道中
会議があってから次の日の事。
アルカネットさんに呼ばれて町の大きな噴水の前に来ると大きな荷馬車が置いてあった。
「さ、準備できたよ!」
「さっすが姉さん!」
「ふふ~ん当然で~……ッショゥ!!!」
「キャーっ!!!」
「フェッ!?」
「お姉ちゃん!?」
いつものように飛び付いたサルタナちゃんを遠心力を込めてアルカネットさんが思いっきり放り投げ、それはもう楽しそうに叫び声を上げながらもうスピードで町を囲む壁を飛び越えて見えなくなった。
壁までけっこうな距離あったと思うんだけど……
「うん、二足歩行は壁をつたれなくなるけど投げたりとかしやすくて良いね」
「え……サルタナちゃん大丈夫なの?」
「大丈夫大丈夫。着地ミスしても少し痛い程度だろうし、なんなら翼で飛べば良いし」
「サルタナちゃん翼は出しても飛んでるところは見たことないんだけど……」
会議の前までは翼を自慢する時間はあっても飛ぶ練習ができるほど余裕は無かったからね。
サルタナちゃんの翼は真っ白い鱗に覆われ赤い模様が入っている。
逆にアルカネットさんの翼は赤い鱗にサルタナちゃんと同じだけど白い模様が入っている。
「サルタナちゃんは私が育てたんだから大丈夫だって。
そんな柔に育ててないしこの程度で大怪我するんじゃ怖くて森の外になんて連れ出せないわ」
「そうですか……ところで準備って何かありましたっけ?」
「ん?昨日のうちににね。
ヴァイトガルデンに早馬送って何人かワービーストとエルフとダークエルフ、あとドワーフに同行しないかって話してね。
昨日の今日で意外と集まって驚いたわ」
ここに集まっているワービーストは5人、他も5人ずつ集めた感じですね。
これもしかしなくても全部の国を巡るつもりですかね?
確かに効率良いけど……
「荷馬車一台じゃ運べないって心配してる?」
「ひゃあっ!?」
…………っくりしたぁ。
目の前にいたアルカネットさんが消えたと思ったら背後から耳元で言われたんだもん。驚かない方が異常だよ。
アルカネットさんは私の様子が面白いのかクスクスと笑っている。
「私が引っ張れば今日中に着くだろうからね」
それ以前に狭そうなんだけど……
「ほら乗って」と促され全員乗ってみると少し余裕があるけど手足を伸ばしたりはできる余裕が無い状態で、アルカネットさんは本当に馬車を引き始めた。
あと不思議と全く馬車は揺れる事は無くて驚いた。
「おーい!おーーーーい!!!」
「あ、お姉ちゃん」
整備された道を少し外れた岩の上で手を振ってたサルタナちゃんがもうスピードで戻ってきた。
「姉さん姉さん!勝負しよ!」
「良いよ。負けた方が馬車引くで」
「ヤッターッ!!!」
「え、ちょっといきなり何?」
あまりにトントンと進むので不安になる。
そもそもオーガとの戦いを見たことあるから勝負って物騒や気がする。
「大丈夫大丈夫、そんな物騒な事はしないよシェリー」
そういいながらゴソゴソと長いスカートのポケットから金貨を取り出しピンッと弾いてキャッチした。
「それじゃコイントスでどう?」
「コイントス……ルール知らないわね」
「コインを弾いて表か裏を当てるゲームだよ。
冒険者達がやってるの見たことあるんだけど運要素強いからこれなら公平だよ!
あ、表裏は弾く前に決めてこっちが表だよ」
アルカネットさんに見えやすいようにしているのは羽を模したような形が特徴的なガーランド金貨。
ガーランド帝国は元々神鳥の聖地に建てた国だというのもありますが、鶏の飼育や品種改良の功績がとても大きく神鳥伝説が由縁という事よりも鶏肉の流通が由縁という方が一般的認識。
神鳥伝説は国の上層部しか知らないで、元皇帝の口から神鳥は人食いの怪鳥であった事には酷く驚いた。
それは置いといて、ヴァイトガルデン金額よりずっと信頼度が高くて価値の高いガーランド金貨なんて持ってって使われても嫌な顔しかされないと思うんだけど……
「その羽の模様……どっかで見たような………
まあ良いか。それじゃ私は表」
「じゃあ私は裏だね、行くよ!」
ピンッと音がして金貨が宙を舞う。
キイィィィィィ…………ン
と音が響いたと思ったらサルタナちゃんが必死の形相で赤い針を握っている。
そして金額はサルタナちゃんが持ってる赤い針と同じ針に射ぬかれ地面に突き刺さっていた。
金貨を弾いたと思ったらこの光景、何事?
