魔王1
元ガーランド帝国城の三階に存在するダンスホール。
そのダンスホールのガラス張りの扉を開けてテラスへ出た。
ダンスホール同様この場所で武術による見せ物をする事もあってそれなりに広いしこれだけ広ければ十分だよね。
シェリーとフォルトを放して両手に力をこめる。
「ハアアア……ヤアーッ!!!」
魔力を集め真上に向かって魔力砲を放つ。
「へ……え?なにそれ……凄そう、魔法?」
「うん魔法マジックレーザーだぞ」
この極太の魔力波なら嫌でも目立つから相手も気付いてくれて嬉しくて両手を振って場所を示す。
この魔力砲、何度帝国に叩き込んでやろうと思ったことか……
魔力砲は見た目と違ってそんなに威力は無くてね、岩を吹き飛ばす程度の威力しかなくて魔術や魔法で強化されていたり、沢山の命を奪って存在そのものが強くなっている個体を仕止めきれる程の威力は無い。
その分広範囲だし派手だしカッコいいから私のお気に入りの魔法。
「わ……デカイ…………」
「うん……そうだね、凄く立派でカッコいい………」
シェリーもフォルトも私の後ろに隠れちゃったけど、私を盾にしたところでこのお方の前では私は簡単に死ぬと思う。
なんて膨大で流水のように美しい魔力。
………それより、このお方の後ろ足の部分の赤い鱗が何て言うか、セクシーというか、色っぽいというか、とにかくすっごく綺麗。
『良くお越しくださいました、私はサルタナと申します。
この度は私などという薄汚れたヒューマンの為に態々お越しくださった事誠に感謝いたします、強大な力を持つ偉大なる竜様』
昔姉さんに教えてもらった魔族の挨拶、右手を軽く広げ自分の胸を鷲掴むように触れながら目の前の大きな竜へ挨拶をした。
全体的に黒く、角や爪の根本は紫色が帯びていて先は赤く綺麗に光っている。
これほどの魔力を持ち、神々しい竜を私は一度も見たことがない。
姉さんと住んでた場所の近所に本名モルツェっていって、私はモル爺って呼んでた老竜が住んでたけど全然違う。
モル爺からは戦う時に便利な魔法をいくつも教わったけど、正直モル爺はそんな強くなくて大きいけどヨボヨボだし鱗も柔らかい。
そのモル爺から教わったことだけど、保有魔力量が多ければ多いほど周囲の魔力を集める力が強くなるから魔法も自身が持つ魔力量で強さが変わると言われたら嘘じゃないんだよね。
ただ、集める力が強すぎて魔法を魔法として使えない人もいるらしくて、そういう人は集めた魔力を力任せに叩きつけて敵を潰すとかなんとか聞いた。
そして本人の魔力量が低くても使い方がもっの凄く上手な人は叩きつけられた膨大な魔力を吸収したり、跳ね返したり、すり抜けたりするのを案外簡単にやってのけたりする。
ただ、その魔力の塊がちゃんと魔法に変換されていたなら同じように対処するには数段高度な技術が必要になるらしい。
ちなみに私も姉さんも魔力多くないけど使い方が上手いタイプ。
小手先が得意で知識を蓄えに蓄えた私はそんじょそこらの敵には負けないよ。
「人種語で構わん。
貴様がロゥタルの言っていたヒューマンだな?
確かに限り無く我々に近いがヒューマンだ。
しかし我々は別に差別するつもりは無い。
一応我が魔王ということになっているが敬語もいらん」
「偉大なる王に対し……」
「二度言わすな、私の命令が聞けないのか?」
背筋がゾクリとした。
この感じは何度か感じたことがあるけれど、今までのどれとも別格すぎて同じと考える事すらおこがましい。
生命としての本能が敵わないと警戒を鳴らしている、魔力を当てられた訳でもないのに……
「……はい、わかりました。じゃあ言葉に甘えて崩すね」
けれど、やっぱり素敵で優しい方だ。
さっきのはほんの一瞬だった事から私をテストしたんだと思う。
解放された私はニコリと自然に笑えた。
ロゥタルもこのお方も本当に素敵。
とくにこのお方の鱗なんて…なんて力強くて素敵なのでしょう。
ただ力強いだけでなく一枚一枚芸術品のように完璧に並んだ爪の生え際の鱗なんてそれはもう……私の尻尾の付け根辺りなんて鱗が剥ける頻度が多くて手入れしててもやっぱり汚いし、そりゃ鱗のものがそもそも違うけどそれでもなんて素敵なんだろう。
「ふ、それで良い。
ご苦労だったなサルタナよ。
この後取引が成立した場合、王として褒美をやるつもりだが我個人としても何か褒美をやりたいと考えているから考えておけ」
「あ……あの……その……う、では!鱗を触らせて!!!」
無理、限界、目の前になんて素敵な鱗……
素敵すぎてもうなんて言ったら良いのかな?
