第6話

懐中電灯でよく見てみると、戸と横の壁にU字型の器具が打ち込まれており、それをチェーンで繋いで南京錠でとめていた。


つまりもともと鍵のなかった戸を、後からチェーンと南京錠で開かないようにしたものだと思われる。


しかしこの完全放棄状態のこの家において、何故ここだけわざわざあとから開かないようにしたのか。


俺は南京錠を見ながら考えていたが、ふとその南京錠が思いのほか錆び付いていることに気づいた。


ためしに南京錠を思いっきり引っ張ってみた。


すると南京錠は少し抵抗しただけで、あっさりと壊れてしまった。


俺はチェーンをはずすと中に入った。


入るとずっと閉め切っていたせいか、かなり湿気ていた。


いや、湿気ているだけではない。


なんだか部屋全体の空気がどんよりと重いように感じられたのだ。


そして部屋の中には何もなかった。


押入れも空けてみたが、やはり空っぽだ。


ここ以外の全てがなにもかもそのままという風なのに、この部屋だけがきれいさっぱり何もない。


――ここだけ使っていなかったのか?


でもここは一家四人、父親と母親と子供が二人住んでいたはずだ。


右の部屋にはベッドは一つしかなかった。


そうなるとこちら側にベッドがないのは、不自然だ。


考えながら部屋の中をうろうろしていると、右足で何かを踏んだ。


硬いような柔らかいような感触で、土踏まずの部分よりも少し大きめの、それほど厚みがないもの。

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