シェリーのお家


 シェリーの指示に従い道を進み、やがて大きな門が見えた。


「あそこが私の生まれ故郷のホープシュタットだよ。

 魔境に最も近い防衛都市でね、腕自慢のワービーストが多くてね、そのお陰でこの町には他の国との取引で使うような素材なんかも多く集まるから馬車の通りが多いんだ」


 魔境って確か……現在の人種じゃ手に負えないような魔物が沢山いる場所だったかな?

 そういう手に負えないのは大抵知能が高くて面倒になりそうな町を襲うなんて事は滅多にしないんだし、防衛線なんて張って下手に刺激しない方が良いんじゃないかな?

 まあ、これは魔族として生きてきた私の意見だから人種とは価値観が違うのかもしれないからどうでも良いけど。


「へ~、そっか~。

 道理でこの辺馬車のすれ違いが多いんだ」


「あとは魔物が毎日沢山狩られるからお肉の種類が多くて他よりも安く食べられるのが魅力だよ」


 狩られるって言うけどどうせ決められた範囲内で限りなく危険を削った結果だよね?

 知能が高くて強すぎるのは縄張りから出ないし、そういう場所に行ったら冒険者も弱肉強食の連鎖に逆らえないもんね。

 私はテイマーって程じゃないけどテイマーの心得くらいは理解してるからある程度平気だけど。

 でもそんな事より、


「うさぎや狼意外も安いの?」


 これ凄く大事。

 狼のお肉は安くて良いんだけどあんまり美味しくないんだよね。

 うさぎは安くて美味しいけど量がない。

 かといって沢山買っちゃうと下手に高いお肉より高くなっちゃうし。


「うん、安くて沢山あるんだよ。

 というより私は帝国の種類の少なさには軽く絶望したくらいだし」


「お~!楽しみ!!!」


 うんうん、すごく楽しみ。

 食べたことのないお肉とかあるかな?


「ちょっとサルタナちゃん尻尾危ないよ」


「あ、ごめん」


「うん、大丈夫だよ」


「そっか、なら良かった~。

 それじゃ早く行きたいし少しペース上げるよ!せーっの!」


 色々楽しみになったしペースを上げたら3分とちょっとで門まで着いたけど、門のところで一度捕まってなんか凄く因縁付けられた。

 私は私の意思で馬車を引っ張ってるのに奴隷みたいに扱うなとか言い出して訳分かんない。

 私が好きでやってんじゃん!馬鹿なの!?

 それで少し怒ろうとしたらシェリーが出て、家紋を見せて説得し始めると簡単に通してくれる流れになった。


 けど、今度はシェリーの身分を考えたら逆にそんな変な状態で町を徘徊させる訳にはいかないという話になって、私が引いてた馬車を馬が引く事になったんだ。

 変って失礼な。


 そして人数が多いから数回に分けて馬車で運ぶ流れになった。

 面倒くさいけど立場って何処にでもあるもんね。

 私も一応四天王な訳だし……今思ったけど四天王が馬車馬のように馬車を引いてる姿をグラキエーヌさんが見たら絶対にマジギレするよね。

 あの人のプライドの高さは凄いと思うけど、な~んかそのプライドの高さにヒューマンみたいなところあるような気がするんだよね。

 それ言ったら絶対怒るだろうけどさ。


「ねえシェリー。

 シェリーって私が思ってたより偉い家の人だったの?」


「う~ん……どうなんだろ。

 とりあえずお父さんもお母さんも私と違って強い人ではあるんだけど……スマウグ様と戦った時のサルタナちゃんに勝てるような強さは絶対に無いと思う」


 いやいや、あれは反則みたいなものだし勝っても反動で死んじゃうから私。


「むしろそこまでやって負けたら私の立つ位置無いんだけど……」


「アハハ……あ、ほらもう着いたよ」


「ほえ~……おっきい」


 目に入ったのはお城のような石の大きな家だった。

 お城とは違ってそんな高くないけど大きな家……というよりこういうのお屋敷って言うんだよね?

 お屋敷って感じで庭も広い。


「シェリーってお嬢様だったの?」


「世間的にはね。

 でも実際の私の事はどう思う?」


 どうって……


「シェリーだと思う」


「え?ま、まあ私は私だよね、うん」


「うん、シェリーの気配は綺麗だから良く分かる。

 嫌な感じがしない」


 うん、この感覚が裏切った事は一度もないからね。

 この辺は姉さんにすっごくしごかれた。


「ん???

 う~ん……そっか、綺麗か。ありがとう」


「うん」


「止まれ!」


 私とシェリーが話していると屋敷の門まで着いて門番の一人に止められた。


「ここはホープクルイーク家の……」


「ギュンター!久しぶり!」


 シェリーがバッと馬車を飛び降りた。


「へへー、私が誰だか分かる?」


「もしやシェリー………お嬢様?」


 ……あれ?何か私と話してるより楽しそう?

 というかやっぱりお嬢様じゃん。

 なんでかお嬢様呼びで引っ掛かってたけど。


「何お嬢様なんて着けてるの?

 ここにいるの友達とその部下だけだから良いよ呼び捨てで!

