双頭龍
「ご馳走さまでした!」
「はいはい、お粗末様でした……で合ってたわよね?
確かそれってワービーストの方の文化のやつ?」
「あれ?なんだ姉さん知ってたんだざんねーん」
「無駄に長生きしてないも~ん」
私が机にぐで~ってやると姉さんがとても期限良さそうな私の頬をつついてくる。
「そう言えばサルタナちゃんの友達のシェリーちゃんはそっち系のワービーストだったわよね?
あのワービーストの文化、殺したからには丁重に弔うか全部食べるって言うのがあるけどさ、あれで毒持ち食べて死んじゃうワービーストが後をたたないから気を付けてあげないとね」
「えっ!?そうなの!?」
「そうだよ~」
「毒で死んじゃうってワービーストも劣等種だったの?」
「別にそうじゃないけど、耐性を削って身体能力に変えた種族だからね~」
「へー、それは知らなかったな」
うん、だとしたらシェリーの事もっと気にかけてあげよう。
と思った所で無駄に広いお城の食堂の扉が勢い良く開く。
「起きたのねサルタナ!
早速で悪いけど私じゃ処理しきれない事がありすぎるから手伝って!!」
「ロゥタル様?」
「サルタナちゃん、同僚相手に様付けは失礼だよ。
呼び捨てがしずらいならロゥタルさんの方が良いよ。
ね、ロゥタルちゃん」
「あなたはスマウグ様にもちゃん付けするじゃないですか」
「私が認めても良い風格が付いたら考えてあげなくもないな~」
あれ?ロゥタル様と姉さん知り合いなの?
寝てる間に知り合ったのかな?
あれ?そもそも何で姉さんがここにいるの?
それに同僚って私とロゥタル様が???
「え?ロゥタル様四天王クビになっちゃったの?」
「違うわよ。あんたが新たな四天王ってだけよ"双頭龍サルタナ・レッドサーペンタイン"」
「誰?」
多分、私の事を言った勝ち気で綺麗な女性が私の事を睨み付ける。
「私は"氷結龍グラキエーヌ"。
あんたと同じ四天王だ、"双頭龍サルタナ・レッドサーペンタイン"」
あ、やっぱりその長い名前私の事なんだ。
「四日前あんたの覚悟は確かに見させてもらったけど、たった一回だけじゃ私はヒューマンなんか信用できないわ。
だから……ちょっと"夢幻泡影ロゥタル"邪魔をしないで!」
「先に邪魔したのは貴女でしょうグラキエーヌ。
邪魔する暇があったら書類関係手伝ってくれませんかね?
してくれるんですよね?」
「私は人種の共通語読めないって言ってるでしょ!?」
「なら少しでも役に立てるよう勉強してください邪魔しないでくださいお帰りください」
「分かった!私が悪かったから!
双頭龍!兄上の尻尾触れたからって言い気にならないでよ!
それだけ!!」
いきなり現れたグラキエーヌさんは私を指差しそう言って嵐のように過ぎ去ってしまいました。
「サルタナちゃんサルタナちゃん。
私も"双頭龍アルカネット・レッドサーペンタイン"って四天王名貰ったんだ。
サルタナちゃんとお揃い」
「四天王……私が?」
ん……龍?蛇じゃなくて?
「そうだよ。
それでほら、名付けで進化して一応龍種になったから双頭龍なの」
「姉さん進化したの?」
「サルタナちゃんもだよ~」
そう言って姉さんが取り出した手鏡に写った私の姿は、白い髪の前髪に赤い線のような模様と、後ろ髪が途中から赤く変化していた。
「模様が私とお揃いだね」
「え?……とくに何も……っ!
ねえ!なんで認識阻害して模様隠してるのも~っ!!!」
こんなの目を凝らさなきゃ分からないって!
「だって~、サルタナちゃんをビックリさせたくて~」
そうニコニコ笑みを見せる姉さんの髪にも私と同じ模様と後ろ髪に変化が起きている。
丁度私の色合いと反転したような白い線の模様。
ビックリしたし姉さんと違うけどお揃いだし嬉しくて飛びかかったらぎゅっと抱き締めて撫でてくれるのでそのままスリスリとする。
「………思ってたよりずっと親バカですね」
「ん~?誉めてるの?」
「誉めてませんよ。
それよりサルタナ、甘えるよりどうしても先やってほしい事があるんだけど良いわね?」
「……うん、分かった」
多分話の内容から他国やら経済関連の話だろうけど今更無駄だよねって思ったけど、もしかしたら違う事かもしれないから頷く。
「サルタナちゃんサルタナちゃん」
「なに、姉さ………ん?
あ…………わぁ~!なにそれ凄い!!!凄く綺麗!」
姉さんの背中からは赤い鱗に覆われた大きな翼が生えていた。
その艶々とした鱗がルビーのようでとても綺麗で美しくて素敵!!
