First Bullet -2-
早速だけど、と老紳士は切り出した。
「君が殺す5人の殺人鬼の詳細だけどね、
どこにいるだとかまでは把握出来ないけど彼らの簡単な調査書なら手元にあるから、特別に君に見せてあげるよ。
……彼らの中には指名手配の者もいるから、この書類はトップシークレットだよ?……分かったね」
そう言って老紳士は席を立ち、後ろの書棚から数枚、ファイルに挟まれた書類を取り出し、僕に手渡した。
「顔写真も貼られているから、それをよく見て顔を覚えるように」
僕はもうやるしかないのだ。
そう自分に言い聞かせて1枚目の書類を取り出した。
ペラリ。
『【調査報告書:
【性別:男 年齢:不明/生年月日:不明】
【身長:186cm/体重:78キロ/血液型:B型】
【家族構成:不明】
【特記事項:戸籍や学歴、篠崎昴なる人物の痕跡が全く確認出来なかった。】
【犯罪歴:暴行 約100件 殺人未遂 約50件 殺人 約400件
※主な殺害方法は武器を使わない拳による暴行である。
※いずれも確認できる範囲のため、正確な数は分からない。】……』
など、簡単と言う割には詳細な調査報告が2ページに渡って書かれていた。
1ページ目は彼の人柄、履歴などについて。
2ページ目は罪状の詳細、主な殺害方法などについて書かれていた。
これによると彼は信じられないことに素手で人を殺しているらしかった。
その殺害方法のどれもが惨たらしく、ある被害者は殴られ過ぎたせいか、顔が原型を留めない程に腫れ上がっていたり、ある被害者は内臓全てが破裂していたらしい。
そして書類と一緒にクリップで挟まれていたのは彼の顔写真だった。隠し撮りのようで、画質も粗くピンぼけしていた。
その中に映されていたのは、片側に無造作に流したボサボサの金髪に左頬の大きな傷跡に緩く弧を描く口元と好戦的に細められた三白眼のオッドアイが印象的な凶悪そうな男だった。
「……まるで絵に描いたような殺人鬼ですね」
「それは彼だけ。他の者の容姿はパッと見ただの一般人さ」
そう言いながら老紳士はクツクツと愉快そうに笑った。
篠崎昴の調査報告書を置き、次の調査報告書を手に取る。
『調査報告書:
【性別:女 年齢:17歳 生年月日:2月2日】
【身長:158cm 体重:不明 血液型:不明】
【家族構成:孤児院出身の為、家族は無し。最初は孤児院に居たが、10歳の時にスラム街に住み着くようになった。】
【学歴:鳶丘幼稚園卒
蒼角館大学付属小学校卒】
【犯罪歴:殺人 ※何人殺したか不明
※主な殺害方法も不明】
【特記事項:小学校在学中、突然行方不明、その後死亡扱いとなり、戸籍から消失。スラム街で姿を確認されたのもその時期。
殺人件数が計測できなかったのは彼女に食人嗜好がある為被害者が全て残らず食べられてしまうからである。
最近は身分を偽って『
そして先程同様にクリップで挟まれた隠し撮りの顔写真を見ると、経歴や犯行方法の残虐性とは程遠い美少女———制服を纏い、色素の薄い茶髪を後ろでふわりと束ね、 硝子で出来たような赤い瞳に、作り物のような完璧な笑顔を浮かべ談笑する人間が映っていたのだ。
こんな少女に人が殺せるのか。
それ以外は特に何も思わず、次の調査報告書を手に取った。
『調査報告書:
【※Artifactなる通り名以外の情報が極端に少ない人物。基本情報は皆無である。】
【犯罪歴:殺人 500件超
※主な殺害方法はナイフや短剣等を用いた刺殺。必要最低限の致命傷しか残っていない遺体が多い。】
【特記事項:いつも殺害現場にトランプ程度の大きさのカードが残されており、Artifactの通り名はそこに筆記体で記載されていたのが由来。そのカードには叙情詩の文言の一部や謎めいた言葉が毎回書かれている。
Artifactは元々数百年前、英語圏の国々で有名だった切り裂き魔の都市伝説で、実態はない噂話だったが4、5年前から日本でその存在が確認されるようになった。英語圏のArtifactの都市伝説は主に悪人を殺す暗殺者であるが、日本でのArtifactは悪人に拘らず、ただ無秩序に人を殺している様な印象を受ける。】……』
「悪いけど、Artifactは資料も情報も殆どないから顔写真は疎か、ここまでの情報しか用意できなかったよ。すまないね」
「Artifactは本当に実在しているんですか?