 ん~……少しは成長してるから気付かれないと思ったんだけどな~。

 それでギュンター、他にも何回か人が来るから私か……サルタナって名前かアルカネットっていうのが出たら通してもらって良い?

 なんなら名前が出たら確認に呼びに来て」


「は、はい!」


「あ、あと父さんと母さんって用事で居なかったりしない?」


「いえ、今日はこれといった予定は入っていませんのでいつも通り仕事をしているはずです」


「分かった、ありがとうね」


 シェリーが戻って馬車が動き出す。


「……あれ?サルタナちゃんなんか不機嫌?」


「別に……」


「サルタナちゃんは初めての友達が自分より親しそうにしてる「わーっ!!!わーっ!!!そんな事無いから!姉さんの言うこと三割は嘘だから信じないで良いから!!!」


 何言い出してるのかな姉さんは!?

 ちょーっと何言ってるか訳分かんないな!


「ふ~ん……ふふふ、サルタナちゃん、大好きだよ」


「ん……うん……私も大好き………」


「「えへへ~」」


 なんかむず痒くて二人で変な笑い方したけど、今が凄く幸せだって思った。





 コンコンと木の扉をノックする。


「父さん、私。シェリーが戻ったよ」


「な、シェリー!?なんで、あ、今手が……とりあえず入って良いぞ!」


「ハーイ。

 じゃあ入ろうか。」


 笑顔を向けてきたシェリーに「うん」って頷くと扉を開け始める。


 部屋では大きめな作業机に山積みの書類に囲まれた男性がいた。

 少し疲れた様子なのだけど、この服越しでも強めなオーラを感じさせる綺麗な筋肉を持つ男の人がシェリーのお父さんなんだろうか。

 ……お父さんってどんなんだろ?

 良く考えたら私はお母さん代わりの姉さんしかいないもんね。


 あと横の小さな席で同じように作業してる人がもう一人。

 ああいうのって執事服って言ったっけ?

 そんな感じの格好の人。


「ただいま、父さん、ロイス」


「お帰りなさいませお嬢様」


「お帰り、シェリー。

 ……そっちの人達は?」


「えっと、この子は親友のサルタナちゃんで私が学園で少し……いや、違う、少しじゃない。

 学園で虐めにあってた時に良く助けてくれたとっても優しい子」


「虐め!?同盟国の貴族相手にか!?」


 あ、やっぱりそう思うよね。

 普通に宣戦布告だよね、戦闘意欲の高い部族も存在するワービースト相手にそんな事したら戦争になるって。

 しかも帝国の位置的に敵対国の王国と丁度サンドイッチ状態じゃん馬鹿なのヒューマン?

 ……いや、奴等は自分の本能に忠実なのが多すぎるだけ。

 理性があるならこんな馬鹿な真似はしない。


「うん、良く守ってたしちゃんと勉強教えてたのも私の方が多かったと思う。

 教師は難しい事や普通に授業に出てただけだとまだ習ってないような事の時だけシェリーに回答させようとしてた」


「あ、やっぱり習ってなかったよねアレ……」


「うん」


「なんだと……」


 シェリーのお父さんの空気が変わった。

 この人、とっても強い。

 そう感じて思わず身構えそうになった瞬間、パンパン!と強く手を叩く音がした。


「はいは~い、怒りたいのは分かるけど怒るべき相手はもう居ないようなものだから後回しにしてね~」


「……貴女は?」


「私を先に出すと面倒だからその前にこの子。

 この子はフォルトちゃんでサルタナちゃんの……妹?……ちゃん?」


「……男の子のように見えるが?」


「細かいことは良いのよ。本人が気に入ってる様子だし。

 それで私は、サルタナちゃんのお姉さんであり……」


 そこで言葉を区切り姉さんが人化を解除する。

 咄嗟に護れるように長い尻尾を私達の前にぐるりと伸ばしすぐ動かせるようにしたラミア姿の姉さん。

 ただ、背中に翼が無い。

 室内じゃ邪魔だもんね。


「我こそが魔王軍四天王双頭龍アルカネット・レッドサーペンタイン!」


 スッと決めポーズを取り宝かに名乗る姉さん格好いい………

 その余裕の籠った笑顔は散々指導戦の時に見せられたなぁ。

 私がどれだけ汗だくになっても崩れない余裕の笑みがとても綺麗で、私もあれくらい強くなりたいって良く思ったけど、今は負けないよ!


「以後長いお付き合いになるかもしれないから宜しくね」


 そこからのこの柔らかな笑みは姉さんの魅力に溢れてて凄く良い。


「ちょっとサルタナちゃん……」


「あ、ごめん………」


 シェリーに肘で小突かれ小声で叱られちゃったから小声で謝った。


「魔王軍だと……ッロイス!!!」


「っ!ハッ!」


 ロイスさんって執事のシェリーのお父さんと同じくらいの人が構えを取り魔力を溢れさせているのを感じ取って止めさせる。

 名前を呼ばれただけで意図を理解してシェリーのお父さんにお辞儀するロイスさんかなり有能。

 というかロイスさんも強いね。


「えっと~……敵意は無いわよ?

