冒険者ギルド
「おじさん!その串焼き8つ頂戴!」
「あいよ!嬢ちゃん家族と観光かい?」
「ん~にゃ、友達の故郷来たから一緒に遊んでるんだ」
「ほ~う、こんな所女の子にゃ楽しめる物無さそうだが楽しんでくれよな。ほら、串8本だ」
「ありがとう!」
ブンブンと音がなりそうなくらい尻尾を振るサルタナちゃんが笑顔を振り撒きながらお金を出し、出店のおじさんから串を買っている。
私が実家に帰ってからもう2日。
難しい話とかはアルカネットさんと連れてきた大人でするからって言われてしまい、歳の低い私達はフォルトの面倒を名目でたぶん厄介払いですよね。
サルタナちゃんの優等生だった姿の面影は微塵も無いんだしそう判断されても仕方ない。
「ただいま~。はい、シェリーとフォルトの分」
「あ……ありがとうお姉ちゃん」
「……ありがとう、頂きます」
そうやって渡されたのは鳥の雛の串に刺して丸焼きにした料理でワービーストであり、この街出身であるなら定番の料理だから当然私は抵抗無いのだけど、帝国の人はこれは毛嫌いしそうだよね。
実際フォルト君は抵抗ある感じだけど、フォルト君はサルタナちゃんに渡された物を拒んだところを見たこと無いし今もしない。
少し心配して横目に見つつもペロリと平らげた。
うん、この店のタレは当たりかな。美味しい。
ハズレは臭みが強すぎて……それがまた良いって言う人もいるんだけどね。
「ふぅ、ご馳走さま」
「は~い、お粗末様」
私は2本渡されフォルトが1本なんだけど、5本食べたサルタナちゃんが私とほぼ同じに食べ終わってるやっぱり噛んでないよね。
いやまあそれより……
「あの、サルタナちゃんさっきから無駄遣いばかりしてるけど大丈夫なの?」
今日はサルタナちゃんが町の様子を見て廻りたいって言うから廻ってるんだけど、さっきから目に入った屋台全てに立ち寄り食べ物は最低一種類づつ食べるを繰り返していて既に10件目となるんだから心配になるってものでしょ?
一応珍しい素材が並ぶ観光地と言うこともあって、生肉は安くても調理されたものは高めなんだよね。
材料を豪勢に使ってるから。
「そりゃ、私はCランク冒険者だから人種のお金にはまず困らないからね。
というより今まで使い方に困ってたくらいだし」
「え?学費で消えてたんじゃないの?」
「たま~に五月蝿いのを叩いて臨時収入入ってたからね~」
「あ、なるほど……」
そんな事してたのにサルタナちゃんの悪い噂は冒険者がしてた薬草狩りの狂犬くらいで他に耳にしないのはたぶん、されて当然なヒューマンだったって事かな?
「ん、冒険者……ああ、そうだシェリー。テイマー目指してみない?」
「え?えっと……前生まれの関係でなれないって言ってなかった?」
「その種族の内ほぼ10割が生まれの関係でできないのはできないって言っても良いと思うんだけど?」
あ、なるほど、なれるのもいるって事か。
モンスター……じゃない、魔物の特殊個体みたいな?
……っていうか、冷静に考えたらサルタナちゃんがその例外じゃないの?
ヒューマンは口からブレス吐かない。
「ん?私変な事言った?」
「あ、違う違う。それじゃ私はなれるの?」
「うん、なれると思うよ。
というより私がシェリーの魔力が気に入ってるところあるから、私みたいに気に入ってくれた子ならなってくれると思うよ?」
「そうなんだ」
………ん?私みたいにって事はサルタナちゃんがあんな精神ガリガリな状態でも私を気にかけてくれたのは私の魔力が気に入ったから?
じゃあ前にサルタナちゃんが言ってた最高のパートナーで共同体ってサルタナちゃんでも?
でもサルタナちゃんヒューマンで魔物じゃない……
あ、でもでもおとぎ話のドラゴンナイトなんて存在はドラゴンを、つまり魔族をテイムしてたんだし人種のテイムもできるのかな?
「シェリー、私は仮にも四天王貰っちゃったからテイムされてあげられないよ?
テイムするようならレジストするからね?」
「えっ!?いや、そんなつもりじゃ……え……えっ?