ここまで情報が少ないなんて、ただの噂話という可能性の方が大きいでしょう?」
「まぁ、一応実在はしている様だけど……いかんせん神出鬼没な奴でねぇ……」
「はぁ……」
そしてまた次の調査報告書を手に取った。
『調査報告書:
【性別:女 年齢:14歳 生年月日:12月8日】
【身長:152cm 体重:43kg 血液型:A型】
【家族構成:両親と1つ下の弟が1人の4人家族。父親は数年前に行方不明に、4ヶ月前に母親と弟が他界。楯木家はとある犯罪組織に所属しており、本人や弟、母親も裏社会の人間であった。家族全員で豪華客船の夜襲中、事故で母親と弟が死亡。本人のみ生き残る。その後本人は組織を出奔し、現在も消息を絶ったままである。】
【学歴:茨ヶ丘幼稚園卒
市立橘小学校卒
桜岡短期大学付属中学校 在学中】
【犯罪歴:不明
※主に暗殺専門と噂される
※日本刀を愛用しているらしく、組織内でも刀剣の腕においては相当なものだったらしい。】……』
顔写真には、ショートカットの黒髪に少女らしい大きな瞳、赤と白の椿の花の髪飾りを着けた、無表情の少女が映っていた。
その目はとても年頃の少女とは思えないほど暗く淀み、深い絶望に覆われていたのが印象的だった。
『調査報告書:
【性別:男 年齢:15歳 生年月日:6月10日】
【身長:168cm 体重:49kg 血液型:A型】
【家族構成:両親はいない。2つ上の兄が一人いる。幼少期に兄と共に組織(楯木椿の報告書参照)に才能を見出され、組織に育てられた。】
【学歴:市立栗栖小学校卒
桜岡短期大学付属中学校 在学中】
【犯罪歴:殺人 ???件(3桁には上る模様)
※殺害人数不明
※銃火器の扱いに凄まじく長けており、特にスナイパーとしての腕が秀でているようだ。ただ、接近戦は苦手としているらしい。】
【追記:榎園透と楯木椿は同じ班に所属しており、通う学校も同じである。】……』
そして顔写真に映るのは、恐ろしく顔が整っている中性的な少年で、気の強そうな切れ長のつり目とが印象的であった。
あぁ、モテそうだなぁ……と思いながら顔写真をクリップで挟み直し、書類を置いた。
「これで全部ですか?」
「あぁ、そうだよ」
「中身は全て覚えました。が、何故これ程までに詳細な報告書が出せるんですか。……僕にはやはり、貴方が只者には思えない。貴方は誰なんです」
そう言うと老紳士は不敵そうな笑みを浮かべた。
「別に誰だって構わないだろう。だが……貴方、と呼ばせ続けるのも中々だね。
ふむ、では私のことはこれからこう呼んでくれ。……三浦、と」
「三浦、ですか」
「そう、三浦。改めて宜しく。
では、早速今日の夜に一人殺してもらおうか。書類の1枚目の殺人鬼、篠崎昴が現れるという情報をリークしたのだよ。……場所はこの街のはずれの廃倉庫付近だ。勿論君にこの街の地理は頭に入っていないだろうから、私が案内しよう」
「分かりました」
三浦は僕の傍に近づいて、こう囁いた。
「……なