ダンジョン探索


 私がダンジョンとは魔族にとっては人種でいうところの仮の家だって説明をしたんだけど……

 う~ん、これって信じてもらえていない感じかな?

 思ったより反応薄い。


「………ん?」

「どうしたの?」


 違和感に気付くと幻狼がいち早く反応する。

 私の言葉に被さりそうな勢いの反射神経の良さは素晴らしいね。

 しかも魔境に入ってからゴルドとマルクと比べてよりゆとりを持てている所から直感で動ける野生的感性も持っているんだと思う。

 姉さんに鍛え上げられた魔力的能力で、後天的にも手に入る便利な能力。

 その名は神域直感。

 神域直感には届かないかもしれないけど、素質は高いしこの能力に片足突っ込んでるかもね。神域直感便利だよ。

 見た訳じゃないのに未来余地のように、まるで見た事あるかのように分かったりするんだもん。


「ん~、この壁も床も魔力を吸収するみたいだから下手な魔法は使い物にならないな~って思って」


「……下級魔術は使えないのか?」


 それだけだと良いんだけどねぇ。

 このダンジョンじゃ高位の魔法が使えないのと、神域直感が役に立たないのが痛いんだよね。

 神域直感は空気中の魔力の僅かな変化からこの場で何が起こるかを体験したかのように感じる事ができる能力。

 欠点は直感というだけあって望んだように見ることができない。

 神域直感はどれだけ冷静に自分らしくいられるかが発動率を上げる事に繋がっていて、何かしら余計な事に集中してると直感は働かない。


「んーにゃ、使えなくはないけど、戦術としては使い物にならないかってだけだから、中級以上の魔術を使う事を意識しようね。

 う~ん……それにしてもダンジョンに行くからってせっかく姉さんに魔石創ってもらったのにこのまま出してたら全部吸われちゃうなぁ。

 んっと……持ってきてたっけなぁ~」


 ゴソゴソとアイテムボックスへと手を突っ込む。


「あったあった。

 姉さん特製マジックジュエルボックス!

 ふふふ、これは魔石を保管する為の箱でね、魔石の使用魔力の回復や欠損の修復などをしてくれる優れものであり、閉めている間は外部から如何なる魔力的干渉ができないんだよ!

 凄いでしょ!」


 何が凄いって姉さんが凄い。

 ただ薪になりそうな木の枝複数本からこんなもの作ったんだもん。

 それも凄く綺麗で真似したくて沢山練習したけど、結局姉さんが片手間で作ったこれには敵わないよ。


「なるほど、興味があるわね。

 移動中にでも聞かせてもらえないかしら?」


「いいよ~。向こうから返事無いしこのダンジョン創った存在は居ないのかもね。それじゃ行こー」


 姉さんの自慢話をしながら鉄の通路を進んでいく。





「変だ、これだけ歩いて魔物が居ない」


 姉さんの自慢話を断ち切ってゴルドがボソリと呟いた。

 何言ってんの?

 あともしかしてマッピングしてるの?

 意味無いじゃん馬鹿じゃないの?


「何言ってんの?

 ダンジョン内は空気中に魔力が無いってさっき言ったじゃん。

 魔物がいないのは当然。

 あと、マッピングって馬鹿じゃないの?

 もしかしてSランクって偽装してる?」

「ぶふぅ!」


 吹き出した幻狼がそっぽ向きながら口を抑えこれ以上笑わないよう堪えている。


 うん、そんな睨んでもさ、これは笑われているゴルドが悪いんだから睨む資格なんて無いと思うよ?


「どういう意味だ?」


「…………」


「な……なんだ?」


 ゴルドの側に近寄ってじっ……と見つめて嘘かどうか見極めようとしてみたけど本当っぽい?嘘でしょ?Sランクなんだよね?

 いやでも本当にそう思ってる。


 とりあえず私はゴルドから離れて適当に壁を叩く。


「……この壁や床は魔力を吸収する造りになっているだけでなく、このダンジョン内に効率良く魔力を徘徊させる造りになってるから壁や床には常に魔力が移動し続けてるんだ。

 だから魔力の感性が高ければ自然とこのダンジョンの全体が分かるんだよ。

 ただ魔力の流れを読めば良いだけだからね」


「ククク……ふふ、そう、そうなのよ。

 気付いてたけど面白くてつい……ぶふぅ!し、失礼……ンフフフフフ!」


 お腹も抑えて堪えるレベルまで到達したのか。

 まあ、確かに面白いよね。

 同じSランクなのに幻狼とゴルドではここまで差があるんだもん。

 つまりAランク以下は全員できないって考えても問題無いのかな?

 私みたいな例外もいるけど。


「……あれ?ねえねえ、今気付いたけど魔力を吸収するって大丈夫なの?

 ここに私達が来たのはテイムが目的って話だけどテイムも魔力使うんだからできないってならない?」


「ここじゃできないってだけで説得して交渉成立させてから外ですれば良いじゃん」


「あ~なるほど」


「よし、次の部屋の扉到着、オリャー!」


 バァン!

