1ヶ月
サルタナちゃんが帝国を落として二週間いろいろな事がようやく落ち着いた。
この二週間、衝撃的な事の連続だった。
私はガーランド帝国の他種族への、特にワービーストへの差別の酷さをちゃんと理解できていなかった。
私はワービーストの国、小国だけれどそれなりの家の者で魔力が高いから他と比べて丁寧に扱われていたのだと知った。
それでも虐めを受けたりしてたのだけど、他はそんなものではすまない程に酷かった。
あの日、商人を殺した女性は自分の子供を守る為に働いていたらしいのだけど、けっきょく商人は子供もろとも女性を騙し奴隷にし子供を親の目の前で殺したという話を聞いた。
奴隷とした解放されたあの女性はその後も商人を何人も殺し続けて、それに気付いて戻ってきたサルタナちゃんが止めるまで止めることは無かった。
ヒューマンはとりあえず4種類に区別される事になった。
契約の為に生きているだけで価値のありそうなヒューマン。
暗示魔法を受け入れて絶対服従を受け入れたヒューマン。
受け入れず完全に奴隷として扱われるヒューマン。
汚い事散々して貴重な情報なんて何一つ無い、魔族達の目に入れる事すら躊躇われる生きる価値の無いヒューマン。
価値があるヒューマンは王族と知識ある者のみ。
王族意外はどういったモノを管理していたかを洗脳魔術によって洗いざらい吐かされその重要性によって決まり、不要と判断された者は暗示魔法を受け入れるか奴隷になる。
能力が無ければ貴族も例外でなく、学園で同じクラスだった貴族の人も中にはいた。
暗示魔法は文字通り暗示をかけて特定の行動ができなくなるというもの。
帝国の今の状況を正しく話せなくなること。
サルタナちゃんが許可した相手からの質問に嘘を付けなくなる事が私の知っているルールで、他に役割によってルールが変わってくる。
ただ、与えられた衣食住は下手をしたら帝国が落ちる頃より裕福になる者の方が多いくらい。
ワービースト、エルフ、ドワーフの三種族と二桁いるかいないか分からない他種族を合計しても帝国に住むヒューマンの数には程遠い。
そこに役割という仮の人権を持つヒューマンが増えたところで住む場所は山程ある。
そうなったのはかなりの数のヒューマンがサルタナちゃんの選別によって死んだのも影響があり、その中でもとある組織のボスと秘書意外は不要だから皆殺しなんて一見雑な選別の仕方していたけど、後々その組織の書類見て皆殺しというワード以上に吐き気を催したのは良く覚えてる。
何がヒューマン絶対主義だ。
自分達でヒューマン意外の種族の細胞使って化け物作ってんじゃん。
正直、それでもサルタナちゃんはやり過ぎだと思った。
「こういう実験は誰かがやろうとしなきゃ始まらない。
けど、逆に終わらせるのも誰かの手によってじゃなきゃ終わらないんだよ?
