会議


「では、魔王城の一部が破壊されるなんてトラブルもありましたが第7回魔王会議を初めさせていただきます」


 あの後ロゥタルさんの心が折れて立ち直るまで待ってたら5日も建っていてようやく会議をする事になったんだけど……


「正直こんな事するの今更って感じだよね~」


 うんうん。

 この人種の真似事に何の意味があるんだろう。

 他国への宣伝ならともかく仲間内じゃ時間の無駄じゃないの?


「うるさいですよ、サルタナも頷かないで。

 それで、真っ先にどうにかしなきゃいけない事だけど、サルタナの話じゃ2日3日で魔法陣が消えるって話だったけど、実際はまだ消えてないけどどうなっているの?」


「魔力が残ってるから消えないんだけど、その他は一切わからないよ?」


「……本当に?」


「うん」


 そもそもあの魔法陣は今にして思えば直したい所いっぱいあるし何でちゃんと発動していたのかも謎だもん。

 どこかいらない部分の術式が上手い具合に重なって発動できているとしか……

 なんで発動できるのかは謎だけど、発動する事とどんな効力があるかは魔力の色というか、気配というか、まあ直感で分かるんだよ。

 こう……バーッて感じに。


「サルタナちゃんは理屈でも理解できるけど基本感覚で覚えるタイプだからね」


「今起きてる現象は分からないけど魔方陣の作り方は説明できるよ?ただ黒板4つじゃ足りないけど」


「それじゃしなくていいわよ。何時に壊れるか分からないけど結果が全て。今回の件は私達に原因があるんだから双頭龍にこれ以上望まないわ」


「そうだな、試したいと言い出した俺の責任だ」


 あ、スマウグ様が喋った。

 スマウグ様は基本無口で出会った最初は演技してたんだよね。

 それにしてもこの舌に感じる匂い……


「………飲むか?」


「良いの?ヤッター!!」


「あ、じゃあ私もそろそろ一杯」


 わぁっ、やっぱりこの匂いお酒だぁ……

 ヒューマンの国は制約が多過ぎて禁酒する事になって大変だったなぁ~。

 とりあえず一口……


「~~~ッ!ケホッケホッ!わっ!何か出た!?

 辛い!美味しい!なにこれ!?」


 ビックリした!舌にビリってきた!

 あと口からボウッて何か熱いの出た。なにこれ?


「あ、サルタナちゃん初めてのドラゴンブレスおめでとう」


「ドラゴンブレス!?」


「そうだよ~。

 初めての龍酒飲んでブレス出ちゃうなんてかわいい」


 口から小さく出た熱いのは火なのか。

 じゃあ私の体には魔力袋があるってことなのか。

 昔進化に合わせてひどい成長痛にあったけど大丈夫なのかな?


「……これの味が分かるか?」


「あ、うん!美味しいね!」


「そうね、龍酒なんて久し振りだけど美味しい。

 でもこの龍酒度数高くない?」


「これより低い酒なんて水だ」


「私は果実と割った方が好きね」


「ちょっと3人とも、話が脱線しすぎよ。

 夢幻泡影ロゥタル、こういうの止めるの夢幻泡影ロゥタルの役目でしょ?」


「話が脱線するのに私の責任は無いと思うんですけど」


「~~~~ッ!!!辛いッ!!!旨いッ!!!」


「双頭龍サルタナ!女性としてブレスは抑えなさいはしたない!」


「え?ブレスってはしたないの?」


「口からブレスを吐くなんて下位のドラゴンしかまずしないわ。

 これだからヒューマンは……」


 むぅ、失礼な。


「ヒューマンじゃないよ?ラミアだよ?」


「貴女はヒューマンでしょうが。

 それで、結界が消える前までにしとく事へ何か意見があるんでしょうね?

 ただ酒で龍酒なんて高級品を口にしてたらしばくわよ?」


 とか言ってグラキエーヌさんが一番そういうの考えるの苦手だよね?