 とりあえず何も言わす私の話を聞いてもらっても良いかな?」


「……娘は人質のつもりか?」


「あ、うん、やっぱりそう見えるよね、アルカネットさんこれは墓穴だと思いますよ?

 過保護すぎなのが裏目に出てるって……」


 え……人質………?

 ……………は!?確かにそう見えなくも無いかも!?


「え?あっ!?そ、そんなつもり無かったんだよ!?

 投擲とかされると何かの拍子にこの子達に当たっちゃうかもしれないと思って……えっと、どうしよう……シェリーちゃん悪いけどお父さんの側行って貰える?」


 あ、うん、格好つけた矢先にテンパルのも姉さんらしいなぁ。

 姉さんは格好良くて綺麗で可愛い。


「うん。父さん、そっち行って良い?」


「……娘には何もしたいんだな?」


「しないって!」


 シェリーの父さんが頷くとシェリーはそっちに行っちゃった。


「コホン、それじゃ改めて話すけどとりあえずこちらには敵意は無いから一通り話終えるまで質問は無しでお願い」


「ハーイ、良いよね父さん?」


「………あぁ」


「まず始めに、私達がこの国に来たのは一緒に良い国作りましょってお話をしに来たの。

 あ、あと場合によっては王国とかヒューマンに戦争する事になるかもしれないけど、その辺はヒューマンが亜人と迫害する貴方達の意思を尊重してって可能性が高いと思う。

 私達は色々あってガーランド帝国を落として今ガーランド城は魔王城って事になっているんだ。

 当然ガーランド帝国領土は魔王の領土になってるから。

 それで、帝国を落とす際にワービーストだけじゃなくて他の種族にも帝国は酷い差別をしている事が分かっていてね、その人達を積極的に保護して仮の住人として招き入れてるのよ。

 帰りたいと望めば帰すけど、彼等だけで行かせたら大変じゃない?

 だから今は落ち着くか同族のお迎えが来るまで待ってって事で殆どが城下町で暮らしているの。

 今回はエルフやドワーフの国にも同じように同盟を組まないかって誘う予定でついでに数名証言をしてもらうと同時に帰国させるために連れてきたのよ。

 その為に早馬を送ってね、その次の日に差別と言う名の虐待を受けてた人を連れて使者として出てきたのは良かったんだけどね……」


 姉さんがシェリーにウインクする。

 うん、そこは姉さんに同意でシェリーの口で直接行ってもらった方が良いかも。

 シェリーも分かったのかこくりと頷いてシェリーのお父さんの方を見る。


「父さん、少し信じられないと思うけど、早馬送ったのって昨日で、今日元帝国からここまで来たんだ。

 えっと、馬じゃなくて四天王が馬車を引っ張って」


「………なるほど、それは私でもできるだろうから四天王ならばおかしくは無いだろうね」


「えっ?」


 え?って、もしかしてシェリーは知らなかったの?

 たぶんシェリーのお父さんなら少しキツイくらいだと思うよ?

 能力次第で楽勝じゃないかな?


「あ、信じてくれるんだ良った~」


 人化を発動し下半身が足になった姉さんはヤレヤレと首を振りながら続きを話す。


「いやまさかテイマーが存在しないなんて思っても見なくてね~。

 貴方達は生まれの関係でテイマーにはなれないけど、ヒューマンはずば抜けた能力は無くとも器用貧乏……こほん、万能が売りなのに態々テイマー技術を衰退させるなんて考えもしないでしょ」


「つまりユニコーンの早馬があったという話は本当だったのか」


「そうそう、それで手紙届いてないし23人も泊まれる場所が無いって困ってたらシェリーちゃんが実家が近いって話になって」


「なるほど、理解した」


「これで私の話は終わりだけど聞きたい事って何かある?

 それとも一旦私達は外出るから、その間シェリーちゃん話すって言うのも良いと思うんだけどどうしたい?」


「ならシェリー話がしたいから呼ぶまで外か客室にでもいてくれないか?」


「はいは~い。

 それじゃ行こっか」


「うん、またねシェリー」


「またね、シェリーお姉ちゃん」


「またね~」


 シェリー達に見送られバタンと扉を閉めて廊下に出る。


「ふ~……緊張したねサルタナちゃん。

 やっぱりお姉ちゃんにはこういうの向いてないよね~」


「うん、私もそう思う。姉さんお疲れ様」


「で、でも、ちゃんと言えてたよ?」


「二人ともありがとう」


「あ、でも姉さんの……このポーズ!格好良かったよ!」


 少し駆け足で二人の前に出て廊下の真ん中で振り返り際で姉さんと同じポーズを決めた!

 うん、格好良い!


「そっかそっか~。サルタナちゃんも格好良いよ」


「むふぅ~!」


「……そうね、せっかく双頭龍なんだから二人会わせたポーズを考えるのは大切かもね」


「おお~!やろ!外行こう!」


「はいはい」


 シェリーが親子水入らずで話している間に四天王としてのポーズを決めることにして私達は裏庭の方へ行くことにした。

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