説明


 どうやら私は地下の地下。

 地下二階にある牢屋にいたようで、天井の蓋を退かして出た先でようやく見覚えのある場所に出れた。


 ここって、ガーランド帝国の中でも大手の商会で私もここに何度か買い物に来たことがあって、なんというか、すごく見覚えある場所……


 え……え~………?

 私、そんな良く行く場所に拉致監禁されてたの?

 あ、逆にこういう場所だから見つからないとかかな?


 それにしても、回りを見渡すとやっぱり人が倒れてる。

 地下とおんなじ感じになってるいて、なにこれ……なにこれ?


「お………お前がやったのか……ドラゴニュート…………」


「あぅ………」


 その中の一人がサルタナちゃんの姿を見るなり絞り出すような言葉を出してきたのを耳にして変な声が漏れた。

 けれどサルタナちゃんは聞こえてないのか気づいてないのか、その言葉を無視して軽い足取りで出口の方へ向かい扉に手を触れた。


 と思ったらピタリと止まって従業員専用の部屋へと行き先を変えた。


「あれ?サルタナちゃん?」


 疑問に思って声をかけたけど返事は返してくれなかったからとりあえずついていく。


「え……あ………誰?」


 サルタナちゃんが扉を開けるとそこには混乱した様子でいる犬系のワービーストの女性が3人立っていて、その一人が私達に聞いてきた。


 まあ、うん、混乱してるよね。

 私も凄く混乱してて正しい行動ができているが怪しいけど、そんな事よひこの人達もちゃんと立っている?

 見た感じ奴隷の印も頬には無いようだし……

 もしかして今起きてるのヒューマンだけなの?

 この店の人は全員そうなってるのかと思ってた。


 ………あ、この美人さん達も店に来た時に見覚た事のある顔だ。

 でも茶色い髪の人は見たこと無いなぁ。


 なんて考えていると「コホン!」とわざとらしい大きな咳払いをして視線がサルタナちゃんに集まる。

 サルタナちゃん、尻尾とかはともかく見た目がかなり幼いからねぇ……10歳いってるかどうかってくらいだし私に視線が言ってたのもわからなくないよ。

 でもサルタナちゃん私と同い年だしこれ引き起こしたのサルタナちゃんっぽいんだよね。


 視線を集めたサルタナちゃんが喉の調子を整える感じに「んん、」とか「あ~あ~」と唸り、満足したのか一度頷いてから語り始めた。


「私はサルタナ、この状況を作り出したのは私。

 他にもやることが多いから簡単に言うけど、もう貴女は奴隷じゃない。

 逆に倒れてる奴等は皆私の奴隷なんだけど、ゴミの処理に困ってるから貴女のしたいようにしても構わないよ?」


 …………え?説明終わり?

 もう少し教えてくれてもと思う気持ちで私の顔がひきつっているのが分かる。


「ねえシェリー。シェリーは朝………

 どうしたの?何かへんな物食べさせられたの?」


「あ、そんなんじゃないよ、大丈夫。

 さっき言いそびれちゃったけど助けてくれてありがとうサルタナちゃん」


「そっか、良かった」


 そう言ってサルタナちゃんはギュッと私を抱き締めて笑顔で返してくれる。

 普段のサルタナちゃんとのギャップの激しさに私は固まってどうしたら良いか分からなくなった。


 ただ、やっぱり本当のサルタナちゃんはこっちなんだろうな。と思った。

 無理の無い、自然体な笑顔で。

 それだけになんで今こんな事になっているか分からない。


「ところでシェリーは朝ごはん食べたの?

 コレに食わせるまともな食事なんてもう無いから何か豪勢に食べない?」


 コレ、と言ったときサルタナちゃんは虫でも払うかのように倒れていた従業員を尻尾で払い、私から離れ軽い足取りで業務用の大きな冷凍庫の方へ向かった。


 コレって………物扱い?

