種族と人
「魔王……姉さんも昔言ってた気がする」
確か魔族の中からポンっといきなり発生する魔族の王だったっけ?
誰が決めたとかじゃなくて、魔王としての力が発生するのは1人のみで魔王が存在する状態でもう1人発生する事は無い。
一度発生してしまえば他の魔族がその1人を魔王だと本能が理解するって話だった気がする。
生まれてすぐ魔王の場合もあれば、何十年村人みたいに生きてたら魔王になったというのも過去にはあったって言ってた。
「あら意外、ヒューマンである貴女に話すなんて、それだけ信用していたのね」
「それで、何でそのネームドのサキュバスが私の前に出たの?
……と、その前に」
神聖術をロゥタルに使用した。
完全に人種では無い存在に神聖術で癒すことができるか不安だったけどちゃんと癒せた。
これなら私、姉さんの役にたてるかも。
「あら凄い。……やっぱりこれ、魔法とは違うわね」
「神聖術って種類の魔術、ヒューマンが作った残虐非道な術の1つ。
魔法と魔術は魔力を使う共通点はあるけど、全くの別物で魔術は最悪最低のモノ。
ただ、この神聖術とアイテムボックスだけは魔術の中で数少ない傑作だけど」
まぁ、神聖術もアイテムボックスも元々は戦争を有利に進めるために造られた血塗られたモノの代表格だけど。
この術でいったい何千のヒューマンがヒューマンの手で死んだか……
それ意外の術を入れれば何万をも越えそうな程の数の命が………
「……で、なんで私の前に?」
「あ、そうだったわね。それを話すには前置きが必要になるし、長くなるけど良いかしら?」
「………ん、別に良いかな」
チラッと窓の隙間から外を見るともうすぐ日の出のようで空の色が代わり始めているけれど、学校ももう学ぶ事なんて殆ど無いし……
「ありがとう、なるべく短めに纏めてみるから。
まず、魔王様が誕生してね、その魔王様にこの辺の土地をどうするか調べて考えてほしいって言われたのよ。
一ヶ月くらい調べてみたんだけど、なんかヒューマンって私が思っていた以上に弱そうだと思ったのよ。
けれど結論を先急ぐのは悪手じゃない?
だから手始めにヒューマンの大好きな戦争の真似事をしてみて様子見をしようと思ってオーガ5体を司令塔にして、ゴブリンを沢山、オークをゴブリンの半分くらい用意したのよ。
そんな時、森で偶々貴女が自分をラミアだと名乗ったのを聞いたの。
……偶々……いや……ごめんなさい、偶々とは言い難いわね。
必然的だった、だって貴女は魔法を使ってた。
町を観察してて偶々男を魔法で凪ぎ払うのを感知した。
今までヒューマンはよく分からなかったけど、とにかく弱い力。
確か……魔術って言ったわよね?
ヒューマンはそれしか使わないから魔法を使うなんて異色じゃない?
だから興味を持ったのよね。
追いかけてたら貴女が自分がラミアなんて言い出して、まさか育て親が本当にラミアだなんて思わなかったわ」
成る程、確かにそれなら必然的というべきだね。
それより………
「ロゥタルは魔王様に言われてこの周辺を調査してるって言ったけど、他の場所を調べてる人もいるの?
もしそうなら、アルカネット姉さんの情報があったら教えてほしいんだけど」
「………ちょっと待って、あのラミアってネームドなの?」
「ん?………そうだけど?
