遊び
屋敷をぐるりと回って入り口の反対側の方へ私達は足を運んだ。
「お~、みんな走ってる。
でもこういうのって朝一でやるんじゃないの?」
「兵の数が多いので朝と昼で別れて行う形になっております」
「なるほど~」
今返事してくれたのは部屋を出た後廊下で出会ったメイドさん。
この人から感じる雰囲気とかは全く違うんだけど、この感じシェリーに似てるんだよね。
この感じてるモノの名前を私は知らないから上手く言えないんだけど、たぶんこの人がシェリーのお母さんでこの人も普通に強い。
でも、隠してるみたいだし態々言う必要も無いから黙っとく。
そっちの方が面白そうだし。
「それじゃポーズを決めよう!
とりあえず左右対称になるようなのが良いと思う!」
「それじゃやってみよ」
それから数十分で簡単なポーズを決めて実際にやってみる。
「フォルトどう!?」
「えっと……その………」
「アルカネット様とサルタナ様では身長差がありすぎるのであまり美しいとは言い難いですね」
フォルトの代わりにメイドさんが答えてくれたけどガックシだね。
「そっか~身長差なんて考えてなかったや」
「二足形態でもサルタナちゃんは私のお腹くらいしかないもんね」
「むぅ~っ!そのうち大きくなるもん!」
「う~ん、何千年後の事になるのかなぁ~?」
「え?そんな先の事なの?」
進化って寿命延びるの知ってたけどそんなになのか、驚いた。
「う~……じゃあ左右対象は無理みたいだし、ダンスみたいに体を寄せ会うっていうのは?」
「それも身長差があると……しかし、尻尾と羽を上手く使えば綺麗に見えるかもしれませんのでしてみましょう。
微力ながらお手伝いさせて頂きますよ」
「ありがとうメイドさん!」
更に数十分後、それっぽい体制はできたけど……
「ちょ……ちょっと、もう良いでしょ?」
「少々お待ち下さい。
……う~ん、サルタナ様、右手を少し下げて……あ、行き過ぎです」
「わっとと!ちょっと無し!やっぱりバランス悪すぎこれ!」
「……う~ん、やっぱりそっかぁ」
「ごめんねサルタナちゃん」
片足立ちして私を抱えた姉さんがギブアップ。
でもラミア状態なら今のポーズはアリかもしれない。
「気を取り直して他に意見無い?」
「あの……左右じゃなくて縦は……どうかな?
乗ってみたり……前と後ろで…………とか?」
「フォルトそれ採用!」
そしてようやくそれっぽいポーズが完成した。
「素晴らしい、まるで二頭の獅子のようですね」
「いやいや、ポーズは格好いいですが可愛いだろう?
どちらかというと大きな猫みたいか?」
「それは元が可愛らしいんだから仕方ありませんよ。
とてもお美しいですよ」
いつの間にか混ざってた兵隊長と一緒に誉めちぎられた。
「えへへ~ありがとう。
……今更だけど兵隊長さんはこっち混ざってて大丈夫なの?」
「ん?あぁ、もう戦闘訓練に入ってて俺達は観戦組だしな。
ほら、そこに観戦組があつまってるだろ?
それに客人がいればそれなりの立場の者がそっち行くのは当然だからな」
指されたほうを見れば確かに訓練を見ている人達の列?のようなのがある。
座りながら見てたり、立って応援してたり、いろんな角度で見ようと歩いてみたり。
良く観察するのって凄く勉強になるもんね。
私の技の数々は観察して盗んだものが沢山だから良く分かるよ。
………面白そうだな、そういえば最近体動かしてない。
さっき軽いジョギングしたけどさ、やっぱりこういうのは別だよ。
「ハイハーイ!私もあの中に混ざりたいんだけど良いかな?」
「ん?……嬢ちゃん、ドラゴニュート……いや、違うな………だとしても戦えるのか?」
お、私の姿見てドラゴニュートじゃないって分かった凄い!
尻尾と翼で益々ドラゴニュートっぽいって散々言われてたのに見る人が見れば分かるんだね!
「だいじょーぶ!何故ならこのサルタナは既に進化した個体だからなのだフハハハハハハ!!!」
両手を腰に当ててぐぐっと胸を張って自慢する。
ど~だ!凄いだろ!
私の知る限り両手で数えられるくらいしかいない2進化もした特殊個体だぞ!
むふぅー!
「なるほど、進化個体か。
その年齢で人類最強種の進化個体……面白そうだ。
俺としては別に構わないが……良いでしょうか?」
「何故私に聞くのですか?