………私口に出してた?」
「ん~にゃ。ただ今一瞬テイムしてこようとしてた。
正確にはテイム前の対象を呼び寄せる餌巻きみたいな感じの」
「な、なるほど……つまり私って素質あるの?」
「うん。これは生まれ付きできてしまう人と数年頑張ってようやくできる人がいるから、シェリーは前者だと思う。
私は3ヶ月くらいで心得を身に付けただけでテイマーとは呼べないから本職には敵わないよ」
「そっか~」
「それじゃシェリーの冒険者カード作りに行こー!」
元気良く拳を掲げてそう言い出したけど今の会話から何でその結論がでたんだろ???
「……えっと、なんで冒険者?」
「あれ?作りたくないの?
うんうん、分かるよ~その気持ち。
ヒューマンが作った物なんて誰が使うかって私も思ったけど便利なものは便利なんだよシェリー。
これがあれば獲物のいらない部分をお金に変えられるんだもん。
更にランクが上がれば色々貴重な情報を貰えたりしてね、姉さんの受け売りだけど情報とは力だよ、シェリーは分かってないなぁ~。
知っていると知らないじゃ勝敗を100%決定付けてしまうくらいにひゃあっ!!!」
ふふ~んとただの受け売りで何故か自慢げにまっ平な胸を張るもんで、なんとなくイラッとして胸をつついたら予想以上に可愛い声が出て視線を集めてしまう。
「え……えっと………」
「う~……」
さ……サルタナちゃんが胸を押さえながら唸って恥ずかしがってる?
お酒飲んだ後とか当然のように屋根の上で全裸で日光浴したりとかするサルタナちゃんが?
……サルタナちゃんってお酒強くて中々酔わないけど、酔い始めたらいつもの自由さが何倍にもなるんだよね。
何とかしてくれると嬉しいんだけどサルタナちゃんは覚えてないみたいなんだよね本当に……
「なんでつついたの?」
「いや、なんか少しイラッとして、ごめんね。
ほ、ほら行くなら行こうよ」
「うん、そうだね!」
パアッて咲き誇るように機嫌が良くなったサルタナちゃんに引っ張られギルドへと向かう。
この街に来たばかりなのにサルタナちゃんは何故かギルドの方向が分かっているかのようか足取りで進み目的地へ到着した。
何で分かったのかと後で聞いてみたのだけど、そっちの方向に一般人より強い人の気配が密集してたかららしい。
なるほど……私には分からない事がわかった。
「こちらがシェリー様のライセンスになります」
パパっと手続きを済ませてライセンスを渡される。
「ありがとうございます。
……うわ~、本当に私のライセンスだ」
「それシェリーの意外あるわけないじゃん。変なの~」
なんか冒険者登録するなんて、身分的に縁の遠そうだったものをして手に入れたライセンスからは色々感じるものがあるね。
つい口にしたらケラケラと笑われちゃったけど、笑い方がかわいい。
やっぱり年下なんじゃないのサルタナちゃん?
なんて考えていると、また下の方でドッタンと大きな音がしたのだけど、先程までのものと比べて一際大きくてビクリと体が跳ねた。
それを見てまたサルタナが「ウハハ」とお腹を押さえて笑いが加速する。
こういうところ、なんか男の子みたいだよね。
それでサルタナちゃん曰く、冒険者ギルドの地下は基本的に訓練場になってるらしくて、このギルド入ってから結構なペースでこの音が鳴っているって事は訓練ってそんな激しいの?
「訓練っていつもこんなに過激なの?魔物を相手にするんだから分からなくも無いけど」
「そんな訳無いじゃん。
下に強い奴がいるから、本当は私も少し混ざりたいんだけど、シェリーの約束の方が先だし、いつまでゆっくりしていられるか分からないから」
「あ、意外。そういうところは我慢できるんだ」
「ちょっとそれどういう意味?」
どうって最近のサルタナちゃんは自重知らずというか何て言うか、うん、自由すぎる?
まあ、それが魔族らしいんだろうけど。
「どうって……う~ん、サルタナちゃんが見たいなら少しくらい行くのも良いんじゃない?それくらい誤差だし」
「ほんと!?なら行こう!っとう!」
「はいはい……って、えぇっ!?」
バッと跳躍して弧を描くように天井スレスレまで飛び、綺麗に階段へと吸い込まれるよう私の視界から消えた。
「シェリー!フォルトー!早くー!」
「い、今行くよ!」
サルタナちゃんが落ちた階段の方から声がしてようやく硬直から解放された。
その身体能力には何度も驚かされたけどそんな無駄に器用な事もできるなんて驚いた。
なんか最近、驚かされてばっかりだなぁ。
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