「あ………」
「うん、表ね」
「ぬあー!負けた~ッ!!!
ふふ、あ~負けちゃった!アハハハハ!」
サルタナちゃんはやられた~と言いたげなオーバーリアクションで倒れて嬉しそうに笑っている。
なんか私の知ってるコイントスと違う……
それで良いの?
……満足そうだなぁ……サルタナちゃん…………
「今の一本目の影に隠れるように二本目投げたんだよね?」
「難しいけど慣れれば簡単だし、実戦だともっと沢山投げるから意図しなくても同じ事が起こるよ?」
「うん、でもそうなったらまとめて落とすから関係無いよね?」
「それなら衝撃受けたら目絡ましができるように細工したり、最初はゆっくり投げてまとめて落とされる瞬間最速の投擲を与えるなんかも良い手だよ」
「お~!なるほど!うん、覚えた。
次はこうはいかないからね!」
「いつでま掛かっていらっしゃい。
さて、サルタナちゃん?」
「うん、姉さんは馬車乗ってて。」
「それじゃお願いね~」
アルカネットさんが「よっこいしょ」と荷馬車に腰掛け、変わりにサルタナちゃんが持つ。
「あ、ちょっとサルタナちゃん。
普通に引くと馬車がガタガタ揺れちゃうから魔法で道を綺麗にしながら進むんだよ?」
「そうなの?思ったより面倒だね。
まあ片手間でも大丈夫!それじゃ行くよー!!!」
サルタナちゃんに引かれて馬車が動き出す。
最初は少し動いたかな?って速度から1秒、2秒とでゆっくりゆっくりと速度を上げていく。
「…………え……ちょっと……速くありません?」
「そうかな?サルタナちゃんは根っから優しいからだいぶゆっくり走ってると思うんだけど?」
「既に1人乗りの馬より速いんじゃ……」
そして最終的に馬を全力で走らせた速度よりも少し速いくらいの速度でサルタナちゃんは走り続けるのでした。
「お~、見えてきたね!」
数時間走り続け、本当にその日の内にヴァイトガルデンの城が見える場所まで到着してしまった。
「これなら今日中に王と話し合いできそうね」
「え?それは厳しいんじゃないですか?」
「大丈夫でしょ?だって昨日早馬出したし」
……え?アルカネットさん本気で言ってるのそれ?
「あの、だって早馬でもここまでは2日は掛かりますよ?」
「ん……ん~……???
何で?ライトニングユニコーンがそんなに遅い訳ないじゃん」
「ら……ライトニングユニコーン???
よく分からないけど早馬は普通の馬ですよ???」
「え?」
あ、これ本当に分かってない。
というよりライトニングユニコーンなんてモンスター……じゃなくて、モンスターの事を魔物って言うんだったね魔族は。
そんな魔物を飼い慣らすなんて人種には無理だと思う。
「………まさか、テイマーが居ないの?」
少し考えて絞り出すように、本当に信じられないと言いたげに聞かれてしまったけどテイマーなんておとぎ話の事じゃないの?
「テイマー……ですか?」
「シェリーはテイマー知らないの?
テイマーは種族も言葉の壁すらも超えて心に語りかけて絆を作る特殊な魔力の波長を駆使する者達で魔物ですら友として魔物と約束させる事で人を襲わせないようにしたりできるんだよ。
見返りとした魔力を与えたりしないといけないけど、そこはまあテイマーとか関係なく他人との関係で当然でしょ?
最高のパートナーで共同体。
持ちつ持たれつで自分にできない事をパートナーがして、パートナーができない事を自分がするのがテイマーってだけだよ」
「あ、うん、そこまで詳しくなかったけど知ってたよ?