兵の事は兵長である貴方が決めてください」
「何故って……」
ハッ!危ない危ない!
つい口走りそうになって口を両手で押さえる。
でも目線を集めてしまったので全力で首を振ってなんとか誤魔化せた。
……誤魔化せたよね?
ふぅ、あと少しでメイドさんシェリーのお母さんだよね?って言うところだった。
言っても良い気はするけど一応。
「それじゃやってみるか」
「あ、それじゃ私も~」
「姉ちゃんもやるのか、よし!全員整列!」
兵長さんの言葉で皆ビシッと並んで格好いい。
なるほど、これが兵なんだ。
帝国の兵って城とか持ち場をブラブラして、訓練も自主性であまりしないし、拷問はやけにするから兵って感じしなかったんだよね。
帝国落とした後に知った事だけど、帝国兵は訓練の時間は仕事に無く、訓練所はあるけど施設利用費無しって変わりに給料が発生しないんだよね。
拷問を良くやるのはより良い情報を引き出せるとそれによってお金が沢山もらえるからって腐ってると思う。
ほんとヒューマン死ねば良いのに。
「よろしくお願いします!」
おっと、試合だった。
しっあい!しっあい!
……って、何してんの?
えっと………
「……よ、よろしくお願いします?」
目の前にいる他の兵より若そうな兵の真似してぐぐーっと頭を下げてそう言った。
……なにこれ?
帝国の兵達には無かったルール?で驚いた。
これでリカバリーできたかな?
うん、大丈夫そう。
「さあ、どっから来ても良いよ!」
木剣の様子を確かめる為にブンブン振りながら私はそう言ったけど……
「………えっと、流石に子供相手に先斬り込むのは……」
「……子供?…………っ!子供じゃないぞ!!私は16の大人だよ!」
「16!?」「いや、そんなわけ……」とかそんな感じに周囲の見学組が騒がしくなった。
兵長さん、今「8歳くらいかと思ってた」って言うの聞き逃してないからね、後で絶対シメル。
「だ……だとしても女性相手に………」
「ん……女性……女性かぁ………」
うん、女性として扱われるって考えれば悪くない気はする。
姉さんみたいな女性に……って、姉さん楽しむ間もなくデコピン一発で相手沈めてるよ。
昔よくあれで数十メートル吹っ飛ばされてたな懐かしい。
「分かった、一瞬で終わるかもしれないけど悪く思わないでっよ!!!」
他にも兵は沢山いるんだし早く手応えのある相手と戦えると考えたら良い手かもとも思ったから速攻を仕掛ける。
ただ姉さんよりは華やかに沈めよ、せっかくの初戦だし。
私は姿勢を低く一瞬で距離を縮める。
「速っ!?」
それに反抗して身を守るように剣を構えるのでジャンプで兵の頭上を飛び越えつつ剣を当てに行った。
「く……っうわぁ!!!」
「足元ががら空きだよ!!!」
飛び越える時に相手の死角になるよう伸ばした尻尾で足首捕まえて着地と同時に兵を振り回す。
大胆で力強く華やかな動きだけどこれが意外と難しい。
空間把握能力がある程度無いと簡単に看破されちゃうからね。
「アースコントロール!」
叩きつける瞬間地面を操作する魔法で柔らかくしたから痛くないでしょ。
結果は出てるんだから大丈夫大丈夫。
「勝ったー!ヤッターーーッ!!!」
握り拳を上げてジャンプして勝利宣言!
ここのところ負け続きだからキモチイイーッ!!!
姉さん強すぎるんだって!
むふぅー!兵の皆も「あんな子供が大人を持ち上げたぞ」なんて、当然じゃん!
もっと誉めて良いんだよ!!
「さー次!次やろうよ!誰が来る!?」
「よし、今度は俺が行こう」
次の相手はベテランそうな兵!
うん、傷もあっていかにも歴戦の戦士みたいで見た目は強そう!
お互い頭をぐぐーっと下げて試合が始まった。
二人同時に距離をつめて剣をぶつけ合う!
2撃、3撃って所で剣を絡めるように持ち上げる帝国の強い兵が使ってた剣術で持ち上がる。
「甘いッ!」
「キャッ!!!」
いきなり壁にぶつかったような衝撃を受けて後ろに飛ぶ。
今回は衝撃が強くて回転が掛かってて良かった。
「よっと!」
尻尾で調整、足で更に回転を強くしつつ大きくジャンプしてふっ飛ぶ衝撃を真正面から真上へと受け流し華麗に着地!