誰かが終わらせるだろうって考えるだけじゃ終わらないから終わらせたんだ。
……本当はこんな結果書類なんて全部破棄したいところだけど、今はそれはできない。」
けどサルタナちゃんに言われた事に凄く納得した。
役割を渡されたヒューマンのどの役割にも共通して、今住んでいる場所を綺麗な状態を維持するというものがある。
そして割り振られた住まいは大商会の豪邸だったり、金持ち専用の裏ホテル等々が多く、一般市民だった者からしたら住む場所のグレードが何段階も上がったと笑って話していたのを耳にした事がある。
サルタナちゃん曰く、役割とは魔族に出荷するまでの仮の人権であって、契約が完了した場合どうなるか分からないのに呑気な人達だと思った。
役割の無いただの奴隷は町や村から出る事ができず、食事も決められた時間内でしか食べられず生ゴミ同然の物しか与えられない。
仮に町や村から出ると強制的に地面に貼り付けになり、戻るまで全身に痛みが走り続ける。
これは帝国の領土全体で起こる現象で逃れる方法は暗示を受け入れ外に出る役割を与えられる意外は認められない。
暗示魔法を受け入れてもそういう役割を与えられない限りは絶対に出る事はできない。
これを決められた時私は「やりすぎなのでは?」とハッキリ口にしてしまったけど、集められたヒューマン意外の種族の9割はそれじゃ足りないと言った。
ワービースト意外の種族も一度城下町まで来てしまうと法律によって国へ帰るのが難しくなり住みづらくなるらしい。
特にエルフとかから見てもワービーストの魔血が怖いからってやりすぎだと嫌悪感を抱く程だと言う。
同種意外に基本的に強い関心を持たないエルフが嫌悪感を抱くくらいって……
魔血というのはワービーストが発現しやすいというだけで他種族でも発現する時はするもので、簡単に言えば身体強化類の魔術のずっと上位に存在する力の事。
この力を発現している者は水の上を走ったり、空中でジャンプしたり、拳1つでミスリルだろうが砕くと言われているけど実際の所は見たこと無いので分からない。
と、まあ色々な事がありましたが、けっきょくこのルールで落ち着いてヒューマンに関しては契約相手が来るまで待機が現状。
ヒューマンの扱いが厳しすぎと言っていた1割満たない者も今では誰もそんな事を言わなくなっていて私もそう。
切っ掛けはサルタナちゃんが私に絶対に近づかないでと言った部屋の方から運ばれてきた沢山の死体。
その内の一体、胴体を磨り潰された死体を見てしまって私は嘔吐した。
サルタナちゃんが絶対に近づくなと言った場所ではそんな死体や、殺されるのを待つしかない奴隷が沢山要たのだという。
そんなものが定期的に行われていると洗脳魔術を掛けられた関係者の口から聞かされた時にはゾッとした。
後々聞いてみたのだけど、サルタナちゃんはその光景を見てしまったのがヒューマンを滅ぼそうと考えた決定打になったそうです。
他にもサルタナちゃんに魔法の原理を教わったりと細かい事は沢山あるけどこんなところ。
今はとても落ち着いていて、何人かのヒューマンと一緒に町の掃除をする事が多い。
「ちゃんと経済が動くようにまでなって余裕ができたから掃除するよ!
貧民街なんて汚い場所をお目に入れるなんて許さないしそもそもあそこ臭い!!!」
帝国を落とした実質新な王であるサルタナちゃんの発言で掃除を初める事になったが臭い事にはすごく同意できる。
300人体制で掃除を行い早4日。
1日でもかなり綺麗になったけどサルタナちゃんは全然満足いってなかった。
「上流階級の屋敷がある通りと同じくらい綺麗にするよ」
と言いながら用意された大量のレンガ。
土、水、炎属性魔法を使って作ったと胸を張りながらのこの発言に私は苦笑いしかできなかったけど確実に綺麗になっていっている。
「ふぅ、そろそろお昼にしようかな」
しかし水を使い放題って魔法ってすごい。
水を発生させるくらいは私でも楽勝で掃除が捗る。
「……あれ?サルタナちゃん?」
モップを立て掛けて休憩所の方へ向かうその途中。
昔はゴミ捨て場で現在は掃除用具や水樽が山積みになっている空き地にサルタナちゃんの姿を発見って………
「ニャー、ニャニャー」
え?……………えっ!?
「………フォルトちゃん、サルタナちゃんは何やってるの?」
少し離れた位置で……うん、こっちも分からないや。
なんでか分からないけどヒラヒラの可愛らしいワンピースを着た金髪で青眼の……確かに美少女といえる顔立ちをしてるけど確かに男の子のフォルトく……ちゃん8歳に声を掛けた。
骨の感じから確実に男の子なんだけど、なんで女の子の格好してるんだろうこの子?
ヒューマン嫌いなサルタナちゃんが拾って側に置いている子だから訳ありな気がするんだけどサルタナちゃんも分かんないのいっぺん張りだし……
「あ……えっと……ネコさんと話してるんだって………
サルタナお姉ちゃん、よく………その……ネコさんと……………………」
ボソボソと話初めて最後には聞き取れなくなったけど「話している」って事で良いんだよね?