でもテイマーっておとぎ話の事でしょ?」
「えっ?」
「えっ?」
そんな足を止めてまで信じられないって顔でこっち見ないでよ。
え?テイマーって実在するの?
「てっきり愚かなヒューマンはそんな事もできなくなったのかって思ってたし、ドワーフとワービーストは生まれの関係でできないと思ってたんだけど……えっ?もしかしてエルフもなの?」
生まれの関係……生まれの関係ってワードは魔族達と関わるようになってから良く聞くようになったよね。
生まれっていうのは……これは私の解釈だけど魔法や魔術の属性みたいなもの。
氷の属性で物を燃やす事はできないし、炎で岩を砕く事はできないのと同じでその種族である限り必ずできない事が発生する。
まあ、結局詳しいことは分からないんだけどね。
聞けば良いんだけどタイミング逃したり他にやりたい事があったりで先送りしてるから。
「あ、いえ……未だご健在である2代目王であるハイエルフのルミエール様はモンスターを使役していると聞いたことはあります」
へ~……本当に実在するんだ。
それは知らなかったな。
「あ~……たった四年ちょっとじゃエルフの歴史にまで手が回らなかったからなぁ。
そもそも帝国の図書館って禁書も含めて歴史は都合の良いように改編されてるっぽくて矛盾まみれだからあまり手を出してなかったから……おのれヒューマン」
「サルタナちゃんもヒューマンだけどねぇ。
人種、ヒューマン科、魔人族、ドラゴラミア種ってなるのかな?
完全に新種だよね~」
それもうヒューマンでは無いのでは?
魔人族って言ってるじゃないですか。
といより魔人族こそおとぎ話の話じゃなかったの???
「おお~っ!限りなくヒューマンじゃ無くなれた!」
「サルタナちゃん?これはおめでとうって言って良いか微妙なんだけど?」
「そうだけど私の場合それで良いの!
それで死んじゃっても本望!」
「死んじゃうの!?」
「変な進化の仕方するとアンデット種になるのよね。
肉体を完全に魔力のみにする半不死身の魔力生命体になる事があるんだけど肉体が消滅してるんだから進化で死んでるのよね~」
「そ……そうなんだ……」
なんか知らない事が沢山出て来て凄いんだけど。
どうしよう、何すれば良いのかな?
「それは置いといて困ったわね。
完全に城に泊めてもらうつもりだったんだけど早馬着いてないんでしょ?
どうしよっか?
宿取れなかったら布買って適当に小屋でも建てようかな?」
「あの、それなら私の実家に行きません?」
少し遠いけど、サルタナちゃんの足ならあっという間だし。
「え?シェリーの家に泊まれるの?」
「平気だと思うよ?
何人か宿になるかもしれないけど」
「じゃあ私とシェリーと姉さんとフォルトで宿で良いじゃん!」
「えっ?」
「サルタナちゃん、何で家の住人と上司が宿なのかな?」
で、ですよね~……
うん、せっかく実家に帰れるのに宿って、そりゃ仲良いメンバーで集まりたいのも分かるけどさ。
「あ……そっか、姉さん四天王だもんね」
「サルタナちゃんもだよ」
「む~……私は四天王って感じじゃ無いんだけど……」
前も思ったけどサルタナちゃんは何故か四天王になれた事納得いってない感じだよね。
実力も頭脳も十分すぎる程だと思うんだけどなぁ。
……最近のサルタナちゃんの姿だけを見てたらそんな風には絶対見えないけど。
「もう決まった事でしょ。
それにスマウグちゃんが決めた事なんだからスマウグちゃんの決定に背くって意味になっちゃうかもよ?」
「そ、そんなつもりはないの!
でも、こんな私だし……ん~ッ!!!もう良い!
こんな事考えても無駄!無駄だよ!」
髪を思いっきり掻き乱して迷いを追い出すようにそう言った。
「うんうん、その意気だよサルタナちゃん」
「よし、じゃあシェリーん家行こう!どっち?」
「えっと、あっちに道なりに進めば着くよ」
「分かった!じゃ行くよ!」
こうして私は久々に実家に戻る事になりました。
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