錬金術


 私達は鼻歌混じりに足を進めるサルタナちゃんに連れられ……

 あ、また部屋に入ってすぐ出てきた。


 なんかサルタナちゃん、さっきから右から左にと片っ端から部屋に入っては出てを繰り返しながら進んでて、扉潜った瞬間出るなんて事もあれば数十秒出てこなかったり……


 そして途中からマルクさんが貴重なアイテム猫ババしてるんじゃないかっていちゃもん付けて、「それなら一緒に付いてくれば良い」って言ってからマルクさんは振り回されっぱなし。

 サルタナちゃんのこれは全然悪意が無いから質が悪い。


「奥行ったと思ったら拾うのネジだけかよふざけんな!

 お前さっきからそんなんばっか拾いやがって!!!」


「ふぇ?……え?ばっかじゃないの!?

 錬金術師にこのネジ一本の為に並大抵のマジックアイテム差し出すの惜しむ人なんてまずいないよ!」


「はぁ!?……そんな凄いのかそれ?」


「まあ錬金術使えなきゃガラクタだけど」


「殴るぞ」


 あ~……うん、この位置から部屋の様子見えないけど、こんな感じでサルタナちゃんはさっきから変な物ばかり拾ってるんだよね。

 それで、サルタナちゃんが入ってすぐに出た部屋を探してみたらとんでもない技術で作られた鋭い刀が置いてあって、サルタナちゃんにそれ見せたら「そんな何の魔力付与もされてない刀ゴミでしょ?」と切り捨てていた。


「全く、これだからマルクは……錬金術の良さが分かってない。

 う~ん…………まぁ……良いかな?幻狼がいるんだし。

 コホン、仕方ないから錬金術師の端くれとして錬金術の真骨頂を見せてあげよう」


 そう言ってサルタナちゃんはさっきのネジを取り出した。


「……あ、魔力が無い」


「できないのかよ」


「ム……できるもん!ゼラニウム!!!」


 魔剣を抜き放ち廊下に突き刺し、抜くと空いた穴からフシューッと音がする。


「これ、風じゃないよね?

 何この音?不思議だね」


「魔力だよ。まあ、すぐ自己再生しちゃうからチャチャっと終わらせよう」


 胸の前辺りで見えない何かを手で押さえ付けるようにすると青い光が発生していき、その光にネジが吸い込まれ、白い粒子へと変貌する。

 その粒子が不規則に動く青い光を漂い、弾け、粒子が新たな形を構築していく。


「綺麗……」


「できたよ!世界のどんな金属よりも硬く強靭で如何なる魔力を一切受け付けない最高の金属と呼ばれるリーズメタルのインゴット!

 まあ、私の腕前じゃインゴット作るのが精一杯で盾なんて作れないけど」


 私の聞いたことないような貴重な金属のインゴットを何でもないように振りながらそう説明してくれる。

 サルタナちゃんが説明している間にゼラニウムで開けられた穴は塞がっていた。

 錬金術の光景にも驚いたけど、床の再生の速さにも驚きを隠せない。


「リーズメタル?俺は聞いたこと無いな」


「ん?まあそれも当然じゃないの?

 コレは錬金術の中でも……あれ?

 リーズ……メタル………リーズメタル…………リーズニアス?

 ………リーズニアスさんってもしかして凄くない!?

 えっ?だって、え、えっ?リーズメタルの発案者ってもしかして名前が入ってるくらいなんだからリーズニアスさんじゃないのこれ!?」


 うわ、凄い興奮してる。

 今はダンジョン内に入って緊張してるからそうでもないけど、さっきまで幻狼さんといろいろ話せて興奮してた私もこんな感じだったのかな?


「凄いわね、私は昔古い資料で目にした事はあるけどそれに一致してる。

 確か、魔を受け付けない神聖なる神の金属だっけ?

 そのリーズメタルが実在してたなんてね……」


「ん~?神の金属???

 そんな訳無いじゃん。

 誰が言い出したのそんな事?

 神じゃなくてこれ程魔を知り尽くした物質なんてそうそう無いと思うんだけど?」


 サルタナちゃんはあまりの言われ方に頭痛がしそうになったのか軽く頭を抑えながらヤレヤレと言いたげにそう言った。

 この手の事でサルタナちゃんの言う方が正しい知識だったりするんだけど、その知識は人種の知識とはかけ離れてる事が多いんだよね。


「あ、でも違う意味では神に関連するかも……

 神は神でも邪神……じゃなくて魔神?創造神様???