姉さんが私に名前をくれた日に、私も姉さんに名前をあげたの」
私は果実からとられ、姉さんは植物からとった名前。
私達は互いに名前を与えあった。
「サルタナは私達にとって名前はとても特別なものだって知ってる?」
「当然、名前はその者の力を引き上げる。
更にその名前の由来と名付けた者によって扱える力に変化が生じる。私は姉さんに名前を貰った。だから私に尻尾がある事は当然のこと」
「名付けによる魔法関係がどういうものかもちゃんと理解しているようね」
ちゃんと、と言われると微妙なのだけれど、そういうものだと理解している。
魔法は精神の強さと言っても良い。
心の力、そうあるのだとより強く思う方に魔力は答えてくれる。
だからできて当然と思うことが直接魔法の力になる。
名付けはその手助けであり、時には直接力を与えてくれる時もある。
「ただ、ごめんなさい。あなたの姉らしきラミアの情報は無いわ」
「そっか……」
初めから予想してた答えだったのでガッカリはしてないので素早く気を取り直して思い付いた事を話そうと口を開く。
「ロゥタル…………いえ、ロゥタル様。
私と取引をしてくれませんか?」
これが通れば私の目的はより確実なものになる。
「う~ん……別にやぶさかではないけれど……当然内容によってよ?」
「それは当然の事です。
私の要求は姉であるアルカネット姉さんを探してもらうことと、私と姉さん、更にワービースト等のヒューマン意外の人種の保護と人権を約束してほしい。
犯罪に手を染めてない限り既に奴隷なんかに落ちている者も保護対象としてもらいたいのです」
オーガ達を使って軍の真似事ができるんだから不可能じゃないはず。
このガーランド帝国でなく、魔王の庇護下にある、魔王の国に属すことができれば安心は保証される。
姉さんと同じ魔族、それもネームド持ちの強者の言葉なら信頼できる。
「それは……かなりの対価を払ってもらう事になるわよ?
救出なんかも大変だろうし、対価というよりも、救出した後の精神的ケアとかその他いろいろ………」
思った通りの返答、頬が吊り上がりそうなのを必死に押さえようとしたが、私はやった!と強く出てしまいほんの少しだけ、身を乗り出そうと腰を上げてしまった。
ほんの少しとはいえ変に思われたかもしれない。
けれど、それでもその言葉がでたならば私にはこれ以上無い程の手土産が、対価が手元にある。
「対価ならあります。
すぐにでも渡せるのは帝国現皇帝及び、私を覗いたこの町全てのヒューマンの命。
城下町を含めた帝国の城、ガーランド聖帝城を争い無しで提供でき、時間を掛ければ全てのヒューマンを殺す事も可能であります」
「……………え?」
まるで何を言っているか分からないと言いたげに目を丸くされてしまった。
けれど怯まず畳み掛ける。
「先程私の夢の中でロゥタル様もご覧いただきましたよね?
私はこの国で沢山の知識を蓄えました。
その中で帝国が魔術によって反乱軍に行った事を魔術ではなく魔法によって行使するのです」
私は計画の全てロゥタル様に話した。
二週間も続いた戦争を見届けた後、私はヒューマンの戦略というものに強い興味を示して調べた。
その中にあった方法、行商人等に他国を経由させて毒を持ち込む方法、反乱軍を神聖術の巨大な結界で閉じ込めて燃やす方法等々。
私はこの四年間の間に毎日大量の生肉を食べていた。
確かに好物だからというのもあるけど栄養が偏りすぎで理由は別。
それは私自身の魔力を増加させ、魔法の安定性を上げるため。
この増幅させ続けている魔力は私の容量を超えているので魔力で無理やり押さえ込んでいる状態、全て使ったりうっかり離してしまえば計画は水泡と化す。
その大量の魔力をどう使うか。
それは同じく大量の血肉を胃に納めてから毎日ゆっくりと私の血を使い魔力の線で帝国に巨大な魔方陣を描いていた。
その魔方陣の効力は、人間の全ての魔術を無効化。
魔法の効力の増大化。
ヒューマンを全て奴隷とし私の意思により行動を強制させられる。
結界によって入ることはできても私の許可無く出れなくなる。
結界の外から見た限りは帝国は正常に見える。
他にもあるけど大まかな内容はこれ。
「こういう状況になれば必ず自分の命が可愛くて命意外の他の何だろうが見捨てようとする奴が現れるはずでしょう。
それが私の知るヒューマンなのですから。
私はそんなヒューマンこそ真っ先に死ぬべきだと思っておりますが、だからこそその者を利用し他の国や町に着いたその者の魂を生け贄にし、脱け殻となった肉体は呪いを撒き散らす肉人形にすれば魔法の使えぬヒューマンに抵抗する術はありません。
この国を含め全てのヒューマンは最早死ぬしか………ロゥタル様?」
私は熱中していて気づくのが遅れてしまった。
何故かは分からないがロゥタル様は泣いていた。
夢の中の出来事なのに何故か折れていた腕の痛みですら泣くことの無かったロゥタル様が。
そのロゥタル様がうつ向いたまま口を開く。
「………貴女の精神体は、痩せこけて、歪んでいて、それでもハッキリとしている。
その精神体の上半身はヒューマンと同じだった。けれど、下半身は完全に蛇の形をしていた。
だから私は貴女がヒューマンだなんて思わない。
それなのに……あんな酷いことを貴女がするの?」
………驚いた。
私は、心の中ではちゃんとラミアの形になれてたんだ……
正直とても嬉しい……でも………
「……そんな覚悟はあの光景を目にした時からしております。
ロゥタル様。夢の中では感じる事はありませんでしたが、あの場所の臭いは凄いものだったのですよ?