むふぅー!周囲からおぉ~って歓声がして最高にキモチイイ!
「完全に受け流されて今のじゃ決着にはならなそうだな」
「うん!勝負はまだまだこれからだよ!」
「嬢ちゃんはとても楽しそうに戦うんだな」
「うん!すっっっごく楽しいよ!!!」
さっきの衝撃、たぶん盾無しで大盾を使ったバッシュの再現だよね。
態々接近戦用の魔術を作るなんて発想無かった!
そりゃマジックシールドがあるんだからそれで殴れば良いってなるかもしれないけど、態々バッシュする用に改良版を作るなんて。
それならもっと風の爪とかて切り裂きつつ吹っ飛ばすとかあるじゃん。
だからこそ不意打ちになった。
ほぼノーモーションからだし発動も早くて面白い!
他にどんなの見せてくれるのかな!?
楽しい!楽しい!楽しい!!!
「アハハ!行くよーッ!!!」
「来いッ!!!」
その後すぐにこの人も倒して、二時間くらい連戦した。
どの人も面白い術や技を見せてくれて全然飽きなかった。
でも、もしかしたらまだ見せてない物があったのかもしれないから少し勿体なかったかな?
兵長とも戦ったよ?
強かったけど、なんか今まで戦った人の復習テストみたいな技ばかりだったから勝って当然。
でも応用なんかも見れて普通に楽しかった。
「ふふ~ん42連勝!もしかして私って強いかも!」
「おやおや~、完全に天狗だねサルタナちゃ~ん」
「姉さん」
「私少し不完全燃焼って感じなんだけどサルタナちゃん勝負してくれないかな~?」
む、姉さんとチャンバラなんて久しぶりだ。
「ん~?そんな事言って良いの?
今の私スッゴイ絶好調だよ!
今なら姉さんにも負けないもん!」
「フフフフフフ、じゃあ見せてもらおうかな。
……あ、その前にサルタナちゃんにプレゼントあるんだった」
「え?何?」
「ジャジャーン!サルタナちゃんの為に用意した魔剣だよ!」
そう言って取り出してきたのは赤ワインのように綺麗な色の刃を持つ魔剣。
「おおー!!!え、これ本当にくれるの?」
「サルタナちゃんの為にコネ使って用意したんだもん。
受け取ってもらえないとこまるなぁ~」
「ありがとう姉さん大好き!
うん、程よくて使いやすい……シミターかな?
……にしては短いよね?」
「サルタナちゃん用の特注品だからね、その剣にはまだ名前も無いから付けてあげてね」
名前付いてない!赤い!なら決まりだね!
「ゼラニウム!この子はゼラニウムにする!」
「……即答ね、まさかプレゼントがバレてた?」
「え?そんな訳無いよ?」
もし妹ができたらこの名前を付けようって考えてた第一候補ってだけだし。
姉さんが青の花で私が緑の果物でどちらも植物から名前が取ってるんだよね。
だから赤色にすれば三原色になるし植物として連想されてるでしょ?
「ちょっと待って、少し確かめる!」
簡単にゼラニウムの使い勝手を試してから尻尾の付け根の下、お尻よりちょっと上辺りに収まるように付けてみた。
「よし!今度こそ勝負!」
「その前にスペースの確保だね」
この訓練所は屋敷の裏にあって、裏から坂を降りた所のスペースな訳で、皆には坂の上まで行ってもらう事にした。
「「よろしくお願いします!」」
私と姉さんがぐぐーっと頭を下げて、同時に構えを取る。
すると対峙しているから感じるんだけど、ズンッて空気が変わった。
同時に姉さんも私も本来不可視のはずの魔力が可視化して全身に纏われる。
相変わらず緩やかに流れるような綺麗な魔力。
私の所々荒々しい感じとは違って素敵だけど……勝負は魔力だけじゃないし、良く良く考えたら二足歩行の姉さんとじゃれあうのは初めてだし二足歩行慣れてないよね?
そもそも二足歩行で何してくるんだろ?
なんて考えてたら先に動いたのは姉さん。
散歩でもするかのように歩いたと思ったら、同じ場所を歩いていた。
瞬き1つしてないのに、まるで時が巻き戻ったかのような。
「ッ!」
そう認識した瞬間目の前に姉さんが現れた!
あ、この構え不味い。
私は急いで魔力を両手に込めて迎え撃つ。
「ふんんんんんんッ!!!」
「ハアアアアアアッ!!!」
お互い両手を掴み全力で押し合いになり、練習場に大きな亀裂が走る。
こうなったら下手に力を抜いて受け流したりするのは完全に悪手なんだけどこの流れ……ほら来た!
