友達
国立魔術学園。
ガーランド帝国に存在する魔術師育成を目的とした学園である。
この学園の図書館の広さは周辺国家を含めてもここほど大きな図書館は存在せず、その莫大な知識からどれほどガーランド帝国が魔術に力を入れているかは他国などの図書館と比べても倍以上あるところから一目瞭然だろう。
ここの図書館は在校生だけじゃなくて卒業生も入ることができるから私はいつと人が殆どいない朝早くに使用している。
いつものように校門で待ち伏せしていると私より頭一つ小さな姿が見えた。
「サルタナおはよー!」
「ん、おはよう」
私が大きく手を振ると小さいけれど大人びた印象の彼女、サルタナちゃんも控えめに振り返してくれた。
「それじゃ図書室行こー!」
「シェリーうるさいよ」
別に待ち合わせなんてしてないけど、私の友達はサルタナちゃんしか居ないし、サルタナちゃんも嫌な顔しないで私にヒューマンの文字を教えてくれたりする。
簡単な単語は分かるんですよ?ですが引っ掛け問題のような面倒な言い回しは分からなくて……
サルタナちゃんの口調はトゲトゲしていますが、ワービーストである私を差別しないどころか庇ってくれる正義感が強くて面倒見がとても良いん子なんです。
面倒見られている私が言うことでは無いかもしれないけどね。
「いつもごめんね、今度ごはん奢ろっか?」
「んーん、別に気にしなくて良い。
教える事も勉強になるからいい」
この時間は殆ど私とサルタナちゃんしか居なくて貸切状態です。
サルタナちゃんは室内でも常にローブのフードを被っているけれど、私と二人きりの時だけはフードを外してくれる。
私より一回り小さくて、真っ白い髪で背の低い赤い瞳でつり目な美人さんのサルタナちゃんを見れるのは私だけというのは信頼の現れだと本人も言ってくれていて特別感を覚えていい気分。
「そっか~、でも最近はワービースト語全部教えちゃって教える事無くてなんか申し訳ないなって。
じゃあ何か手伝える事とか無い?
私この学園じゃ体力も腕力もある方だよ」
そうやって胸を張りましたが、体力も腕力も種族的にあるってだけでワービーストの中では非力だって事は内緒です。
そうそう、ワービースト語とヒューマン語と文字は違うのですが大陸共通語と言うものがあって意思疏通にはなんの不自由もありません。
「ん……午後からバイトだからそう言われても……」
「あ~……学費自分で払ってるんだっけ?」
「ん、そうだよ」
サルタナちゃんは朝早くから図書館に来て、午後には出て行ってしまうのが殆どなんだよね。
「……ん?そういえば昨日積み荷を下ろしてるところ見たけど、その前は煙突の掃除していたよね?」
「私は冒険者だから」
「え?サルタナって冒険者なんだ」
冒険者ってあまり良い噂聞かないんだけど……
あ、でもサルタナちゃんこの見た目だし年齢を開示しても雇ってくれるところってそういう所しかないのかな?
「雑用って事はEとかFランク?」
「んーにゃ、Cランク」
「へ~……えっ!?Cランク!?嘘だぁ!」
「シェリーうるさい」
「あ、ごめん」
図書館で大きな声を出した事を指摘され反射的に謝ったけど、サルタナちゃんはこういう時に上目使いで見てくるのがまるで睨んでるように見えて少し怖いからそれ少しやめてほしいな。
まあ、私はサルタナちゃんは良い子だって知ってるので怖いとか関係無いけど、サルタナちゃんは良い子。
「それで、本当なの?」
私の謝罪を受けてまた本に視線を戻したままのサルタナちゃんは自分のローブの裏側をゴソゴソとあさり1枚のカードを出す。
「ん、これ私のライセンス」
「わ……本当にCランクだ。
サルタナって私と同い年でCランクって、何か凄いモンスターでも倒したの?」
「んーにゃ、悪さばかりのCランクパーティしばき倒しただけ」
「へー……そうなんだ……」
ちょっとサルタナちゃんが言っている事が飲み込めない。
確かに実力が認められれば高いランクからスタートできて、その上限がCランクで、Bランク以上はその者の性格なんかも入ってくる。
Cランクパーティを倒したのであれば確かにそうかもしれないけど、私と同年代のサルタナちゃんがって……凄いなぁ~。
「……そんなに気になるならついてくる?」
こてっと首を傾げてサルタナちゃんがそう聞いてくれて私は嬉しくなった。
普通冒険者の仕事に連れていくのは頼まれたって嫌がるものなのに聞いてくるって事は私の実力を少しは認めてくれてるのかな?
