魔王2


「奴隷は置いてみんな下がって!」


 私の言葉を素直に聞いてみんなは下がってくれたけど……


「フォルト!」


「で……でも……」


「でもじゃない!足手まといでしょ!」


 シェリーは私とオーガの戦いを見てるからね。

 それに私が武術より魔法の方が得意だって知っているから尚更分かってくれている。


「シェリー、お願いね」


 シェリーは一瞬何か言いたそうな表情をしたけど、頷いてフォルトを抱えあげて下がってくれた。

 本当、ありがとうシェリー。

 後で……があるならシェリーと一緒にまた甘いもの食べたりしたいな。


 私は真っ直ぐと魔王を見つめ構えを取る。

 ヒューマンのある流派から盗んだ素手による格闘技術の構え。


「どこからでもかかってきて良いぞ?」


 私の構えに対して剣を下ろし何処までも余裕の笑みで見下ろす魔王。

 それだけ実力差があるんだから当然か……それなら。


「……これから私は貴方に全力でぶつかる。

 けど、それでも私じゃ貴方に敵わないかもしれない。

 だから、私の命でみんなは見逃して………」


「む………」


 構えを解いて放った私の言葉に魔王は悩み、やがて笑みを浮かべる。


「あぁ、良かろう。

 それで貴様の全力を見れるというなら良いだろう!

 ついでに先程の要求も飲んでやろう。

 ただ、その時に貴様はどうなっているか分からんがなぁ?」


「どうなるって……もしかしてヒューマンが謳う死後の世界ってやつ?

 そんなのあるかも分からないのに気にしてどうするんだろうね?

 今を生きるだけでも必死そうなヒューマンは沢山いたのにね……」


 指示意外の身動きを取るなという命令で動けなくなっている元帝王と関係者の奴隷を眺めて私の不満を投げ掛ける。

 しかし彼等が浮かべる恐怖の色で何を考えているか読み取れなかった。


 確かに私は死ぬかもしれない。

 でも、死なないかもしれない。


 どうせ死ぬにしても全力で、私の持てる全てを出しきらなければ勿体ない。

 このお方に、私がどれだけ本気だったか。

 私という存在を忘れられない為にも私の全てを!


 これを使えば勝とうが私は死ぬかもしれない。

 生きる確率より死んでしまう確率の方がずっと高いんだから。

 最後の最後、どうしようもなくなった時に使う切り札。

 それを今使わないでいつ使う?


「……もし死後の世界があったのなら、死んでから考える。

 今までそうしてきたし、これからも……そうするッ!!!」


 先程とは違う構え。

 獣のように四足歩行のような構えをとった瞬間、全身に赤い模様が浮かびブチブチブチッ!!!と私の肉体のいたるところから切れてはならない何かが切れる音がした。


 更に、私の体、この部屋全体……いや、そんなものじゃない。


 帝国領土全体に赤い光が浮かび上がり徐々に徐々にと私へと収束していき、纏っている力が透明な青白い色から黒っぽい色へ変色していき赤くなる。


「なっ!?」


 キィン……となんとも呆気ない音を奏で、矢よりも早く動いた私の渾身の突きを防いだ事で魔王の剣は折れ。


「ハアッ!!!」


 肘と膝、尻尾を同時に放つアレンジの入った体術が的確に魔王へと命中し、折れた剣はその衝撃波と共に吹き飛び壁を突抜け城を破壊しながら魔王が転がっていく。


 本来ならラッシュを決めるところだったが一発でも当てれば吹っ飛ぶことは目に見えていた。

 まだ全然制御できてないしこれからもっと私の力は増す。

 それなら一撃一撃殺すつもりで畳み掛ける!


「ジャガーノート!!」


 本来私の魔力収集能力では放つ事すらできない不可視の破壊衝撃波を追い討ちとして放つ。

 ジャガーノートの何が恐ろしいってその速度と破壊力だ。

 確かに範囲は狭いけどジャガーノートの前に理論は意味をなさない。

 まるで破壊した結果のみを残す魔法である。

 しかし結果的にこの魔法で死ぬ事になろうとも、この魔法で即死させる事はできない。


「なっ!」


 ジャガーノートで掻き消えた煙の先が赤く光り、飛び退いた私がいた場所を一瞬遅れて炎属性を帯びたマジックレーザーが壁も天井も溶かし尽くした。


「ハハハハ!今のはかなり痛かったぞ!!!