 サルタナちゃんがヒューマン嫌いなのは知ってるけどその人が何か悪い事したの…………ってしたか。私が拐われて監禁されてるの見て見ぬふりしてたからとかか。

 でも本当はしらなかっただけかもしれないし……


 って、そんな事よりあの様子ならまだ生きてる。

 ほっといたら死んじゃうかも、まず傷を確認しないと。


 そう思ってさっき吹っ飛ばされた人を見ようとした時だった。


「殺す………殺してやるッ!!!」


 私の目の前で、先程混乱していた女性の1人、茶髪の人が何処からか持ってきた金槌をその従業員の男の顔面を殴り付ける。

 何度も、何度も、何度も、何度も、何度も。


「え……えっ?」


 さっきから私は唖然としてばかりだ。

 あんまりな出来事に殴り付ける女性はもちろん、私自身に返り血が付こうがその光景を眺めるしかできなかった。


 最初は止めようとした、けれど、泣きながら怒りを露にしていたんだ。

 目の前の女性が見せるのはどうしようもないくらい、とても強い怒りを抱いていた。

 殴り付ける男の頭部の原型が無くなろうともその女性は殴り、今もまだ殴り続けている。


 この女の人に、いったい何があったのだろう………

 なんで、こんなに怒る事ができるんだろう………


「……ひゃあっ!?」


「うぅ……さ、寒い………」


 女性の事を眺めていた私は、さっき業務用冷凍庫に入って行ったサルタナちゃんにいきなり尻尾で巻き付かれて本人も抱き付いてきたんだけど、ちょっとガタガタと信じられないくらい震えていてこれはちょっと尋常じゃない。


「えっ!?え………え?えっと……アンチフリーズ?」


 かなり遅い気がするけど冷気に対して耐性を与える魔術を使用したが、やっぱり意味は無かった。







「それで、ちゃんと説明して貰えるの?

 拐われたからこの店が悪いのは分かるけど、何なのこの状況?」


 ようやく落ち着いてとりあえず店にあるテーブルを囲んで話し合う事になった。


「ん?ん~……私こう見えて忙しいんだけど………まぁ、シェリーの頼みだし……

 順序が狂うけど………そもそもシェリーが監禁されてた事で狂ってるし今さらかな………?

 うん、良いよ。

 でも、この状況は別にこの店に限った話じゃないんだけど?」


「この店だけじゃないの?」


「うん、ガーランド帝国は私が落とした。

 帝王の命も私の手の平の上だから、帝国も帝国のヒューマン

 も全部私の物だよ」


「…………ごめんちょっと意味がわからないかな」


「私が言った内容?それともなんでそんな事するのか分からないって事?」


「うん……」


 返事をしたけど、私はサルタナちゃんに言われるまで何が分からなくて分からなくなっているか分からなくなっていた。

 ………ヤバイ、思っている以上に混乱してるの私???

 え、だって、この町全部?


 いやいや、確かに混乱してるけど聞かなきゃ何も始まらない。


「サルタナちゃんはヒューマンが嫌いみたいだけど、ドラゴニュートはみんなそうなの?」


「……え?ドラゴニュート?

 なんでドラゴニュートが出てくるの?」


「え?」


「え?」


 え?サルタナちゃんドラゴニュートじゃ無かったの?

 じゃあそのニョロニョロっと動く尻尾は?


「………あ、あ~……うん、言われてみればドラゴニュートっぽいかもね私、うん、言われて初めて気が付いた。

 そうだよね………うん…………コホン、えっと、私はラミアなんだよ?