なんかこう、なんていうか!
「……ふむ、良いだろう。
ただしお前の鱗も触らせてもらうぞ」
「え……」
私の鱗って……そりゃ適度に手入れしてる、でも、この尻尾は……
でも、それでも触らせてもらえるなら……
「その……ストレスでとても人に見せられる状態じゃ……でも、それで触らせてくれるなら……良いよ………」
「構わぬ」
そう言うと巨大な魔方陣が宙に発生し、竜の巨体が魔方陣に吸われていき人種の姿へと変わっていた。
オールバックの赤い髪をして黒い服を着た筋肉質な男性。
その体には確かに竜の羽としっぽが付いていて、小さくなったとはいえなんと力強い。
その尻尾で城壁なんて貫いてしまうのではないかと見とれてしまいます。
「このスマウグの尻尾を触れる事を誇りに思うがいい」
スマウグ様……なんて慈悲深く優しい御方……
私が同じ条件をヒューマンなんかに出されたら殺している。
殺されても良い、一度だけでも触れてみたいという気持ちが込み上げ口にしてしまった程にスマウグ様の尻尾は魅力的だと私は思い、考えられないのに沢山の言葉が頭の中を駆け回る。
「あ……あぁ………」
両手で尻尾包むようにして触れるが当然私の小さな手では収まらない程で、硬く、ただ硬いのでなく滑らかでいて少し湿ったような感じでありつつ確かに熱を帯びていて、むしろその熱はずっと触れていると火傷してしまう程。
その光輝くような鱗の美しさときたらなんて素敵なのでしょう。
「……サルタナよ、お前の尻尾を触らせてくれるのではなかったのか?」
「ハッ!ごめんなさい!スマウグ様の鱗があまりにも素敵で……」
私は慌てて尻尾をスマウグ様に尻尾を近付ける。
……取り繕いつつもスマウグ様の尻尾を放さなかった事に気が付いたけど失礼すぎかな?
「ふ、我の尻尾だぞ、当然だ」
あ、良かった。
スマウグ様程の美しい方なら誉められ慣れているかもしれないけど、素っ気ない言葉のなかに暖かさを感じた。
それが、私を仲間と受け入れる事を前向きに考えてくれていると分かって、とても嬉しくなった。
「ふむ……やはりまだ子供だな。
それでも大人になろうとしている未来を感じさせる良い尻尾だ」
「スマウグ様は、とっても力強くて、水気を持っているかのような感じなのにとても硬くて………凄く素敵です。
そして、とても暖かく、心地好くて……格好いい」
これだけ素敵な尻尾と私のストレスでハゲのある尻尾を比べるなんて……恥ずかしさで死んじゃいそう……でも素敵。
「そう暗い顔するな……考えている事はだいたい分かる。
私はサルタナは美人だと思うぞ?」
「……ありがとうございます」
美人……そんなわけ………
だけどここで変に言って不快な思いをさせてはいけない。
只でさえ不相応な願いを聞き入れて貰ったのだからこれ以上はいけない。
「それよりもスマウグ様!
スマウグ様にこの国を引き渡す準備はできています!