…………本当に……凄かったんです」
この帝国で貴族が行っていた地獄、私はあれを一生忘れることはできないと思う。
……いや、忘れてはならない。
間違っても私が完全なヒューマンなんかにならない為に。
「…………そう、分かった。
私だけじゃ判断できないからとりあえず報告してくるわね。
でも、サルタナちゃんの要望は通るように最善を尽くす。
またね、サルタナちゃん」
そう言って窓を開き認識阻害を使ったロゥタル様は空へ飛んで行った。
「さて、私も着替えてから最後の確認だけしよ」
ロゥタル様が見えなくなるまで見送った私はつい口から考えてる事が漏れた。
部屋に戻り、昔姉さんが作ってくれた服。
何度も仕立て直してもうボロボロになってしまったけれどとても大切な私の覚悟。
これで終わる。私はその服に体を通す。
全体的に白いシャツのようで、裾が大きく広がっていて肘と手首の中間部分から先が赤い色をしている。
赤いスカートに黒いベルトで尻尾が出やすいようになっている。
最後に、名前は知らないけど、マントみたいにつけるのだけど、腕の半分くらいまでしかない黒いこれを付けた。
ふふ、今度合ったら姉さんにこれの名前も教えてもらわないとね。
「良し!」
鏡の前でクルリと廻って確認し問題がなくて満足。
尻尾もとても動かしやすい。
自分でも分かるくらい今の私は浮かれている。
この城下町に来てから私は常に重いなにかがのし掛かったような、そんな感じだった。
けれど今はなんて軽やかなんだろう。
ほんの少し救われた気がした。
通り慣れた道だが朝早くということもあって湿ったような、とても新鮮な空気な気がした。
普段の帝国は臭くて汚くてとにかく臭いのに。
臭いはスラムの方へ行くにつれてとてつもない事になる。
廃棄物やヒューマンだった肉塊。
そんなのが転がっているのはザラだ。
私は体質的に普通のヒューマンより鼻が悪い。
それでもあれだけの臭いを感じると言うことは、ワービーストからしてみたら地獄のように臭いだろう。
シェリーはよくこんな町で暮らせるねと誉めてあげたい。
汚いのが全体的に多すぎる。
帝国の裏の顔や戦争は汚すぎて目も当てられないからそれは置いておくとしても、少し足を止めて考えれば分かる。
祈りを捧げる信徒達の半数以上は痩せ細り、残りは平均くらいだ。
けれど神官様とか教祖様って呼ばれるゴミは肥えて太っている。
ほんの少し考えればおかしい事なんてわかりそうなもの。
なのに誰も気付かない。
もう洗脳にでも掛かってるのではないかと思うくらいに。
かける方が悪いと最初私も思ったけど、今はどちらも悪いと思う。
仮にそれが本当に洗脳だとしてもそれは弱いものだろう。
禁書の中で見た本には洗脳術が実在したけれど、私でも一人に掛けるので精一杯だし、術が発動してる間はずっと魔力が減り続ける。
だから魔法や魔術のような強力なものでなく言葉琢磨に思考を操っていると考えるべき。
なので私はそれとなく怪しいのではないかな?と指摘してみたんだ。
神の教えは絶対。
纏めてしまえばこの一言、誰もが盲目的に信じて疑わない。
彼等は、我々知的生命体に許された特権、考えられる事を放棄している。
これが私が出した結論で、ヒューマンが何よりも恐ろしい存在だと確信した瞬間だった。
確かに、考える事は大変で、辛くて、その後の一生に強い影響を与えてしまう時もあると思う。