同学年で私の実技の成績は上位の方に食い込むとは言ってもトップのサルタナちゃんと比べたら20位差は離れてるのに認められてるって凄く嬉しい。
「うん行く!」
私はつい勢い余ってサルタナちゃんの手を掴んで答えた。
「……私、薬草の採取と雑用しかしないからつまらないと思う」
「それでも行く!」
いきなり捕まれてビクッと体が跳ねたサルタナは少し困った様子で聞き返してきたので元気良く答えた。
「分かった、なら午後から」
授業の時間まで図書館で勉強し、午前の授業は室内での勉強、午後からは魔法や剣の実技が主になる。
剣は貴族の嗜み程度でダンスレッスンと同程度のレベル。
そんな訳もあって午後の授業は出なくてもテストで良い成績を出せれば問題無い訳で、実技に私が出る意味は皆無に近くて午後は図書館に行ってたんだよね私は。
ちなみに実技共に学年ぶっちぎりトップはサルタナちゃんだ。
人間とは思えない足の早さと反射神経をしているのは知っていたけど、同い年でCランク冒険者なんて気にならない方がおかしい。
更に知識に貪欲で同じ時期の、同じ時に起きた事を調べるのに普通は一冊で済ませるのにサルタナちゃんは複数の歴史書を照らし合わせて自分なりに憶測をたてたりするほど頭良い。
私の友達がそんな凄いと物凄く誇らしく思えて授業中ニヤニヤしてしまう事があったから注意しないと。
そんな訳でいつも通り過ごして待ち合わせ場所に集まる。
「ごめんなさい!授業が長引いて!いたッ!」
私がペコリと頭を下げたタイミングでドスッとチョップされた。
「大袈裟、私も今来たところ、気にしないで」
目深にフードを被ったサルタナちゃんの表情はよく見えないけど、どこか嬉しそうな声色で私は胸を撫で下ろした。
サルタナちゃんに限ってそんな事は無いと思うけどこの国はワービーストに対してが当たりが強い。
特に学校では貴族の子もいて、その子からの軽い苛め……
貴族様からしたらきっと軽いだろう苛めを受けていた時にサルタナちゃんが私を助けてくれたのがサルタナちゃんとの関係の始まりです。
ようやくできた友達であるサルタナちゃんに小さな事で嫌われるなんて絶対に嫌だから待たせたりとかしないよう意識してるけど、今日はたまたま数分授業が長引いた。
まあ、今回も嫌われるなんて心配は杞憂だったけど。
「シェリーお昼食べた?」
「あ~、まだ食べてないや」
「なら私の家で食べてから行こう」
「え……良いの?」
「何が?」
この街に来てから初めて友達の家に誘われた。
友達サルタナしか居ないからとうぜんだけど物凄く嬉しい。
村では友達の家も自分の家のように勝手に上がれるくらいで他の誰かが住んでる場所に入れる事に変に興奮した。
「サルタナ~!」
「なに?」
「呼んだだけ!」
「そう」
調子のって背中からギュッとしましたが本当に気にしないでくれている。
たぶんサルタナちゃんはしつこいのは嫌そうなイメージあるのであまり抱きつかないですぐに離れる。
「………ちょっとこっち」
「え?」
二人で歩いていると急に手を引かれて細い路地へと走っていく。
「え……ちょっと、何で追われてるの!?」
路地に入って少しして、私の人間より造りの良い耳が、今さっき通った道を数人が走ってきて、まるで追ってくるような音がするのを教えてくれる。
「ヒューマンは残虐でどこまでも自分勝手、因果応報って言葉を絶対に受け入れようとしない、それだけ」
「えっと……サルタナちゃん何かしたの?」
「……ちゃん?」
「ん?……え、あ!?ごめん馴れ馴れしかったよね!?」
「んーん、そんな事は無い。
そう呼んでくれたのは姉さんだけだったから驚いた。
けど、少し懐かしい。悪くない。その感じ」
「サルタナちゃん……って行き止まり!?」
私はブレーキ掛けたけど、サルタナちゃんは止まる事無く足を踏み出し……
「………え?」
私を思いっきり投げ飛ばされた。
「うわっ!?」
三階建ての家の壁に囲まれた位置から屋根まで投げ飛ばされ、屋根に落ちる瞬間突風で勢いが落ちて痛みも無く着地した。
「少しそこで待ってて」
サルタナちゃんがそう言ってすぐ、5人の武装した男達が現れた。
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