 この数日間聞いてみてもはぐらかすばかりじゃん。

 まぁ別にいいけど。


「私はな~んにも考えてないよグラキエーヌちゃん?」


「貴女は知ってても教えてくれなさそうだから期待してないわよ。あと口下手な兄上も期待できないわ!」


「………」


 あーうん、姉さんヒントはくれても答えは基本教えてくれないもんね。

 それは期待できない。


 ただ、ノーヒントとか言いつつ答えに誘導してくれたりするのがアルカネット姉さんだけど。


「兄上も双頭龍アルカネットもどうだって良いのよ!

 期待してるのは双頭龍サルタナと夢幻泡影ロゥタルだけなんだから。双頭龍サルタナは気に入らないけど実力は買ってるつもりよ?」


「うん、ある程度考えてるよ~。

 だからこうしてシェリーをワービースト代表として連れてきたんだし。ね、シェリー」


「……えっ!?あ……ぇぅ………うん……そう……だね………」


 何も話さないと思ってたらガッチガチに緊張しちゃってたのか。


「シェリーも来る?落ち着くよここ」


「そうね、シェリーちゃんなら別に良いわよおいで」


 私は姉さんの尻尾の上に座って抱き締められながら会議に参加してて、姉さんが座ってくれなきゃ参加しないとか言い出したからなんだけどさ。


「あ……はい………」


 あ、これ完全に思考停止してるねシェリー。

 言われるがまま私の隣に座って動かない。

 よし、特別サービスだよ。友達のシェリーだからしてあげる。


「シェリー落ち着いて私がいるから大丈夫」


 腕にギュッと抱きついて尻尾でも軽く巻き付いてあげちゃう。

 ふふふ、シェリーは特別だからね。


「なっ、サルタナちゃん!?」


「むぅ、そんなビクッてする事ないじゃん。

 でも、その様子なら大丈夫そうかな?

 ……コホン、私の意見としてはワービーストの国から初めとしてヒューマンが亜人と見下してる人種の人達と同盟を組んだりして仲間に引き入れたいなって考えてるんだけどどう?」


「亜人?」


「詳しくは知らないけどヒューマンじゃない人種を指す言葉なんだって。確かヒューマンこそが最高の種族でヒューマン絶対主義って言ったかな?

 そのヒューマン絶対主義で他は全て劣等種って考えがヒューマンには根強くてね、あまりにもそれが激しくて見るに耐えないのは駆除しちゃった。

 その辺説明する気があるなら口を開いても良いよ?」


 床に座らせておいた元帝王で今は生ゴミAって呼んでる年寄りヒューマンに聞いてみたけど何も言わない。


 説明したら誰か怒って殺されるとでも思ってるのかな?

 今の状況じゃ魔法陣が消えた時の為交渉材料なんかに使うから殺される事の方が少ないんだからちゃんと説明して私達からの評価を少しでもあげた方が良いのにね。


「まあ良いけど。

 で、シェリーは魔術学園に通ってた唯一のワービーストで私が一番信頼できるから連れてきた」


「ヒューマン絶対主義なんてあるのにワービーストが学園に通えてたの?」


「……あれ?言われてみれば……なんで?」


「あ、えっと、一応帝国とヴァイトガルデンは同盟って事になってて、私はヴァイトガルデンではそれなりの身分の家の出だから表向きは丁寧に扱われてたんじゃないかな?」


 お、抱きつかれてるの振り払ってちゃんと答えた。

 緊張がほぐれたかな?


 振り払われちゃった……


 ……そうそう、ヴァイトガルデンはワービーストの国の事で、意味は広いって意味らしくて実際広すぎる。

 周辺国家全ての領土を足しても足りないくらいには広いけど危険な魔物が多く、ワービーストはともかく他の人種が下手に領土を通ると魔物を刺激してしまい一種の災害が起きる事もたま~にある。

 ワービーストの領土ではあるが、開拓できるものならしてみろっていうのが他の人種の意見で実際ほぼできてない。

 そのヴァイトガルデンと同盟だったのはやはり貴重な鉱石や魔物の素材が目当てなんだろうけど。


「それで、他のワービーストなんかも何人か連れてって帝国でどんな扱いをされていたか話してもらえば案外スムーズに仲間になってくれるんじゃないかな?