「ブラッディーシュヴー」
姉さんの髪が生きているようにウゾゾゾと動き、マジックアローのように髪が放たれる。
……のが分かってるから私は全身を回転させるように姉さんを投げ上げる。
姉さんは構わず放って来るのでそれを空いた両手を通しマジックシールドを展開する。
この後も私は動きを強制され続け、戦いを操作するのが姉さん戦い片なんだけど、今回は新しい技があるから行ける!
「混沌の海を統べる龍よ……」
ほら!こうやってマジックシールド張ってる間に詠唱入ったよ!
でもだいじょう…………えっと、確か……うん、こんか感じだったかな?
「起動!」
最初の方で見た魔術によるバッシュが上手く起動して姉さんを打ち上げる。
上手く行った!良かった!
失敗してたら詰みですありがとうございました!
「ガアッ!!!」
追撃で口からドラゴンブレス!!!
「ふんっ!」
……って、えぇっ!?
ちょっと姉さんドラゴンブレス足で蹴って軌道を変えられるの!?
仮にもジャガーノートど同列の攻撃なのに!
「イビルライト」
「むぅ!」
姉さんの指先から光の線が走り、線をなぞられた地面が爆発するのを危なげなく避ける。
「ヤアッ!!!」
イビルライトで地形が大きく変化してきたから魔撃と呼ばれる魔力を集めてただ解き放つ基礎技術を行う。
今みたいに沢山強力な魔法を使うと魔力が蔓延して、そんな場所で魔撃を使うとかなり目眩ましとして有能なんだよね。
周囲の魔力だけが爆発して土煙とか凄いことに。
正直姉さん相手じゃあんまり意味無いけどじゃれあいで訓練だしできることは全部する。
それに、意味無いとは言ったけど完全に意味無くも無いしね。
………あ、姉さんが相手じゃんこれ悪手!!!
「カタストロフィスラッシュ!!!」
ゼラニウムを抜き目眩ましもろとも全てを切り裂く勢いの魔法斬撃を放ち姉さんの用意した食人植物を切り刻む。
隙あらば能力で手数を増やそうとするんだもん姉さんズルい!
「背中ががら空きだよ」
「知ってる!!!」
お互いの風魔法がぶつかり合い、火、水、土風火火水火風水土氷火水水水風土と属性魔法を次々と嵐のように放ち、相殺していく。
相殺しつつ急接近し魔法を絶やさず剣と杖での、魔力と体力と精神の消耗戦へと変わっていった。
普通は細々して嫌いな人が多いんだろうけど、私はコレが凄く好き。
この魔法の攻防はとにかく美しくて。
より小さく、より1手多く、より正確に後出しで有利属性をぶつける。
これ程美しい攻防を私は知らない。
更にその中で武器による攻防が入る姿はまるで1つの舞いのようで見ていてとても心踊らされるもん。
別に魔法は魔法の名前を言わなくても使える。
名前を言うのは力を込めるのと同じなんだよね。
何も言わないのは片手で軽く振った一撃。
名前を言うのは体全体で力を込めた片手の一撃。
詠唱をするのは両手で持った斧を全力でフルスイングするくらいの違いがある。
だから丁度中間の名前を言うのが主流で効率が最も良い。
「ストーーーーップ!!!」
その大声に私と姉さんが同時に止まる。
声の方を見ればシェリーが………あれ?怒ってる?
「ちょっと二人ともなんで殺し合い始めてるの!?」
「こ、殺し!?えっと……ちょっとじゃれあってただけだよ?
ね、ね、だよね?姉さん」
「そうね、当たってもそんな痛くないだろうし」
「うん、そうだよね」
「そ、そうだとしても、そうなのはサルタナちゃんやアルカネットさんくらいなものだから!!!
他の人達は普通できないの!!!」
え?いやだって……え?そんな馬鹿な?
「え……だってシェリーのお父さんとかメイドさんに兵長さん……あとロイスさんもこれくらいならできるよね?」
首を傾げてそう言うと、シェリーがバッとそっちに向いて四人とも目を背ける。
「……あれ?私がおかしいの???」
「うん、たぶんそうだと思う」
そう頷いてみたけれど、実は私の上げた四人は進化個体でワービーストの中でもずば抜けて強いらしく、後でお父さん達に教えられてシェリーが良く分からない感じに攻め立てる?感じになったから甘えさせて落ち着かせた。
シェリーって意外と甘えん坊だよね。
けど、決着が付かなかったな、残念。
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