第5話
テーブルの上には腕時計と、蓋を閉めているせいか中身がまだ残っているお酒の壜があった。
古すぎてなんだかよくわからない電化製品とか、まだ何本か残っているタバコの缶も。
台所には食器がそろい、風呂場には手ぬぐいが三本掛かっていた。
本棚の本はほぼ満杯で、見たことがない造形の人形が床に立っていた。
つまりはどう考えても、この一家は何も持たずにこの家を離れたとしか思えないのだ。
通常の引越しであれば残しておくはずがないようなものが、のきなみそのまま残っているのだから。
俺は子供のころに読んだ幽霊船の話を思い出した。
――なんやここは?
なにか忌まわしいいわくでもあるのか。
それで大人たちはここに近づくなと言っているのか。
そんなことを考えているうちに、一階を全部見終わった。
俺は狭くて急な階段を登った。
二階は二部屋あった。
まず右の部屋を見た。扉は開いていたので中に入り、懐中電灯で照らした。
狭い部屋の中にベッド、学習用と思われる低い机、そして教科書や文房具までそろっている。
壁には俺の知らないマンガのキャラクターのポスターが貼ってあり、本棚の上にレコードが三枚ほどあった。
ここも何ひとつ持ち出さないままのように見えた。
部屋を出て、今度は左側の部屋に入ろうとした。
引き戸が閉まっているので開けようとしたとき、南京錠が目に入った。
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