 他のドワーフやエルフなんかも同じ。

 前にも言ったけどヒューマンはやり過ぎた。

 ヒューマンは近い未来魔族意外の大半の人種も敵に回していようがなんら可笑しくない所まで来ている。

 なのに肝心なヒューマンの大半がそれを理解できてない。

 愚かさもここまでくるといっそ清々しいと思う」


「そうね……あれは酷かったもの………」


 スマウグ様も四天王も同意見らしく頷いてくれて、シェリーもうんうんと頷いている。

 大分楽になったようで良かった。


「ならその辺はサルタナに任せて良いんじゃないかしら?」


「それなら当然私も行くよ?」


「ちょっと待って下さい、それされると他の魔族が奴隷のヒューマンと会話出来なくなりません?」


「え?何それ?」


「サルタナちゃんは知らなかったの?

 今町には普通にオーガ種やゴブリン種なんかもいるのは知ってるでしょうけど、彼等が親類共通語で話してるのは私の魔法のお陰なんだよね」


「そんな事もできたの!?スゴイ!!!」


「私はサルタナちゃんのお姉ちゃんなんだから当然でしょ。

 それよりその心配はいらないよ。

 私が沢山使い魔置いてくからそれ越しに話せば通訳するようにするから」


「なるほど。では次は………」





 ・





「アハハハハ!姉さんすきすきすき!だーいすきっ!!!」


「私も好きだよ~」


「なにをー!私の方が大好きだもん!」


 なんだろうこの状況……数時間前までまともに会議してたのに……始まって最初の方からお酒飲み始めてた気がするけど今のこれよりずっとまともに会議してたのに。

 ワービーストも協調性良くないけど会議でここまでの事になるのなんて見た事も聞いた事もない。


 あとサルタナちゃん可愛いって口癖のように言ってたアルカネットさんの気持ちが少し分かった。

 なんか目の前に天使がいる。


「これ……会議ですよね」


「アルカネットさんが酒の出ない席じゃないと参加しないと言い出しまして仕方なく……

 まさかスマウグ様な龍酒持ち出してくるなんて………」


「そうなんですね」


 なんか、ロゥタルさん大変だなぁ……


「あれ?そう言えばシェリーちゃんお酒進んでないね」


「え?」


 なんでいきなり言葉飛ばしてくるのお姉さん!?


「むぅ~……シェリーお酒飲んでない~?

 私のお酒が飲めないのかこらーっ!!!」


「俺の酒だ」


 あ、ほらサルタナちゃんの矛先こっち来ちゃったじゃん。


「きゃっ!」


「むふぅ~、シェリー暖かい」


 尻尾で巻き付かれた!?

 動けない!!!


「シェリーちゃんの種族は他より少し体温高いからね。

 少なくとも私達よりはずっと高いし」


「ほらシェリー、あ~ん」


 ひぃーっ!人生初のお酒が絡み酒になるなんて思わなかったよ!!

 くっ……仕方ない……いざっ!


「~~~~~ッ!!!ゴホッゴホゴホ!!!」


「ん~?辛すぎちゃった?」


 これ辛いって言うの!?舌ものすっごいビリビリきた!?


「そのお酒初心者には辛いわよサルタナちゃん。

 私特製の甘い果実酒なら飲めるんじゃない?」


「あ、ありがとうございます」


「お酒だぁ~!私も飲む~!!!」


 う……無理矢理飲まされたくないし……ええい!


「……あ、これは甘くて美味しいかも」


「ゴッホ!?ゴホゴホゴホ!!!なにこれ甘過ぎ!!

 ンフゥ!辛っ!?こんな辛いの飲めないよアハハハハハハハハハ!!!」


 果実酒飲んだ後に龍酒飲んで爆笑してる。

 何が楽しいんだろ……


「ウフフフフフフ…………ところでこの会議とかつまらなくない?

 というかいらないよね?宴会で良くない?」


 ………え?

 ちょっとアルカネットさん?


「宴会にしてるのは兄上とあんたでしょ!?」


 グラキエーヌさんが物凄く正しい事言ってる。

 お酒持ち込まなきゃ会議しないって……


「そ~だけど~、こうやって魔族が人種の真似事してるのが変なんだって~。そもそもいったい何代前の魔王からこんな会議するようになったのさ~?

 ………そもそも魔王とは!!!」


 アルカネットさんが二足で椅子の上に立ち上がり、両手を上に上げ翼も大きく広げる姿がまるで騎士か何か見たいに凛々しくて格好いい。


「魔王は常に偉く正しく見栄続けなければならぬ!