 しかし……あまり長くは楽しめそうにないようだなぁ?」


 全身の至るところがズタズタなのに笑う魔王を見てつい苦笑してしまう。

 見た限りでは何故立っていられるのか不思議なくらいだけど、私よりマシなのかもしれない。


「……ご期待にお答えできず申し訳ありません」


 私の今の状態。

 四年かけて作り上げた半永久的に存在し続ける魔方陣を少しずつ解体して私へと戻す。ハッキリ言ってしまえば自滅であり、見た目は魔王程損傷してないが尋常でない速度で常にダメージを受け続けている私の方が辛いようだ。

 ジャガーノートを直撃した方が今の私の状態よりマシというのはどれだけ無茶してるか改めて認識させられる。


 今の一瞬だけで私の中に貯まった魔力はおよそ私1人の魔力許容量の数十倍。

 そんなの肉体が耐えられるわけがないけど……動かせる。

 ちゃんと痛みを感じないようにした。

 神経が切れても体を覆う魔力で動かせば問題ない。

 無駄を極限まで減らして今を勝つことだけを考え、未来の自分自身を捨てているのが今の私……


「フフフ、そのわりに眼は死んでいないぞ?」


「生きる為に戦ってるのでっ!」


 私が選べる行動は速攻のみ!

 ただ真っ直ぐ行って重い一撃のみをひたすら叩き込む!!


 私が足に力を入れただけで魔力が爆発するかのように体内で弾けて同時に修復を繰り返している。

 圧倒的なまでの魔力に任せたただの突進。


 しかし、その突進1つで城門どころか城壁すら粉々にできる自信がある。


「甘い」


「ゴッ………」


 突きが避けられ私は腹から蹴りあげられる………






 …………姿を視界に納めながら放った。


「マジックレーザーッ!!!」


「なっ………」


 炎、水、風、土の属性を魔力任せに無理やに押し固めたようなマジックレーザーを魔王の背後から放った。


 魔王は、虹のように光輝くマジックレーザーに飲み込まれていった。


「グッ……」


 属性を付与されたマジックレーザーはジャガーノートと同等の魔力消費量が必要になり、これも本来私が放てるような魔法じゃない。

 1属性でジャガーノートと堂々なのだからこのマジックレーザーはどれだけ凄いものか。


 今まで放った事のない魔力量によるマジックレーザーのあまりの反動で真っ直ぐ放っていたのが徐々に上へ腕を持上げ天井を破壊していき、ついには私の両腕がもげてマジックレーザーは消えていった。







【はいはい、そこまで】







 パンパンと手を打ち鳴らす音が響いた。


「えっ……」


 その音を耳にした途端、もげてしまった私の両腕が元に戻っていた。

 それだけでなく、赤い模様と魔力が消失しいつもの量に戻ってしまった。


「ハハハハ!今のは痛いじゃすまないな!

 最悪死んでたんじゃないかぁ!?」


「流石に笑い事じゃないでしょうにスマウグ様?

 ドリーミーとして特化してるサキュバスの私が奥の手を使わなかったら今頃ミンチですよ?といいますか、一回ミンチにされたの分かっておられます?」


「仕方ないだろ、お前が強い強いって言うラミアヒューマンが何処まで凄まじいか試したかったんだからな。

 まさかドラゴンブレスでミンチにされるとはな」


「サルタナの何かを守ろうと貫き通す力は凄まじいですよと報告いたしましたよね?

 私も腕の骨折られましたし……」


 ロゥタルと魔王の話す声が聞こえる。

 聞こえるけど、何故かボーッとして内容が頭に入ってこない。

 ただ、なんでか分からないけど戦いが終わったということは理解できる。


「あ、もしかしなくても何が起きたか分かってないわよね?

 今のは私のサキュバスとしての力。

 サキュバスは男性を誘惑するというのは間違いではないけれど、私は誘惑するのが苦手なのよね。

 代わりに現実に起きた事を夢の出来事にしたり、夢で起きた事を現実にできる。

 それが私の力………って、ちょっとサルタナ大丈夫?」


 ロゥタルが何か言ってきている。

 けれど、私は視界がボヤけて重心が狂っていく。


「ちょ、ちょっとサルタナ!?」


 そして、私は意識を手放した………







 暗い、暗い中、何か、暖かいものが私に触れている。


 いったいいつから触れていたか分からないけど、触れている事に気付いた時からとても安心できた。


 今まで散々頑張ってきたんだしもう少しくらい休んでも良いよね。


 そんな考えが過り、私はその温もりにただただ甘えていたいと思った。


「……ちゃ……………」


 声が聞こえた気がした。

 けれど、その一回だけで何も聞こえなくなって、私はこの温もりにを感じながら眠る事にした。


「サルタ………ん……………」


 かなりの時間が建ってからまた声が聞こえた。

 今度は気のせいなんかじゃなくて私の名前を呼んだ声だと分かった。

 その声が、とても温かくて、懐かしい。


 聞き間違いようがない、姉さんの声だ。


「サルタナちゃん!」


「…………ねえ……さん……?」


 開けた瞳に写ったのは私の姉、アルカネット姉さんの顔だった。


 姉さんは私が目覚めた事に気が付くと私の名前を呼んで強く抱き締めてくれた。

 何故姉さんがいるか分からないし、知らないベッドに知らない部屋で何なのか訳が分からなかった。

 でも、姉さんが居てくれるならそれで良いや。

 私、姉さんとなら何処にだっていけるよ?