 まあどっちにしろあの存在は神だなんて称えるような存在じゃないけど」


「神様なのに?」


「神じゃない、少なくとも人種の思う神じゃない」


「どういう意味?」


「リーズメタルは受けた魔を『魔の宇宙』、もとい『大いなる魔神』、または『暗黒の化身』なんて呼ばれ方をする生きとし生きる者全ての母が存在する場所へ還す。

 魔力とは大いなる我らが母の力であり、我らの母は天空に浮かぶ満ち欠けする魔の象徴足る方舟で眠りについている。

 我らは母が眠りについた事で生まれた星々から生まれた存在。

 つまり星が私達という種の母だとするなら大いなる魔神は種の母の母になる。

 だから、私は魔族も、人種も、皆が言うほど大した違いは無いと思ってる。

 というより、何で同じ知的生命体で話し合いもできるのに仲良くできないんだろうね?

 ただ同じ言語を発してさ、自分の事ばかり、残虐な事を嬉々としてして、同じ言語を発してるはずなのに全く言葉が届かないような、最早知的生命体と呼んで良いのか分からない、その大半が獣と変わらないヒューマンどもは別だけど。

 私は魔族もワービーストも仲良くなれると思っている。

 ………だから、そんな敵意を向けないで、喧嘩は良いけど、私は殺し会いなんてしたくない」


 ………え?どういう意味?

 場の空気が変わったのは分かるけど、何?

 なんでこうなってるの?


 サルタナちゃんが言い出した魔のなんとかは壮大すぎてちょっと付いてけなかったけど、何か不味いこと言ったのサルタナちゃん?


「……罠は無さそうだな」


「魔族の誇りに掛けて罠なんて仕掛けてないと約束するよ?

 そうだね。じゃあ、改めて自己紹介しよう………

 我れこそが魔王様に選ばれし四天王が一人、双頭龍の名を与えられしサルタナ・レッドサーペンタイン!!!」


 サルタナちゃんがビシッとポーズを決める。

 ……うん、今気付いたけどなんか空気がピリピリしてる感じがする。

 もしかして不味い状況?


「魔族で四天王……ねえ、サルタナは悪魔の魔族に心当たり無い?」


「悪魔?……姉さんの知り合いにハエみたいなのがいたけど名前まで覚えてないなぁ……一度しか合わなかったし」


「他の悪魔は?」


「他はいない………あ、一応サキュバスも悪魔に入るから同僚の四天王である夢幻泡影ロゥタルも悪魔だよ。

 それ以外はゴメンね、力になれないや」


「そっか、知らないんだ。じゃあ……」

「うおっ!?」


 サルタナちゃんの言葉に優しく微笑んだ幻狼さんがマルクさんへ回し蹴りを放つがギリギリで避ける。


「おい!何の真似だ!?」


「マルク、アンタこそいつまで殺気を放ってるつもり?

 サルタナちゃんは関係ないでしょ?

 ゴルドも、アンタも気配消すのが上手すぎるのが仇になってるって説明したよね?それより、これ以上動けばただじゃ済まさないよ?」


「……2対2だとしてもその二人を守りながら戦えるつもりか?」


「これ以上アンタらがそんな様子で付いてくるならやるしか無いわね。

 私は私の直感がサルタナは敵じゃないと言っているし、何より気に入ったから嫌いなアンタらよりはこっちに付くわ」


「なんだよそれ……まだ数時間しか建ってない相手で、しかもソイツが怪しいから……何よりもソイツは町を出てから隠す気が無かっただろ!それでもかよ?どうなんだアアッ!?」


「それでもよ。

 サルタナから感じる波長が私の感に訴えかけてる、それで十分よ」


 波長??なんだろう、情報量が多過ぎて付いてけない。

 でも、これは不味いって……どうしよう、どうしよう!?


「テレポーテーション」


 サルタナちゃんがそう呟くと私とフォルトは二人の背後へと瞬間移動した。


「え?……えっ?」


「シェリー、フォルト連れて少し離れてくれる?」


「う、うん!」


 私はフォルトを連れて言われたように距離を取る。


「行くぞぉ!!!」


 マルクさんの周囲に5個の魔方陣が浮かぶ。


 あの術式……ファイヤーボール!?