 魔王の声は正に神の一声でありその一声という名の落雷を浴びてしまった魔族は忠誠という重く硬い頑丈な鎖で繋ぎ止められ逃げる手段なんてありはしない!およよよよ………」


 下手くそな泣き真似をしながらアルカネットさんは席に座り直す。

 それを見たサルタナちゃんがパチパチ手を鳴らして爆笑してる。


「姉さん格好いい!」


「ん~ありがとう!」


 サルタナちゃんの最早タックルにしか見えない大好きアタックが直撃して平然としてる。流石サルタナちゃんのお姉さん……


「大雑把に言ってこんな感じだよ~。

 魔王は魔族にとって特別な存在で魔族がどれだけ話し合っても魔王が命令を下さなければ協調すらできないのが普通。

 それは四天王でも同じで、四天王も魔族でしかないんだから私達が人種の真似事なんてして何の意味があるの?

 報告は大切かもしれないけどこんなの開かないで一瞬で伝わる手段を用意すれば良いだけじゃないのかな~?

 だからこれ、空回りしすぎじゃないのかな~?ん~どうなんだろうね~?」


 アルカネットさんはニコニコと笑顔の中、皆押し黙ってしまいました。

 つまりこれってアルカネットさんが正しいってことであっているのかな?


 静になって返答が無いからとアルカネットさんはテーブルに置かれた生肉を一切れペロリと飲み込んで指をと舐める。

 なんかその動作サルタナちゃんにそっくり。


「そもそも魔王はふんぞり返って理想を喋ってその理想に共感した魔族が勝手に動くだけで良いの!!!

 動きたくない奴は動かなきゃ良いし間違ってると思ったら殴ってでも止めようよ!

 だいたい今は十種族いるかいないかだから良いけどこっから百種族千種族ってなったら絶対話なんて纏まらないよ!?

 ラミアに吹雪の中突撃しろとかヴァンパイアに炎天下の中で城門壊すの手伝えとか不可能だからね!!!

 数少ないなら一つ一つ細かく決めて指示するの良いけど数千の種族だよ数千。

 似てるようでも全く同じ性質の種族は一種族足りともいない。

 人種の真似事なんて時間の無駄なんだよ無駄!」


 あ……人種なんて進化やハーフを覗けば5種族しかいませんからね。

 ヒューマン、ワービースト、エルフ、ドワーフ、ドラゴニュートです。


「あっれ~おかしいぞ~」


「な~にかな?サルタナちゃん~」


「むふぅ~、姉さんの趣味が真似事じゃん」


「………そうだね!!!」


「むふぅ~!」


「「アハハハハハハハハハ!!!」」


 うわっ、笑い方そっくり。

 血は争えないってこういうこと?

 血は繋がってないけど……


「ひぃ~……ひぃ~……あ~、こんなに笑ったのいつぶりかなぁ?

 あ~そうそう、ただスマウグちゃんはまだ第一覚醒しかしてないんだから無理しちゃ駄目だよ」


「第一………ですか?」


「あれ?知らなかったの?じゃあ今言ったの無しで」


「ちょっと何なのよその第一って!?第二があるの!?」


「その問いに関しては記憶にございませんわよ~」


「あ、あんた四天王でしょ!?教えなさい!」


「私は飾りだから本体のサルタナちゃんが知らない事は知らないな~」


 話す気無いようですね。

 大事な事の用な気がするけどまだ余裕があるって事かな?

 でも気になる。


「ねえサルタナちゃん。魔王の第二覚醒って知ってる?

 ……サルタナちゃん?」


 あ、首カックンカックンさせて眠そう。

 これ無理そうだね。


「サルタナちゃん~、寝るならお布団で寝なさいな」


「んぁ………ん~」


 眠そうに目を擦りフラフラと立ち上がり……

 あれ?私ガッチリ巻き付かれてる?


「えっ?ちょっとサルタナちゃん?サルタナちゃん!?」


「シェリー……うるさい」


「むぐぅっ」


 尻尾で口を塞がれてもうスピードで走り出したサルタナちゃんに連れてかれてしまいそのまま布団へダイブしても離せてもらえなかった。


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