 不快で仕方ないけど私は一応ヒューマンなの、でも私はラミアだから……………う~ん、困った、どこから話した方が良いのか……もう初めからの方が早いかも?うん、そうしよう。

 でもちょっと待って、流石にお腹すいた」


 さっき凍えながらも持ってきてた生肉をスライスして………焼かずに口にしてる………え、そんな干し肉でも食べるような感覚でヒョイッて……


「サルタナちゃん……生肉だよそれ?」


「へーきへーき、むしろ普通のヒューマンが肉を焼いて食べるなんて村に引き渡されてから知った事だし」


 とか言ってサルタナ殆ど噛む事無くゴクリと美味しそうに飲み込んでしまいました。


「とりあえず話すから相づちは良いけど聞いてる間は質問は無しで、分からないのはとりあえずそういうものだと思っておいて」


 数枚食べ……いやいやいや、あれは食べてない、飲み込んでたから。

 さっきヒューマンとか言ってたけど絶対嘘だ。

 少なくともヒューマンの行動じゃない。


「サルタナちゃんヒューマンじゃないでしょ」


「最高の誉め言葉だね!うん、私は普通のヒューマンじゃないよ」


 嬉しそうな笑顔で尻尾もウネウネと嬉しそうだよ。


「まず始めに、私は確かにヒューマンっぽくないけど、何処まで行こうがベースがヒューマンだからエセラミアヒューマンって感じの新種に進化したヒューマンって事になるのかな?

 ほら、ハイヒューマンとかハーフヒューマンとかハイデビルヒューマンなんかも歴史上には居るでしょ?

 魔族じゃなくて人種の中のヒューマン種になる訳だし?

 それで、私はヒューマンから後天的に進化した存在に当たると思う。

 思うっていうのは現在の帝国には私と同じように進化した例が存在しないからで、同じようにヒューマンから進化した存在がいればまた違う言い方もできたと思うしあくまでも歴史から見た憶測ってだけね。

 それで何故ラミアかと言うと姉であり育ての親がラミアだから。

 ラミアであるアルカネット姉さんから魔族としての力の使い方を教えてもらい、名付けという肉体にすら大きな変化を起こす儀式のようなものをお互いした事で進化したんだと思う。

 あとは育った環境かな~。

 この尻尾は私の体で最も頑丈で強力なんだけど、神経が通ってるからむやみやたらに使うと痛い思いすることになるんだよね。

 他にも普通のヒューマンと違って血の多い生肉の方が力が沸き上がる感じがするし、ただ冷気に弱いところまで色濃く出てるなんて予想してなかったな」


 なるほど……分からない事が分かった。

 あれ?おかしいな?言ってる事は分かるんだけど分かんない?


 あ、その「えへへ」って笑うサルタナちゃん可愛い。


「後は……アルカネット姉さんにもこの辺は物凄く注意されててね、とくに尻尾の先端部や付け根の部分の皮膚は例え脱皮の皮だろうが他人に、特に異性には渡しちゃダメって言われててね、ヒューマンなんかで言うと下着みたいな感じって言えば分かりやすいかな?

 だから脱皮の後は大切な人が求めない限りは燃やすようにしててね、この辺は姉さんの教えだから従っていたけどでもね、私はアルカネット姉さんが大好きだから本当は姉さんにあげたかったんだけど今思えば下着を同姓に渡すってどうなんだろうって思うんだよね。

 それでも姉さんが望むなら絶対に渡すしむしろ私も姉さんの脱け殻なら絶対欲しいし脱皮の手伝いとか物凄くしたいと思うんだ。

 姉さんは脱皮の時期になると大好きな裁縫で作った布でこうゴシゴシって残った皮を落として最後に少量の油を使うんだけどこう油によって主張しすぎないくらいに赤い鱗が輝いてツヤツヤに光るんだ。

 それが森の木々から差し込む光と周囲の緑も相まって物凄く幻想的で美人さんだけど何処か抜けた感じの姉さんが普段のかわいいから物凄く美しいのがギャップがあってね、私はあのキリッとした頼りがいのある感じの姉さんが好きで、でもやっぱり普段の優しい姉さんも当然物凄く大好きで」


 あ……あれ~?進化の話だったよね?

 進化して冷気に弱いとかそういう話……あれ?そもそも私が聞きたいの進化の話じゃなかったような???


 いや、それより止めないと!


「ちょっと待ってサルタナちゃん!

