第5話 もしかして俺のスキルって


 これぞ一目散、ってな具合に現在逃走中。


「ぎゃあああああああああああ!!」

「ひええええええええええええ!!」


 半泣きになりながら森を走り抜ける。

 多分、これが火事場の馬鹿力ってやつなんだろう。俺今タイム計ったら一〇〇メートル十秒台じゃね? ってくらいに全力疾走。


 その背後からは見るも恐ろしい地竜が、これまた全速力で追ってきている。

「グオオオオオオオオオオオオ!!」

 一歩進む度に激しい地鳴りが辺りに響く。

 我が子を殺されたので怒り心頭。追いつかれたら頭からパックリいかれること間違いなしな剣幕で迫りくる。


「ヤバイヤバイヤバイ!! こんなん聞いてねえって! マジでやばいって!!」

 テンパリ過ぎて俺の語彙力もヤバイことになってる。

「カケルさん走って! とにかく全力で走って!」

「うるっせええええテメエも走れや!!」


 ヤマモトは自分では早く走れないのか、図々しくも俺の頭の上に飛び乗って俺を足に使ってやがる。

 ムカつくからぶん殴ってやろうかと思ったが、そんなことしてたら数秒後には地竜のお腹の中なのは目に見えてるので、仕方なくヤマモトを頭の上に乗せたまま走ってる。

 ヤマモト自体は小柄で大した重さじゃないのが幸いだ。


 幸いと言えば、ここが森なのも幸いだった。

 地の竜と名の付くだけあって、地竜は足が速かった。ここが草原だったらすぐ追いつかれていただろう。

 だがその巨体のせいで、木々が乱立している森では上手く走れていない。

 そうと分かるや俺はなるべく木々の密集している個所に飛び込み、なんとか地竜の走りを妨げようとしていた。


 しかしいい加減それも限界に近い。何より俺の体力がもう限界だ。

 多分もう一キロ以上全力疾走してる。

 俺にこんな力があったなんて。陸上部入っときゃよかった。


 だがそれも気休めに近い。地竜の突進は接触した大木を容易くへし折っている。

 あんなもん喰らったら死ぬ。

 こちとらついさっきトラックに跳ねられて死んでんだぞ!?

 もっかい吹っ飛ばす気か!? ざけんなあああ!!!


「おいヤマモト! これどうすりゃいいんだ!?」

「わ、私に言われてもわかりませぇん!」

「お前戦えるか!?」

「無理ですう!」

「だろうな……」


 マジクソ役に立たん。

 聞くまでもないが一応確認だ。

 俺でも倒せるような地竜の子供に喰われそうになってたんだ。こんな恐竜相手にできるわけねえ。


「クソがああああ!! 俺が何したってんだああああ!!!」

 もう限界まで乳酸タプタプの足を懸命に動かす。

 だってそうしなきゃ地竜に喰われるんだもん。誰だって頑張るさ。

 人生でこれほど全力を出した瞬間なんてなかったと思うほど走り続ける。


 それでも地竜の気配は背後から消えてくれない。

 むしろ大きくなってね? もう振り返るのも怖いからできないけど、足音はまだ聞こえる。こえー。


「スキルッ! スキルだッ!」

 もうこの状況を覆せるのはスキルしかない!

 スキル! なんだっけ。俺なに持ってたっけ!?


 『攻撃力増加・小』。

 『能力看破』。

 『多重補助』。


 一つはさっき使ったが効果発動しなかった。

 他の二つは効果不明。


 ――死ねってか!?

「こんなもんでどうしろってんだ!」

「カケルさん落ち着いてくださぁい!」

「うるせえ! お前人の頭の上乗ってるだけじゃねえか!」


 そうだ、とにかくこの三つのスキルでこの窮地を脱するしかない!

 とにかく発動してみるっきゃねえ!


 まずは『能力看破』からだ。

 名前からして対象の能力を暴くスキルだろう。ライブラだライブラ。

 後ろから迫る地竜には使えないし、俺の能力はもうわかってるから使う意味がない。

 使うならヤマモトにだ。


「『能力看破』!」

 発動した直後、俺の脳内に奇妙なイメージが浮かび上がった。



 名前:ヤマモト

 職業:スライム

 レベル:1

 攻撃力:12

 防御力:13

 すばやさ:5

 魔力:7

 習得済みスキル:

 なし



 今度は上手くいったようだが、なるほど……能力っていうかステータスをまるっと覗くスキルか。

 ……てかこのスライム俺より攻撃力と防御力高くね?

 え、俺スライム以下……?


 まあこの能力は予想通りっちゃ予想通りだ。だがこれだけでは乗り切れない。

 次だ。『多重補助』。

 これがマジで分からん。なんだこれ?


 補助を多重させる……そのまんまか?

 そのままならどういうことになるんだ?

 まあいい使ってやれ。どうせ考えてる時間はない。


「『多重補助』!」


 ……。

 ……。

 ……なんもおきねえ。

 パワーアップが不発だったときともまた違う感触。

 あれは『発動したのに効果が出なかった』って感じだったが、今回はそもそも発動すらした気配がない。


「……自動発動型パッシブ、か?」

 そんな気がする。

 つまり『複数の補助魔法を重ね掛けできる』ってことか?


「複数っつっても一個しかバフ持ってねえよ」

 今持ってる補助魔法なんて『パワーアップ』だけだ。

 これを複数回かけられる……のか?


「カケルさん! 地竜がもうすぐそこまで来てますうううう! ひええええ!」

 うるせえ黙ってろ!


 ……使うしかねえ!

 だが『パワーアップ』はさっき発動しなかった。

 なんだ。

 条件はなんなんだよ!?