 中位の魔術をあんな同時に!?


「風神爪」


 幻狼さんが大きく振りかぶり、放たれたファイヤーボールを右手の一振りで全て切り裂きながら駆け抜け、遅れてファイヤーボールが爆発する。


「おっと、君の相手は私だよ」


 その声の方を向けばサルタナちゃんが指の間に複数のナイフの刃を挟んでいる姿があった。


「馬鹿な……」


「生憎私は毒に対して高すぎる耐性を持ってるからね。

 これ、お返しするよ!」


 言葉と位置的に毒ナイフを幻狼さんに投げてサルタナちゃんが止めたのかな?

 そしてゴルドさんは投げ返されたナイフをキッチリ回避。


「風神爪」


 サルタナちゃんがナイフを投げたタイミングには動作に入り、放つ。


「ッ!?」


 回避行動から攻撃に移ろうとした瞬間、ゴルドさんに風の爪が襲いかかり、反応が遅れて一撃受ける。


「ライトニングチェーン」


 そしてサルタナちゃんも幻狼さんが追撃をしてくれると分かっていたのか、幻狼さんへ手を向け魔法を放つ。


「グオオオオオオオォ!!!」


 その雷の鎖は7本程不規則に動きながら伸び、幻狼さんだけ綺麗に避けてマルクさんへ襲いかかり命中した。


「信じてたよ、サルタナ」


「むふぅー、私も」


 二人とも私達の側まで退きつつお互い軽く拳をぶつけ合う。


「ちょ……ちょっと二人とも息合いすぎじゃない?」


「手を握りあって魔力を感じあった仲だからね。

 それだけすればある程度実力の奴相手ならどんな性格、どんな事が好きか勘だけで自然と分かるものだよ。

 それが強者であればあるほど分かりやすくなる。

 だから気に入った」


 うわ……二人の一撃受けても普通に立ち上がってる………

 流石Sランク………


 ……というか、なんでこうなってんの?

 ちょっと分かんないよ………なんで?


「お喋りもここら辺までかな。

 アイツら私と違ってスロースターターだから、こっからが本番だよ」


「分かってる。

 それに魔力吸われて大技使えないから泥沼化必至だよね」


「「ま、それが面白いんだけど」」


 お互い笑い合いながらその言葉をハモらせた。

 正直理解できないけど、二人にはそれだけ信頼できるって事で良いんだよね???


 それから激しい技術による戦闘が繰り広げられ体力の削り合いが続いた。

 この場所の性質が原因で決定打が無いんだろう。

 サルタナちゃんも魔法を殆ど使っていない。


 そんな中……


「グッ!?」

「サルタナ!?」


 サルタナちゃんがいきなりふっ飛んだ。

 いや、吹っ飛んだんじゃない。

 高速で飛んできた何かに捕獲され、無理やり脱出した。


「クッ……レジストされたか………

 だが良い、必要な情報は手に入ったのだからな!

 フハハハハハハ!!!」


 そう高笑いしてるのは人の形をしてタキシードを着た羊。

 羊のワービーストとは違い、どこからどう見ても黒い羊が人の姿をしていて、そんな存在が巨大な翼を生やし浮かんでいた。


「ブランディス!?チッ、こんな時に!」


「ん?何かと思えば何時だかの虫ケラ諸君ではないか。

 どうした?共食いでもしていたのかね?」


「ムっ、私は虫じゃない!」


「いやいやそんな事は………ん?

 フハハ!変わった小娘だ!

 ヒューマン臭いのに纏うそれは魔族のものだ!

 こんなちぐはぐで面白い奴がいるとはな!

 だが今はそれどころではない、我輩は共食いの邪魔をしないから我輩の邪魔してくれるなよ?

 それどころか虫ケラには虫ケラらしく虫籠に入れてやるから精々そこで共食いしてるんだな!」


 パチンッ!


 とブランディスと呼ばれた魔族が指を鳴らすと虹色の檻が発生して通路を完全に塞がれて閉じ込められてしまった。


「ハハハ!去らばだ!」


「くそ!待ちやがれ!!!」


 唐突な乱入者はやりたいことやりきって飛んでいってしまった。

 う……うぅ……もう訳分かんないよぉ………

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