「ごめんね……ごめんね………辛かったよね……髪……こんなに白くなっちゃって……私………こんなつもりじゃ…………ごめんね……ごめんね…………」


 姉さんは大粒の涙を流しながら私に謝罪をしてくる。

 その抱き締めてくれる力がちょっと痛いくらいだけど、とても温かくて、姉さんにちゃんと愛されているんだと実感できて幸せだ。


「ううん、姉さんは悪くないよ。

 私が、自分で決めた結果だから。

 でも、頑張ったよ私」


 私も姉さんに負けないくらい力強く姉さんを抱き締める。


「うん、頑張った……良く、頑張ったね。

 でも……頑張りすぎだよ………私、サルタナちゃんが頑張っているの、全然知らなかった………ごめんね…………

 痛かったでしょ?辛かったでしょ?」


 姉さんは一度抱き締めるのを止めて私の顔を真っ直ぐと見つめて聞いてくる。

 姉さんの顔がしっかりと見れるけど……


「うん、でも大丈夫だから、そんなに泣かないで。

 せっかく会えたのに泣いているばかりじゃ嫌だよ。」


「………うん、そっか。

 じゃあ……お姉ちゃん頑張って泣き止むから………」


 そう言いながらも姉さんが泣き止むまでけっきょく10分くらいかかった。





「は~……なんかいきなりサルタナちゃんに情けないところ見せちゃったなぁ~。情けないお姉ちゃんでごめんね」


 ようやく落ち着いた姉さんが目元を擦りながらそう口にする。

 せっかくの美人さんなのに目元が赤くなってしまっていて少し残念だけど、私の為にそうなったと考えると凄く嬉しくて幸せな気分になる。


「そんな事ないよ。私の為に泣いてくれて嬉しかった」


「そっか……なら良かった。

 それにしても、サルタナちゃんの為を思ってやったとはいえ、私はとっても残酷な事をしてしまったのね。

 サルタナちゃん、怒っても良いんだよ?」


「だから、それは仕方なかったじゃん。

 あのままじゃ私は死んでたし、こうなったのも私が望んで行った結果なんだもん。むしろそれを否定する方が怒るよ?」


「………そっか。ならもう言わないようにするね」


「うん」


「それでサルタナちゃん、何かしてほしい事とか無いかしら?

 お腹も空いてるわよね?どうしよっか?今何か持ってくるわね」


「だっこ」


「え?」


「だっこして」


 両手を出してだっこして連れてってと要求すると姉さんは嬉しそうに微笑で私を抱き上げてくれて、私は姉さんの首をまわすようにぎゅっと抱き締めた。

 すると姉さんの方から私に頬擦りしてくれて、私もし返した。

 私、今凄く幸せだ。


「サルタナちゃんは相変わらず軽いわねぇ~。何キロくらいかしら?」


「尻尾無いと36くらいだよ。ヒューマンの前じゃ尻尾出せなかったんだ」


「そっか……尻尾が無いと不便よね?」


「残念ながら私は姉さんみたいに足が全部尻尾じゃないから」


 と私が言ったタイミングで私のお腹が小さく鳴った。


「あ……」


「やっぱりお腹すいているわよね。

 もう4日も眠ったままだったのよサルタナちゃん」


「………4日?」


 え?なんで4日も?

 そりゃ私はラミアだから一週間くらい飲まず食わずでも餓死しないけど4日も寝てたの?

 それなら普段絶対に鳴らない腹の虫が鳴るのも仕方ない。


 ………って


「あ……あれ?姉さん。フォルトは?シェリーはどうなったの?」


「サルタナちゃんのお友達は元気よ。

 ただ、皆やる事があるから居ないけど、二人とも時間がある限りはサルタナちゃんの側に居てくれるのよ?

 こんな場所に送っといてなんだけど、良い友達ができたわね」


 そっか……良かった。


 シェリーもフォルトも、姉さんを覗いて初めて私の命をかけても良いと思えた家族意外の存在。

 私の大切な友達。


「サルタナちゃんに話さなきゃいけない事、沢山あるけど先ずはごはんにしましょ。

 その後体洗って綺麗にしてからね。

 サルタナちゃんはこんなに可愛いんだから勿体ないわよ」


「ん……姉さんに誉められるとテレる………」


 姉さんにだっこされたまま部屋を出ると見覚えのある帝国城の廊下だった。

 そのまま私は姉さんに運ばれて食事を取る事になったけど、出されたのはグツグツに煮立てたパンスープで少し残念。

 4日も何も食べてなかったんだから仕方ないかもしれないけど。

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