 扉を勢い良く開くとそこには本棚少しと机、あとカプセルみたいな大きな水槽が複数設置されていた。


「おい罠!?」


「罠探知なんて必要無いよ、このダンジョンの全体を把握してるから。

 そうね……これは仮にも一緒にパーティ組んでた間柄だから情けとして教えておくけど、マルクもゴルドもこれ以上変な事は言わない方が良いと思うよ?

 仮に探知されない物があったとしたら間違いなく生物で高位の存在だから。

 そんなのが罠探知で引っ掛かる訳がない。

 だから今の発現は自分は馬鹿ですって公言しているようなものなんだけど?」


 うん、それずっと思ってた。

 姉さんの自慢の時でもなんか私の知識に対して、"初歩的な部分で間違った知識"で否定してきたり、幻狼も驚いてそうな気配を出す時はあったけど少しも表情に出さず、私の発現をとりあえず受け止めていた。

 つまり彼等はそういう可能性もあり得るのではと思い至れない。

 この差はとても大きい。


「ぐ………なんだこれ?」


 私達はそんな風に話ながら部屋に入ってたんだけど、一番最後の方に入ったマルクが部屋を見て真っ先にそう言った。

 ま、これは知らなくて仕方ないよね。

 これでここに住んでたのは最低でも通常の最終進化までたどり着いた魔族って事になって、このカプセルとかはそんな存在しか持ち得ない技術だもん。

 姉さんにこれの仕組みも聞かされた事あるけど正直理解できなかった。

 これは種として理解することを拒んでいるから理解できないからで進化した今の私なら少しくらい理解できるかも。


 さてさて、私もコレをちゃんと理解してない訳だけどどう説明したら良いんだろ?

 私は姉さんほど"嘘は付いてないけど本当の事も言ってない"っていうのは苦手なんだよね。

 う~ん……面倒だし素直に言うか。

 どうせ私も分かんないし。


「これは錬金術で作られた物だよ」


「錬金術?」


「そう、この床も含めてさっきから見てきた殆どの物が錬金術で造られた物だよ。

 ……って、この本かなり古い文字で書かれてるね。

 読めなく無いけど……ちょっと読んでて良い?」


 説明しながら周囲を見渡し、本棚の本から適当に取ってパラパラとめくって見たら古い魔族の言語で書かれていた。

 これ姉さんが最初に教えてくれた言語で、新しい方の言語は森の奥地の方に住んでた歳の近いミリアーナに教えてもらったっけ。

 それで姉さんと悪戦苦闘したのが懐かしいなぁ。

 その様子を見てミリアーナの親達もこの文字何世代か前の物じゃんと困惑してたのを良く覚えてる。

 寿命が無くて時間感覚がおかしな魔力生命体に言われるなんてね。


「少し見せて。……あ、これ私は無理だね。

 サルタナはどの程度読める?」


「普通に読めるよ。古い文字が使われてるから時々つっかえる程度」


 今じゃすっかり新しい方を使ってるからつっかえるのは仕方ない。

 使わなかったり他を優先して使ってると忘れちゃうもんだよ。


「そう、なら解読宜しくね」


「わかった。少し無防備になるから二人を宜しくね」


「任せて」


 幻狼が頷いたのを確認してから本をパラパラパラと流し読みする。


 体の外に魔力を出さないように肉体強化するからかなり集中してたから遅くなってしまったけど、それでも1冊流し読みで2分程度で読める。


 この施設は古い時代の魔王が打ち倒されてから転々と拠点を変えていた錬金術師に造られた場所みたいで、研究内容の纏めでありながら恨みなど不の感情が最初の方に書かれている事が多いところから日記のようにも感じる。

 本を順番に読んでいくうちに感情を記した内容は無くなっていき、最後の方には研究一筋になっていっていた。


 研究の内容は、ドラゴンと同程度に強い魔物で比較的捕獲しやすい存在であるショゴスを改造してどうにか魔族になりえるだけの知性を与えられないかというもの。

 そして量産して新たな最強クラスの魔族で構成した人海戦術で圧し殺すつもりだったらしい。

 研究は難しく、何度か行き詰まり、その度に何か思い付くまでマジックアイテムを量産してみたりしていたらしい。


 最終的に研究は成功したが彼等は魔族らしい魔族となった。

 まあ要するに、魔王を知らない魔族が魔王の敵討ちをしようとはならず好き勝手どっか行ったし、彼等に魔王に関して説明したけど「その説明だと製作者である貴女が私達の魔王になるんだが?」と言われてしまい、魔王が何なのか分からなくなった。

 その時には冷静になっていて、自分が魔王への仲裁で動いているのではなく、ただ皆が好きで、奪った勇者が許せなかったから動いてた事を理解した。

 だからこそ、それぞれの意思を持つ新たな魔族であるショゴスの人工変異種であるショゴスロード達を思念のみの敵討ちに巻き込むのは悪いと思った。


 私は自分の気持ちに気付いた時にはもう数百年建っていて魔王を殺した勇者はとっくに寿命で死んでいた。

 皆を殺したのがヒューマンなんだからヒューマンを皆殺しにするのか?