けれど、それでも捨ててはならない。
それこそが人に許された宝だから。
それを止め盲目的に言うことを聞く者、常に種族としての本能に飲まれてしまっている者は人とは呼べない。
そんな者は獣や物と表現した方が良い。
考える事の大切さ、姉さんに口を酸っぱくして教えられた人の定義。
人はヒューマンの事ではない、人とは知的生命体の事であって、賢いだけの本能に飲まれた獣や、何も考えない、自分で考えて努力する事を放棄した者を私は人とは認めない。
「~~~~♪」
鼻唄混じりの軽やかな足取りで、尻尾を隠す事もせず歩いて目的地へと着いた。
私は尻尾で乱暴に扉を壊して中へ入る。
やはりこの時間は冒険者が多い。
扉を壊した時に何匹か吹っ飛ばした気がするけど今後の事を考えれば誤差だし気にしない。
「ねえ、ラミアの情報は無い?」
軽い足取りで真っ直ぐ受付へ向かい、いつもより自然な笑顔で聞けたと思う。
「え……あ……ありません………」
職員はとても驚いた様子で、答えたと思ったら他の職員と目配せしてた。
「ふ~ん。じゃあこの国の事をどう思う?神様の事は?」
「え……それが今なに…………」
私は尻尾を振るい目の前のメスを凪ぎ払った。
「あ……が…………」
「言われた事だけ答えれば良いの、分からなかった?
じゃあ次は………この国の事をどう思う?神様の事は?」
もうこのメスは答えられそうにないので他のメスを指差しながら聞いた。
「え……あ………この国はかつて神が舞い降りた神聖な地であり、この国ほどモンスターの少ない国は存在しない、とても素晴らしい国であり、万物神様は絶対のお方です………」
私に指され答えた職員は震えた声でそう言った。
その職員の首から掛けられたネックレスには教会のシンボルの形をしている。
万物神ね……そっか。
本当にそんな存在がいるなら止めてみろ。
万物神、あんたの信者はこの瞬間絶滅するも私の自由になるんなよ?
「そっか…………じゃあもういいや。
消えろ、ヒューマン」
私は自分の手にナイフを突き刺す。
血が一定量落ちた事で魔法が発動する。
壊した扉から外を見れば白い光の線が道をなぞる。
そして、町中からヒューマンが叩きつけられる音がする。
周囲を見渡せば皆が皆床にへばりついている。
中には固いものに頭をぶつけて血を流している者もいる。
今日この時をもってヒューマンは滅亡へと突き進む。
ヒューマンが散々考え、実行してきた残酷な手段によって。
「ただ、安心して。
私はお前らと違って拷問なんかを楽しむ趣味なんて無いから。
この中の何人が理解できるかな?
この世には死ぬより恐ろしくて残酷な事は山のようにあって、その残酷な事を嬉々として行ってきた存在こそあんたらヒューマンであることを。
だから安心して、可能な限り苦しまないよう殺してあげるから」
これは慈悲………いや、ただ単にあの光景を嬉々として作ってた奴等と同じになりたくなかった、ただの自己満足。
しかしこの時の私はそれに気付かないくらい上機嫌だった。
とりあえずナイフを抜いて神聖術で傷を治した。
「………ん?あれ?シェリー?なんであんなところに?」
魔法結界が発動したことでこの町の全てが手に取るように分かる私はシェリーが商会の地下にいると察知し、転移して迎えに行くことにした。
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