 サルタナちゃんがお姉さん大好きなのはすっごく良く分かったからちょっと待って!!!」


「…………そう?」


 残念そうだけど止めなきゃ何処までも話してたでしょサルタナちゃん………


 話を戻さなきゃ……進化の……いやいや違う。


「えっと、それで、なんで今の状況になったの?どうしてしたの?」


「どうして……?どうしてって何が?」


 あれ?私が言いたいこと本当にわかってない?

 私も原理とか分かってないし何がなんだか分かってないから何をどう聞いて良いか分からないし……

 ええい!もうほんわかした質問でいいや!


「私達が無事で帝国……ヒューマンがこうなの?どうしてするの?」


「え~?なんでされたかなんて言われても……

 う~ん…………やっぱりどう考えてもヒューマンの因果応報としか言いようが無いんじゃないの?

 約30年前に帝国が反乱軍に対して行った事と似たような状況だよ?

 どうしてって言われたら、ヒューマンなんて残酷な種族に生きる価値は無いから。

 仮に今私がしている事が残酷な事だとしても、その全ては元々ヒューマンが思い付いて実行した事を真似しているだけ。

 ヒューマンは魔族をモンスターだなんて言って問答無用で討伐しようとするでしょ?

 だから私は私と姉さんの安全を守るためにこの国のヒューマンは根絶やしにするつもり……だったんだけどね~」


「だった?」


 サルタナちゃんは大きく頷いて「うんそう!」と元気一杯に返してくれた。

 たぶん聞かれたかったみたい。

 なんというか、やってる事はともかく凄く子供っぽい?

 学園生活でのエリート中のエリートで一部じゃ孤高の氷結とまで言われて恐れられたサルタナちゃんのイメージがもっと粉々になっていくなぁ……

 この勢いなら粉末状になりそうだよ……


「そうなんだ!

 本当はね、もっと確実に根絶やしにできる状況まで我慢しようとしてたんだけど事情が変わったんだ。

 それでね、変わりにこの国は私達の安全の為の生け贄になってもらうんだ!

 魔族の王が誕生し、その部下であるロゥタル様と接触する事ができて、私はこの国を対価に契約を結ぶからこれから忙しくなるんだ!

 もしかしたら魔王様が来てくださるかもしれないから町全体を綺麗にしなくちゃいけないし、やる事は一杯あるよ。

 ロゥタル様がいつ戻ってくださるか分からないけど、もしかしたら明日かもしれないしあまり時間は掛けられないんだ!」


「さて、」と椅子から勢い良く降りて「やるぞー!」とそれは満面の笑みでお仕事……?

 お仕事への意気込みを全身に表している。


「それじゃ手始めに教会ぶっ壊そうか、シェリーも来る?

 あの肉人形達がせっせと豚の至福を潤わせる小屋なんて必要無いからね。

 よしドーン!!!」


 え………サルタナちゃんが両手でバーンて………バーンッて壁が吹っ飛んだ?


「あははははゴミ掃除だー!!!」


 やたら高いテンションでサルタナちゃんが駆け出して行く。


「……………ちょっ!?ちょっと待ってサルタナちゃん!!!」


 壁に空いた大穴越しに走っていくサルタナちゃんを見守っていたけれど、モップを取り出し楽しそうに言葉になってない言葉を叫ぶところを見てようやく動くことができた。


 この時私はサルタナちゃんが叫んだ言語を理解できなかったけれど、魔族の言葉で「滅べヒューマン」という意味だったらしい。

 なんて物騒な……


 そしてけっきょくサルタナちゃんが早すぎて見失ってしまった。

 私は運動神経良い方じゃ無いけど種として身体能力に優れているワービーストで、それより早いって何!?

 やっぱりサルタナちゃんヒューマンじゃないって!!!

 しかも匂いの跡は人が通るような道じゃないしそもそも道じゃない壁じゃん!?垂直に走ったって事!?

 それ絶対ヒューマンじゃないよ!?

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