額の傷から暴力受けて他人が怖いと思っているって考え付くのは容易だけどさ、猫系ワービーストなシェリーお姉さんが聞き取れなかったって話せてないからね?
って叱るのが普通の姉の務めなんだろうけど、フォルトちゃんが普通じゃないからなぁ………
「……そっかー、ネコさんと話してるのかー。ありがとー」
「……ん……………」
うん、これしか言えない。
返事も辛うじて「ん」しか聞こえなかったし喋れてないぞ?
あ、でもサルタナちゃんも「ん!」ってしか返してくれないか。
「サルタナちゃん、何やってるの?」
「ん~?情報収集と世間話だけど?」
とりあえずゆっくりサルタナちゃんに近づいて聞いてみたらそう返された。
………そういう設定なのかな?
「シェリーも何か聞いてみたら?面白いこと教わったよ」
あれ?本当っぽい?
いや、でも………
「ん……ん~?あの………サルタナちゃん?
それ本気で言ってるの?」
「え?」
そんな本当に何言ってるのって顔されても、こっちも何言ってるのって感じだよ。
「……あ、いや、私も全部は分からないよ?
彼らの意思に話しかけて後は返事を勘で読み取るんだよ?
契約による使い魔ってこういう感じに作るんだ」
「え?使い魔って魔女が使うっていうあの?」
「別に魔女に限らないけどね。姉さんはラミアだけど使い魔いるし」
それは凄い!サルタナちゃんはおとぎ話でしか出てこないような使い魔や眷属を作れるってことだよね!?
「それでどの子が使い魔なの?」
「え?この子達はただの友達だけど?」
「うん。…………うん?そうなんだ???」
あれ?
なんか会話ができているか不安になってきたんだけど気のせい?
「それじゃ聞きたい事も聞けたし下水道に用事が出来たから行ってくるね」
「え?あ、行ってらっしゃーい」
そうしてフォルトちゃんの手を引いて移動するサルタナちゃんを見送った。
……ん?下水道に用事???何故???
「あ、ちょっと……あ~……今からじゃ追い付けないか………」
いやまあ追い付くけど下水道入りたくないし………
あの時、下水道に行くのを見送ったその日からサルタナちゃんの奇行が目立つようになった。
野良猫達と一緒に屋根の上でお昼寝を始めてサルタナちゃんを起こせないフォルトちゃんが降りれなくなってしまったり。
突然大通りにドングリを撒き始め、かと思ってらドングリをお酒のツマミみたいに食べたり……というかポケットの中身がドングリでパンパンってサルタナちゃん?
ドングリ撒いた次の日にはまた森から大量のドングリ持ち込んできた。
アイテムボックス一杯に入れて、篭と手提げにも一杯にドングリ入れて。
そんな感じの奇行が多かった中で一番印象に残ったのは雨の舞踏会。
あれはとても神秘的だった。
雨が降った日の事、私が見たこともない楽器。
意図的にでこぼこを作った木の棒のようなその楽器を使い、青い白い光を纏いながら踊り、私の知らない言語で歌っていた。
裾の大きな一風変わった服で、水を吸って重くなっているというのに腕を大きく振るとピッと水を飛ばし、コンッと音が響く。
舞が続くと鳥や猫や犬の鳴き声が聞こえてきて、けれどその鳴き声はサルタナちゃんの踊り、音色に合わさっている。
サルタナちゃんが大きく動き一回転すると動物達もその動きに合わせて、1つの曲芸のように見えなくもないけど神秘的で綺麗だった。
そんな風に過ごして帝国が落ちて1ヶ月が建った。
他所から来たあわれな行商人が奴隷となって、洗脳魔術で情報を吐かされ暗示による制約と、魔法で奴隷紋を隠された状態で他所へ放たれたりしたくらいで殆ど終わって維持するくらいしかやる事が無い。
「シェリー!シェリー!」
私は暇で城の中庭で魔法の練習をしていると、ニャーニャーという鳴き声を連れたサルタナちゃんがフォルトちゃんを連れてやってきた。
