第4話 最初からクライマックス?


「……なるほどな。大体わかった」

 スライムから色々と話を聞いて、この世界のことはある程度把握できた。

 世界観は所謂テンプレもの。中世のファンタジー世界で、人類と魔族が戦争をしているらしい。


 そして驚くべきことに、今この周辺には魔王軍が攻めてきているらしい。

 さっきからずっと鳴り響いてる爆発音は、魔王軍と人間の軍が戦ってる音だったのか。

 いきなりやばいところに転移しちまった。


 あのさあ……普通こういうのってまずは適当な町にでも滞在していろいろ準備してから戦闘おこらない?

 なんでいきなり最前線に放り出されてんだよ。

 不親切極まりない。俺をどうしたいんだ。


「とりあえずダッシュでこの場から離れた方がいいのはわかった。じゃあなスライム娘。達者でな」

 聞くだけのことは聞いたし、いつまでもこんな戦地でのんびりしてられん。

 さっさと森を出てどっか町にでも避難しないと戦闘に巻き込まれたら洒落にならん。


 するとスライム娘がプルプルと震えながら俺にすり寄ってきた。

「あのぅ……私も一緒に連れてってください。私こんな場所で一人は嫌です」

 知らねえよ消えろ。


 ……と突っぱねるのは簡単だが、実際迷いどころだな。

 なにせこっちは、何故か使い物にならん白魔法しか取り柄のない白魔導士の一人旅だ。

 こいつが戦力になるかは怪しいが、仮にも魔物なら多少は役に立つか?


「てかお前はなんでこんなとこに一人でいんだよ」

「私はもともとこの森に住んでたんですけど、この人間と魔王軍の戦争に巻き込まれて一人ぼっちになってしまいました……」

 へー、そりゃお気の毒だ。

 戦災孤児ってことか。子供かは知らんが。


「でもこの森を出ても一人で生きていくなんてできそうにありませんし……どうかあなたの仲間に加えてください! ひとりだと心細くて……」

 スライムの身体からポロポロと水が分離して零れていく。

 スライムの涙ってなんか分かりづらいな。でもまあ泣くほど心細いのは確からしい。


 まあそう言われれば分からんこともない。

 いきなりこんな世界に飛ばされて心細いのは俺も同じだ。

 話し相手がいるってだけで一人のときとは安心感が違うもんだしな。


 元の世界でも、山本君という友達が一人いるだけでぼっちの烙印からは逃れられていたみたいなとこもあるしな。

 一人じゃないってのは心強いもんだ。


「よし、じゃあ一緒に行くか」

「あ、ありがとうございますぅ! この御恩は一生忘れません!」

「じゃあ名前教えてくれよ。俺は北条翔。カケルって呼んでくれ」

「カケルさんですね。私には名前とかはありません。お好きに読んでください」

「じゃあ山本だな」

 こいつには俺にとっての第二の山本君になってもらおう。


「ヤマモトですね! 素敵な名前までいただけるなんて……ありがとうございます!」

「おう。山本は俺にとって大切な名前だからな。その名に恥じない働きをするんだぞ」

「はい!」

 なんかノリで決めちゃったけど、もし山本君がこの光景を見たらどう思うんだろう。

 怒るかも。


 ……やっぱ高橋にしようかな。

 あの憎きイケメン野郎と同じ名前のスライムをコキ使うなんてなんか気持ちよさそうだし。


「まあいいか。じゃあヤマモト。まずどこ行けばいいとか分かる?」

「私もこの森から出たことはないのでどこに行けばいいかはわかりません。ただ、とりあえずこの場所からは離れた方がいいと思います。他の地竜が来るかもしれませんし」

「地竜?」


 なんのことかと一瞬分からなかったが、おそらく俺がさっき倒したトカゲのことだろう。

 なんだ、あれ竜なのか。その割には大したことなかったが。


「あんなの別に大した敵じゃねえだろ。お前らだってあの魔物と一緒にこの森で生きてたんだろ?」

「いえ、あの地竜は魔王軍がこの森に放った魔物です。人間を倒すために」


 なんだ、この森の魔物じゃなかったのか。

 しかし魔王軍の手先にしては弱かったな。

 武器なしの俺でも倒せるんだ、普通の戦士なら余裕だろ。

 なんだ、案外魔王軍ってのも大したことないんだな。

 こりゃこの異世界暮らしも楽勝か? はっはっは!


 ――ズシン、と地面が揺れた。


 音の発生源はかなり近い。

 というか真後ろからだった。

 振り返る。


「…………」

 トカゲがいた。

 見た目はさっき俺が倒したのと似てる。

 なるほど地竜ってのはそういうことか、と納得してしまう。


 まずデカい。

 どんくらいデカいかというと、うーん……。


 ……ティラノサウルス?


 うん、そんな感じ。翼はないけど、確かに竜だ。

 てか恐竜だな、うん。


「ヤマモト」

「はい」

「ここから離れた方がいいっていうのはつまり……」

「はい、今倒した地竜の親が近くにいるかもしれないので」


 それってこいつじゃね?

 ほら見ろよ。死んだトカゲ――地竜の赤ちゃんだったんだな――に、なんか悲しげに頬ずりして唸り声上げてるし。


 その目がゆっくりと俺たちの方を向く。

 あーこれヤバイかも。完全に子供の仇だと認識されちゃってるねこれ。


「ヤマモト」

「はい」

「俺からのお願いなんだが、そういう情報は真っ先に言ってくれる?」

「分かりました! 次から気を付けます!」


 いや次がなさそうだから言ってんだけど。


 ヤマモトを見ると体から水がボロボロ流れてる。

 あれは涙じゃないな。冷や汗だ。

 わかるぞヤマモト。お前も俺と同じ気持ちなんだな。

 俺も股間から違う水が流れちゃいそうだ。


「――グオオオオオオオオオオッ!!」


 地竜が吠える。

 その吠え声は怒りに満ち、俺達に向けて明確な敵意を露わにしていた。



 ……頼むからせめて負けイベントであってくれ。

 こんなんでデッドエンドとかマジクソゲー認定すっからな!?

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