える。

「…甘いものって、頭を活性化させるよね。」

 不信感への答えになってない、と心の中で自分自身に突っ込みながらも、ガラスの蓋をそっと開ける。甘くて香ばしい、お菓子屋さんの匂いが溢れる。

「せめて一口。白雪姫ならともかく、リンゴじゃ無いし、大丈夫。」

 白雪姫じゃないなら、なんだっけ。

 何かが頭をかすめたけど、すぐに思い出せなくなる。甘味が頭をすっきりさせてくれるかも、と淡い期待を抱きつつ、柔らかいカップケーキを頬張った。


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