とてててとその身長の低さからの 可愛らしい足音を鳴らしながら寄ってくる姿と、同じ衣装のフォルトちゃんを引っ張るペア姿がとてもかわいいと思う。
最近知ったけどサルタナちゃんは137㎝しか無い。
140㎝くらいはあると思ってたんだけどもっと小さいって……
初対面の時は小さすぎで子供が迷い混んだのかと思ったくらいだったけど、実際に関わってみるととても頭が良く対応も大人びていて私より歳上だと思うくらい。
今は見る影もないけどさ……
ちなみに私は耳を抜きにして152㎝で、フォルトちゃんは123㎝だよ。
「どう?見て見て!」
片手で軽くスカートをつまみ、くるりと見せてくれるサルタナちゃんは見た目相応でとても幼く見えるなぁ。
ほんと、学園の印象が粉々に砕け散る1ヶ月だったよ。
こっちのサルタナちゃんが本当のサルタナちゃんなんだろうけど。
私の知ってたサルタナちゃんはクールで口数が少ないが正義感が強い……だったけど、帝国を落とす直前は目的の為に我慢に我慢を重ねて、大人びた対応っぽく見えるけど実際は冷めきった対応しかできなかったくらい心に余裕が無かったという印象。
落として落ち着いてからのサルタナちゃんはとても明るく見た目通りの幼い行動が目立って何よりも負けず嫌いでかわいい。
ここまでガラッと印象が変わる人なんて多分サルタナちゃん以降表れないだろうなぁ。
「うん、全体的に白くてかわいい尻尾と目の赤が際立って見えるね。
すごく似合っていると思う」
「へへへ~ありがとう」
パアッて花のような笑顔を見せるサルタナちゃんの衣装は民族衣装っぽいようなゴスロリっぽいような感じの服装で、白っぽい色が多くて赤が映える。
一回しか無かったけれど、雨の日の演奏で着てた服だ。
あの時着てた服と同じだけど、あっちは色褪せていて今着てるのはとても綺麗な高級感溢れる赤い色だ。
この1ヶ月、サルタナちゃんは度々私に衣装を見せに来てくれて時々私も着せ替えさせられる。
暗示を受け入れ役割を渡された者達でどういう役割が一番待遇が良いかと言われると、意外にも裁縫が得意な者達だったりする。
プロとなればその待遇は贅沢に慣れてなくて遠慮してるワービーストやドワーフより良い場合もある。
なんでもサルタナちゃんのお姉さんは裁縫が大好きらしくて、サルタナちゃんの服の殆どはお姉さんが作ってくれたものだそうです。
けれどお姉さんと離れて6年近く建っているのに身体的成長は6年前から殆ど無いらしい話してくれた。
それってこれからなのかやっぱりヒューマン止めてるのかどうか私には判断できないよ。
その6年、ずっと買い換える事も無く数着同じ服を使い続けて新しい服を作る余裕も無かったみたい。
だから再現してくれる事で上機嫌になったサルタナちゃんによって服職人への待遇はとても良い。
ついでに技術を盗もうと猛勉強しているくらいに。
お姉さんの為だとか……本当にお姉さんが大好きなんだねサルタナちゃん。
「っ!?」
「ん……サルタナちゃん?」
急にサルタナちゃんが見上げ、私もフォルトちゃんもつられて空を見るけど何もない。
「どうしたの?」
「物凄い魔力が近付いてくる!きっと魔王様だよ!凄い!」
両手をバッと挙げて全身で興奮を表現しているけど、どこかぎこちない?ん、違うな、驚いてるみたいな感じ?
何に驚いて……あ、魔力を感じ取れるって前話してたっけ?
じゃあ魔力量が多過ぎて驚いたとかかな?
…………え?ちょっと大丈夫なのそれ?
『これから王を迎え入れる!
予定通り牢から物を取り出し引き渡せる状態にするように!』
魔法でサルタナちゃんの声が直接頭に響いてきて思わず頭を押さえた。
けれど私の様子を気にした事なく「行こー!」とサルタナちゃんはフォルトちゃんを尻尾に乗せ、私の手を取って駆け出した。
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