「姉さん触らせて!!!」
「ん~良いけどサルタナちゃんのもね」
「え?私のって?」
「んエッホ!コホン!少し宜しいでしょうか!?」
はっ!ロゥタル様……さんの事頭から抜けてた!?
「ご、ごめんなさい!えっと、何すれば良いの???」
「とりあえずこれだけ目を通して貰っていい?」
「あ、はい!」
私は姉さんを背もたれにロゥタルさんから手渡された紙に目を通して行く。
「せっかくサルタナちゃんと仲良くしてたのになんでロゥタルちゃんは邪魔するのかな~?嫉妬なのかな~?」
「寝言は夢の世界で言ってください。
それよりアルカネットさんも四天王引き受けたんですから少しくらい仕事してください」
「私の四天王としての本体はサルタナちゃんだから。
サルタナちゃんが居なきゃ魔王の側になんて居る意味無いって何度も言ってるじゃん」
「分かってますけどこの四日間私しか働いてない気がしましてね、同じ四天王が3人も居るのに、これって絶対に気のせいですよね?でないとおかしい」
「寝不足なんじゃないの~?もしくはカルシウム不足?
哺乳類の乳を飲めば良いと思うよ?」
「会話が面倒くさくて適当な事言ってませんか?」
「そうなんじゃないかな?ロゥタルちゃんの思うようにしたら?」
「サルタナに頬擦りしながら答えるの止めてください!!」
「あの、ロゥタルさん」
「あ、流石サルタナ。もう目通し終わった?」
パアッと期待のこもった視線を向けられてしまった。
「う、うん……」
い……言いづらい………
でも、言わないといけないよね。
「えっと、ロゥタルさんが何してたか知らないけど、その……たぶん……」
「多分~、この四日間ロゥタルちゃんがしてた事無駄だったんじゃないかな~♪ね、サルタナちゃん」
「え?あ、うん……うん?何で姉さんが分かるの???」
「それは私がアルカネット姉さんだからだよ~」
……流石姉さん。
私の勝負事好きは姉さんの影響で何度も姉さんと勝負した。
とても小さな勝負だったり沢山。
その一度たりとも私はちゃんと姉さんに勝ったことはない。
勝ったのは一度だけ、私が落ち込みすぎた時に私を元気付ける為にわざと負けた時だけ。
あの時は悔しくて姉さんに酷い事言ったのを今でも覚えてる。
それ以降の姉さんは私との勝負で一度だって手を抜いた事がない。
まるで、手のひらの上で踊らされているような、私の心を見透かしたような読みの深さ。
これが私自慢の姉さんだ。
多分私を甘やかしてくれてるのも慰めも入ってるんだろうな。
私がたくさん頑張った事を知ってて崩れちゃった事を励まそうとしてくれて、うん、凄く助かる。
「………ちょっと、それどういう意味?」
姉さんが切っ掛けを作ってくれた。
だから覚悟を決めて口を開く。
「四日前……の事なんだよね?私がスマウグ様と戦ったの。
その時に私が使った切り札は半永久的に持続する魔方陣の魔力巡回先を魔方陣から私にして、そこからだけじゃなくて既に魔方陣として構成され維持してる魔力も私へと逆流するようになってたんだ。
まだ、魔方陣は残ってるけどとっくに修復できる状況じゃなくなってる。
だから………私の計画も取引で開示した状況の再現も……もう………できなくなっちゃった」
「…………」
ロゥタルは虚空を見つめて停止してしまい、書類をバサバサバサと落としてハッと動き出す。
「ちょ、ちょっとまって、それ絶対修復できないの?
サルタナならできるんじゃないの?」
「それは無理だよ」
姉さんが私を引っ張り抱き締める。
多分、年のために私を庇い守る為に。
証拠に尻尾もそういう風に動かせる体制へと微妙な変化が起きている。
この変化は同種や余程観察眼に優れた種族、才能に恵まれなきゃ分からないと思う。
「何故なら、この魔方陣は魔法でも魔術でもない。
名前を付けるなら魔法術式とでも名付けようかな?
魔法と魔術の良いとこ取りした魔法術式はあまりにも若い。
たった6年ちょっとでちゃんと発動する。
しかもこれだけの規模で発動できてしまう物を作っただけでもサルタナちゃんは天才的だというのに、完全に壊れたのを作り直すならともかく壊れかけを直すなんて出来るわけないじゃん」
「う………そ、そうですね…………」
「そしてこの規模を作り直すのにいったいどれくらい時間がかかるんだろうね~?お互い半端に賢い者の下に付くと大変だね~。
みんな巻き込んで墓穴掘ってくれるんだから」
墓穴掘る…?
何でお墓を掘る話しなのに姉さん楽しそうなの?
そもそも何で賢いと墓穴掘るの???趣味なの???
聞きたいけど今聞いて良い雰囲気じゃないし……
「………すいません、少し眠らせてください」
「うんうん、そうしなさいな。おやすみ~」
ロゥタルは私達に見送られながら突如現れた拳サイズの黒い球体に吸い込まれて消えてしまった。
今のがサキュバスの能力なのかな?
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