宝物庫


「あ~、行っちゃったねぇ」


 まさか同僚である四天王夢幻泡影ロゥタルと同じように私の記憶を覗く能力を持つ魔族に合うなんて思ってなかったよ。

 しかもネームド。

 何かいるのは知ってたけど楽しくて完全に油断してた。

 強化魔法での防御が遅れてほんのちょっと痛くてムッとしたかな。


 にしても助かったぁ~。

 危うく……いや、見られても良かったかな?

 感覚としてはリーズの日記の内容の殆ど見られたくらいだし、もしかしなくても使い魔辺り使って私の記憶を覗こうと目星つけてたのかな?

 それに、全ての記憶を覗かれようが恥じるべか記憶なんて一切無………くもないけど、7歳の子供が漏らしちゃうなんてヒューマンじゃザラだし子供の頃の話だよ、恥じることなんて無い!無いったら無い!


 しかし、無理矢理やられたから頭が痛むなぁ。

 神聖魔術なんて弱い魔術をここじゃまともに使えないからずっとジンジンして痛い。

 神聖魔術は魔法じゃ再現できないムカツク。


 けどそれよりも……


「……どうする?続けるの?」


「この状況でそんな事する程この二人も馬鹿じゃないから大丈夫だよ」


 そう言いながらポンっと私の頭に手を置いて撫でてくる。

 か……固い。

 手を握られてた時も思ったけど固すぎでしょ?


「ほんっと頭固すぎよねアンタら」


「……チッ、うるせえよ裏切り者」


「マルク、今はそんな状況じゃないだろ。

 それに、ブランディスはサルタナを最初にヒューマンと言った。

 ドラゴニュートでも魔族でも無くな」


「確かに気になるがそれこそそれどころじゃないだろこの根倉野郎!」


「は?もう一度言ってくれないか?」


「………無様」


 マルクとゴルドの様子を見てつい小声で呟くと睨まれた。

 それを無視して檻に近づき歩きながら調べてみる。


 私が調べてると興味深げに後ろを付いてきてた幻狼が口を開く。


「その檻は私の知る限りブランディスの得意技で炎なんかの属性の複合なのは分かるんだけど何の属性が混ざってるか分からないのよね」


「あ、うん、それは分かるんだ。

 私もこの炎、水、土、風の4複合属性魔法は使えるし」


「4属性!へぇ、驚いた。でも反発しないの?」


「ううん」


 基本複合属性は2属性までだからね。

 有利、不利な属性同士は反発してしまう。

 けどさせない方法がある。


 私はマジックボックスから布2と石を1つ用意する。


「こうやってくっ付けても反発しない属性で包んで、その上にまた反発しない属性を包む。それを繰り返して完成っと」


「へ~、凄いね」


「よっと……やっぱり触れたら反撃してくるタイプの魔法か」


 適当に投げてみたんだけど2枚の布ごと包んだ石が消滅した。

 やっぱり強いね4属性。


 でもこれ無詠唱じゃ無理でしょ。

 恐らくだけど分割思考を使ってるよねこれ。

 あれ私も使えなくないんだけど頭痛くなるからやりたくないんだよね。


「うん、どうにかできそうだよ」


 放っておいてもこの場所の性質上ほっといても30分もすれば消えるだろうけど、あの悪魔系魔族に良いようにされっぱなしは面白くないしね。


「ほ……本当……?」


「うん、本当………えっ?シェリー?

 どうしたの?なんで泣いてるの?」


 ビックリした、何故かシェリーが凄く泣いてる。

 それも大粒の涙を流して。

 えっ?本当に何があったの???


「もしかして何か流れ弾でも当たった?

 ごめん!痛いよね!今直すから」


 ぐっ、普通のやり方じゃ神聖魔術は使えない。

 かなり無理矢理になっちゃうけどしかない……


「ち、違うの……セシリアちゃん達急に仲間割れするし……なんか変な羊来るし……色々起こりすぎて訳分かんなくて……なんか、ヒック、怖くなって………」


 え?………え???

 つまりえっと、どういうこと?


 ………怖いって事は分かった、なんでとかそういうのは良いや。


「あ~、ごめんねシェリーちゃん。

 怖がらせちゃって」


「げ……幻狼さんは……悪く……無いですよ………」


「あ……うぅ………」


 私が迷っている間に幻狼に先越されて何も言えなくなった。


 ……どうしよう。

 なんでこんなに泣いてるか分かんない。


「えっと………むぅ!」


「…………サルタナちゃん?」


 とりあえず私の胸の辺りにシェリーの顔を納めるように抱き付く。


「怖くないよ、私がいる、だから泣かないで」


 正直何で怖いのか分からないけど、昔私は夜目が利かなくて怖かった記憶はあるから怖いという気持ちがどういうものかよく分かる。

 そんな時姉さんに同じ事をしてもらった。


「………もう大丈夫、みっともないところ見せてごめんねサルタナちゃん」


「うん、大丈夫。みっともなくなんてないよ」


 数分優しく撫でてあげると泣き止んでくれて良かった。


「それより、目が腫れちゃったね。

 傷は無理でもこれくらいなら……うん、綺麗になった」


 ふぅ、これで一安心。

 無理矢理すぎて魔力がごっそり削れたけど上位魔法2回は使える。

 あのブランディスに一発重いの叩き込める。


「ありがとう、サルタナちゃん」


「うん、ごめんね」


「サルタナちゃんは悪くないよ」


「それでも言いたかったから。

 ……さて、おまたせ」


「ううん、気にしないで。

 やっぱりシェリーちゃんかわいいわね」


「あ、分かる?」


 シェリーって時たま分からなくなるけど、そこがかわいいし見てて面白いよね。


「それじゃ出ようと思うけど心の準備は良い?