こちらにお越し下さい!」
「敬語はいらん」
「は、はい!あ、いや、わかった!そうするよ!」
「うむ」
玉座の間
この城の中でもとても広い部類の部屋で、床に赤いはガーランド帝国の紋章が印された縦断、左右には紋章の印された旗があったが今は撤去されていて玉座くらいしかない少し殺風景な場所。
その玉座に新な王が腰掛ける。
燃えるように赤い髪と瞳を持つその魔王。
今は人種のような姿をしているけど、本来のその姿は全長数十メートルはありそうな強大な黒い竜であり、その竜の姿の面影は尻尾と羽が残っているくらい。
スマウグ様は構わないと仰有っていたけど、ロゥタル様が形だけでもと私達は平伏することになった。
これは私もロゥタル様に同意できる。
というより、失礼かもしれないけどスマウグ様は私の実家である森の魔族達とそんな変わりがない雰囲気を感じる。
もしかしたら取っつきやすいようにわざとそうしてくれている可能性もあるけど。
逆にロゥタル様は人種のお偉いさんのように洗練されているという雰囲気があって、けれどロゥタル様も話しやすい印象を感じる。
これは単純に顔立ちの
「さて、これから契約を交わす訳なのだが内容の確認をしようではないか。
面倒な事はロゥタルに任せるとして、簡潔に頼む」
私は確認の為にロゥタル様の顔を伺うと話しても良いと頷いてくれたので口を開く。
「私達の要求はスマウグ様の国の民として迎え入れて貰いたい事と、私の姉であるアルカネットを探し私達と同じ扱いをしてもらいたい事です」
一度「失礼」とスマウグ様に許可を取って立ち上がり手を打ちならしと合図を送る。
予め決めておいた通りワービーストとエルフのお兄さんお姉さん達が元帝王や有力者等を連れてきてくれる。
「私達が出せるのは、ここにいる元帝国皇帝、帝国の有力及び、この町の全ての奴隷であるヒューマンの全てです。
この城も城下町も奴隷も現在は私の物ですが、先程の要求を受け入れてもらえるのであればこれら全ては偉大なる魔王様の物です」
この時私は自分の要求が通ると思っていたから表情を隠すのが大変だった。
1秒、2秒と建ってもスマウグ様は何も言葉を発さず私を見下ろしていた。
そして、ニイッと笑みを浮かべる。
その笑みはとても不安を感じさせるもので、最悪にもそれは的中した。
「サルタナよ、元々この世界は魔王である我の物であろう?
元々私の物であるはずの物を交渉材料として出すとは……あまつさえこの城がお前の物だと?」
あまりの言葉に何を言っているのか正確に理解できなかった。
ただ、これではまるでヒューマンが思い浮かべる魔王そのものじゃないかという思いで縛られてしまっていた。
「………ただ、部下になると言うならその願い、叶えてやる事もやぶさかではないな」
「は、はい!私で宜しければ喜んで!」
良かった、一応形式としてって事でそれらしい事を言ったのかな……?
姉さんは魔族が魔王になろうともいきなりなる前と性格が変わるなんて無いって教えてくれた。
もしかして姉さんも間違っていたんじゃないかと不安を抱いたけど安心した。
「それでは忠誠心を見せてもらおうか。
そのヒューマンの子供を殺せ」
残酷な笑みを浮かべ、フォルトを指しながらそう言った。
「な……今、なんと仰有いましたか………?」
「我にもう一度同じ事を言わせようとするのか?サルタナよ。
なに、簡単な事だろ?
報告によればサルタナは極度のヒューマン嫌いであろう?
教会で神父の首を潰した時と同じようにやれば良いだけの話。
ほんの少し色の違う虫を潰すのに何を躊躇うのだサルタナ?」
私が……フォルトを………
チラリとフォルトの方を見た瞬間、目があった。
するとフォルトは一度頷き、目をつぶって少し上を向いた。
………本当に賢い子。
この1ヶ月、私は常にフォルトを側に置いていた。
フォルトは私がする行動一つ一つ良く質問してきて、それを良く吸収してくれた。
元々顔立ちからしても良い所の出だということは分かっていたけれど、それでもフォルトの理解力は高くて教えるのがとても楽しかった。
そんなフォルトが今の状況を分からない訳がない。
「………できません」
私はフォルトの事を自分と重ねて見ている。
もし、姉さんが拾ってくれなければ私は死んでいたし、姉さんの為なら死んだって良いと考えている。
そして、フォルトは私の為に死ぬ事を選んでいる………
私と……同じように…………
「ですがスマウグ様……」
「それが答えか……」
とても低く、怒りさえ含んでいそうな声に私の言葉は断ち切られる。
「なら、我がやってやろう」
ゾクリと体が震えた。
けれど、私の体は一瞬止まった思考とは裏腹に動き、右手でそれを弾き、それにより激痛が走る。
「グウゥッ!!」
「サルタナちゃん!」
「サルタナお姉ちゃん!」
フォルトとシェリーが心配してくれて、私は「大丈夫」と答えたけど痛みが凄い。
中指と人差し指が完全に焼け焦げてしまっている。
けれど、一回は守れた。
「……何の真似だ?」
「この子は……私の子!
私が拾って私が育てると決めた!だから守る!」
即座に神聖魔法で回復を施したけが完治には至らない。
全身の魔力で全神経研ぎ澄まし魔王を睨み付ける。
「は、良い眼だ。面白い。
我が直々に試してやろう」
魔王は立ち上がり、魔法により出現した闇を凝縮したような穴の中から刃が乾いた血のように赤黒く、それでいて力強さを感じさせる大剣を取り出し私へと向けた。
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