 馬鹿馬鹿しい、この悲しみだけは絶対に忘れられないだろうが、怨み事態は時間と共に薄らいでしまい全てのヒューマンに向けようなんて思えない。

 もう面倒だし気楽に旅でもしながら今後の事を考えよう。

 その方が私らしい。


 私が創ったショゴスロードを創りたいと思うなら自由に創って構わないよ。

 彼等は賢いから利害が一致したりしなければ命令を聞いてくれないと思うし、失敗して普通のショゴスができて殺されても私は知らないから自己解決できる実力が無ければオススメはしない。

 マジックアイテムも勝手に持っていって良い。

 趣味で作ったガラクタだから。


「……リーズ」


 ただの流し読みだったのにかなり感情移入してしまって涙が出た。

 この本を書いたリーズという魔族は間違いなく錬金術において天才だと思う。

 力を持っていたからそれで復讐しようとしたけど、怒りのあまり自分が誰の為に復讐しようとしているのか見失って空回りして、私も姉さん達を失ったら……

 いや、私はそんな事にはさせない。

 だからこそ帝国を落とせるだけの準備だってしていたし、成功した。

 これからも油断も容赦もしない。

 散々好き勝手やってきたんだから今度はやられる番だと知れ、強欲で愚かなヒューマン。


 まあ、それよりも。


「マジックアイテム……凄く見たい!」


 これ程のダンジョンを創れる錬金術師のマジックアイテム、錬金術の使える錬金術師の端くれとして興味が出ない方がおかしい。

 全てを理解できずとも確かに錬金術の中で最高の物を見られると思うとテンション上がる。


「クリムゾンブラスト!」


 ドゴオォォォ………ン

 ふう、良い一撃。

 書物は綺麗さっぱり吹き飛んだ。


 もう宝物庫に入る方法記憶したしこれは燃やしといた方が良い。

 万が一解読されて悪いことばかり考える存在の手にショゴス量産技術が渡るようなら事になると面倒だからね。


「おい!?お前何やってんだ!!!」


 マルクに怒鳴られた。

 そんな大声出さないでよ五月蝿いって。


「ここにこのまま情報を残しておくのは危険だと思ったから焼却しただけだよ。

 ここはショゴスを大量生産してショゴスのスタンピードを人為的に引き起こす為のダンジョンみたいです」


「ショゴスを……量産?」


 私の言葉を聞いて顔色を変えていき最後にはそれだけ絞り出した。

 たぶんショゴスがどういう魔物か知ってるんだね。

 幻狼の顔も曇ってるし、幻狼からしてみたらドラゴンよりずっと厄介な相手じゃないかな?

 幻狼の主力が拳と爪による攻撃なのだとしたらスライムとは相性良くない。


 さて、他にもまだ何か言いたそうな様子だし先に潰しておこう。


「ん、それでけっこう簡単に創れるみたいでね。

 この施設、ショゴスを量産できるのは本当で、それを目的にして作られたダンジョンなのも本当。

 だけど、ショゴスは知能が低すぎるからスタンピードしか起こせない。

 だからここでの研究はショゴスに知能を与えてショゴスの進化個体、ショゴスロードを作り上げショゴスロードの軍隊を作る予定だったらしいんだけど、自我が強すぎて彼等は対価を払わなきゃ協力してくれなくて計画は企画倒れになったんだって。

 他にも書かれてたけど、ちゃんと記憶してるから問題無いよ。

 それよりマジックアイテムだけ回収して帰ろっか。

 製作者のリーズさんが持っていって良いよだってさ」


「リーズ?魔人リーズニアスが作ったの?」


 あれ、シェリーはリーズさんを知ってるの?

 幻狼達も知ってる様子だし、もしかしなくても科目は歴史か。

 うん……帝国の他国に対しての歴史って変に改竄され過ぎてて読む価値無しって切り捨てちゃったんだもん!

 だからそんなの知らないよ!


「えっと、リーズニアスって?」


「マジックアイテムの産みの親と言われる存在で、その……変人として有名なんだ。

 本人に出会った人は居ないけれど、世界各地に沢山の作品が眠っていたりしてね、とても価値あるアイテムから信じられない程危険なアイテムを作った事でも有名な人。

 アイテムの側にはその土地などで暮らしていた頃の日記や研究資料が放置されていて、その資料からリーズニアスって名前が出たんだよ。

 だからこそ有名で、リーズニアスが作ったマジックアイテムを真似しようとして出来たのが今の魔術なんて言われてるんだ」


「へ~、そうだったんだ」


 魔法と錬金術の技術を取り込ませて混ぜたのが魔術って事になるのかな?

 なるほど、どうりで術式なのか。

 今思い返せば確かに錬金術の基盤と魔術って似てる。


「まあそれも気になるけど後で良いよ、それよりマジックアイテム!」


 あぁ、凄く楽しみだ!

 という事で私達は部屋を出て真っ直ぐアイテムの眠る宝物庫へ向かうことにした。

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