 いくよ……ジャガーノート!!!……ソォレッ!!!」


 私の魔力袋の魔力をジャガーノートに変換して放ち、続けてリーズメタルを投擲して完全消滅させる。


「ま、こんなもんだよ」


「大したものね、前同じ檻に捕らわれた時はそいつ意外がブランディスを攻撃して無理やり止めてたんだけど……

 普通に攻撃してもこうはならないよね?」


「幻狼には後で教えてあげる」


 今はゴルドとマルクが信じられないからね。

 幻狼と同じように私も自分の直感は疑わないタイプだ。


「正直、私と幻狼は信じられないくらい似たタイプだから、私が教える事すぐ覚えられると思うよ」


「そっか、楽しみだ」


 ちなみに、虹色の檻を突破するにはジャガーノートで全体を破壊し、再生するのをすかさずリーズメタルを投擲して魔法としての地盤を完全に粉砕する事に成功した。

 リーズメタルの性質があっても万全な虹色の檻を魔へ還し尽くすのはかなり時間が掛かっただろうからね。


 しかし、魔力袋の魔力使ってもうブレスも撃てないしせっかく節約してた魔力をかなり使っちゃったが……まあ仕方ない仕方ない。

 必要経費とでも思って割りきろう。


「シェリー、フォルト、走るからちょっとこっち来て」


「えっ?走るからってどういう意味って、きゃっ!?

 ………え、これちょっと恥ずかしいんだけど」


 フォルトを背中に、シェリーを抱き上げるようにして持つ。

 これで走れる。


「シェリーちゃんの方私が背負おっか?」


「シェリーは私の親友だから良いの!」


「あ……幻狼さんになら少し憧れ「喋ってると舌噛むよ!!!」

「え、ちょぅと……ひっ!」


 なんかムカついたら最初から全力で走る事にした。





「途中で罠は無かったけどさ、案の定宝物庫は開けられてるね」


 目の前の厳重そうなシャッターは正常に解除され扉が開きっぱなしになっている。

 ここの解除の仕方を三回以上間違えると、この一直線の廊下一杯にショゴスシャワーが作動する仕組みになっている。

 普通に死ねるからそれ。


「それじゃ入ろっか」


「おい!罠があるかも知れないだろ!」


「またそれ?あるはずないじゃん」


 私はほとほと呆れてしまいまた睨まれた。

 睨むのが好きなのかな?

 睨まれようが無視で良いや、そのまま歩き続けると隣に幻狼が並んできた。


「まあまあそう言わずに。

 マルクは冒険者歴事態は浅いからこんな特殊なケースを想定できないんだろうから教えてあげても良いんじゃない?」


「……Sランクなのに?」


「まぁ、普通よりずっと強くてかなり運が良かったからね」


「そうなんだ……じゃあ幻狼が教えてあげたら?」


「面白い事言うね、うん、面白いかなり笑える」


 確かに笑顔をマルクに向けたけど完全に乾いた笑みで馬鹿にしてるのが良く分かる。

 そんなにあり得ない事なの?仲悪すぎじゃない?


「まあいいけど、ところで幻狼って冒険者歴何年?」


「今年で23だから……13年だね」


「さすが、凄いベテラン」


「でしょ?」


 まあそれは置いといて説明してあげよう。


「ブランディスってどう見ても魔法に自信のあるタイプの魔族だよ?

 そんな魔族が自分のポリシー曲げてまで原始的な罠を設置すると思う?

 この場所じゃちゃんと罠として機能する魔法は最低でも中の上。

 しかしその程度の罠は私に見破ってくださいった言ってるようなもの。

 だから必然的に最上位クラスになるけど逃走用や戦闘用の魔力も残さなきゃならないから益々あり得ない。

 仮に罠を仕掛けていたなら自分には切り札があるぞと教えるようなものだし、もし宝物庫にあるリーズコレクションっていうのが切り札だったとしたらそんな不確定要素を切り札にしてら大馬鹿も良いところでしょ?

 だってさ、もしかしたらここにあるのは凄いご飯を作るマジックアイテムかもしれないし、金属を量産するという物かもしれない。

 同時にそんな不確定の物の為に超貴重な魔石を切り札にするのもあり得ない。

 という訳で、ブランディスはここまで思い至らないような人でも無いだろうからほぼ絶対に無いと考えて良いけど、それも………あ、これ……」


 宝物庫はとても広く、私達は話ながら進んでいた。

 最初は薬草なんかが並んでいたけど、今いる場所は金属類が適当に置かれていた。

 剣や盾は当然だけど、正直あまり興味がない。

 というのもリーズメタル製だと分かったからで、リーズメタルということは魔法付与ができないんだよね。

 その完成度からも錬金術師として私より数段格上だというのが良く分かるのだが、魔法付与ができない分完全に技術のみが求められるのがリーズメタルな訳で、思うところは沢山あるけど、レベルが違いすぎて何の参考にもならないんだよね。

 これが芸術性を求めた物なら貰ってたけど、武器としての量産品だからこれ。

 たぶんだけど、ショゴスロードの軍隊に持たせる予定だったのかな?


「……うん、このリング凄い。

 装備するだけで武器の魔力と破損の回復を向上し魔力遠隔操作のアシストまでしてくれて便利だね。単純な付与のはずなのに凄く複雑だし、ムムム………」


 そんなリーズメタルの武具が並ぶ中でアクセサリーなんかは私でも参考になる部分があるのに気付いて摘まみ上げた。


 そして満足したのでもとのように直す。


「あれ?それ持ってかないの?」


「私はただどういうのがあるか気になるから見たかっただけでマジックアイテムが欲しかった訳じゃないからね。

 それよりここに来た本命なんだけど……ブランディスをテイムしようシェリー!」


「…………はぇ?」

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