 どうすりゃ攻撃力は上がるんだ!


「カケルさあああああん!!!」

「うるせえええ!! 『パワーアップ』!」

 もうヤケクソ気味に補助魔法をかける。

 対象はヤマモトだ。

 さっきは俺を対象にしたら発動しなかった。

 『使用者には効果がない』という制約でもあるのかもしらん。ないかもしらん。わからん。

 が、とにかく俺に補助はかからなかった。ならヤマモトだ。とりあえず物は試しだ!


「どうだヤマモト! 力は増したか!?」

「ええ、なんですかあああ!? もう私食べられちゃうんですかあああ!!?? やだあああああ!!!」

「クッソこいつマジ……!」

 使えねえったらねえ!


「もういい。『能力看破』!」

 自分で確認した方が早い。



 攻撃力:14



「――――お?」

 お? お?

 上がってね?

 さっきは12だったけど今は14に上がってる。

 ……上昇値がたったの2なのはこの際無視だ。

 今は効果がちゃんと表れたことを喜ぶべきだ。


「『パワーレイジ』! 『能力看破』!」

 同じ魔法を繰り返す。


 攻撃力:17


「上がってる上がってる!」

 しかも今度は3上がった。

 つまりバフの重ね掛けができるってことだ。


「これだ!」

 これが『多重補助』の効果だとしたら、これは使える! 使えるぞ!


「『パワーアップ』『パワーアップ』『パワーアップ』『パワーアップ』!」

 俺は狂ったように一心不乱にヤマモトに補助魔法をかけ続けた。


「カケルさん何してるんですか!? 怖くて頭がおかしくなっちゃったんですか!? わかります、わかりますよ! でももう少しだけ頑張って走ってくださああいいい!!」

「『パワーアップ』『パワーアップ』『パワーアップ』『パワーアップ』!」


 ヤマモトがなんか騒いでるがこんなのはもうガン無視だ。


「『能力看破』!」



 攻撃力:74



「上がってるううううう!!」

 しかもかなり上がってる!

 これいけんじゃね!?


「『パワーアップ』『パワーアップ』『パワーアップ』『パワーアップ』『パワーアップ』! どうだあ! 『能力看破』!」



 攻撃力:184



 めちゃめちゃ上がってるじゃねえか!! すげえええ!

「おいヤマモト! お前にメチャクチャ補助魔法かけたからあの地竜に攻撃しろ!」

 もうそろそろいけるだろ。

 てかこれ以上無理だ。さすがに足が限界に来てる。


「嫌ですよ!! カケルさん! 同じ補助魔法は重複しませんから!」

「え、やっぱそうなの?」

「当たり前です! そんなことできたらステータス上がり放題じゃないですかあ! こんなの常識です!」


 そうなのか。じゃあやっぱりこの『多重補助』ってのは特別なスキルっぽいな。

 いいねえいいねえ! そうこなくっちゃよ!


「おい、どれくらいの攻撃力があればあの地竜を倒せる!?」

 元が12だったんだ。今は184あるが、これでも十分かは分からん。

 この世界におけるステータスの基準が全然わかんねえからな。


「どれだけあっても無理ですうう!!」

「いいから教えろ!! 俺がその値まで上げてやる!」

「そんなの無理ですよお! 攻撃力が100はないと無理です!!」


 …………え?

「……100? 100でいけるのか?」

「100で、って何言ってるんですか! 攻撃力100なんて一流の戦士のステータスですよ!」

「いや、でも……」


 お前いま……攻撃力184なんだが?

 …………お?


「……ヤマモト」

「はい、なんですか!? 何かいい策でも思いつきましたか!?」

「ああ、思いついたぜ。お前、あの地竜に攻撃しろ」

「な――」


 ヤマモトが絶句しているが、説明している暇はない。

「いいから行け! お前ならやれる! 俺の補助魔法を信じろ!」

「嫌ですうううう! 死にたくないいいい!!」

「うるせえ行け! 補助が切れる前に!」


 俺は意を決して振り返る。

 もう地竜は俺たちまで十メートルってところまで来ていた。

 木々をなぎ倒しながら迫る恐竜の姿はド迫力。

 こえー!


 俺は頭の上に乗っているヤマモトを両手で掴み、そのまま……

「え、ちょ、カケルさん!? 嘘ですよね!?」

 ――地竜目がけて投げつけた。


「ひやあああああ!!!」

「いけ、ヤマモト! たいあたりだ!」

「ひとでなしいいいいい!!」


 ヤマモトが号泣しながら地竜目がけてすっ飛んでいく。

 地竜はまるでハエが迫るように気にも留めやしない。構わず突っ込んでくる。


 そして、ヤマモトと地竜が激突し――











「よう、無事か?」

 長時間の全力疾走のせいで全身から汗が吹き出し、死にそうなほど呼吸が荒くなってるが、それでも俺は……生きていた。


 同時に、俺は一つの確信も得た。


「あ、あれ……私はいったい……?」

 ヤマモトは呆然としながらキョロキョロと辺りを見回していた。

 まだ状況が理解できていないらしい。

 だが俺の目からは何が起こったのかがハッキリと見渡せた。


 地竜は木っ端微塵になっていた。

 かろうじて残骸だと分かる程度の肉片が転がってはいるが、直撃した頭部から胴体にかけてはゴッソリ吹き飛んでいる。


 一撃だった。

 ヤマモトが地竜に激突した瞬間、まるでロケット弾でも食らったように地竜が吹っ飛んだ。


 無論、攻撃したのはヤマモトだが、この結果は間違いなく俺の補助が原因だ。


 そう。

 俺が得た一つの確信。それは……


「……『多重補助』……か」


 ――こいつは当たりだ。

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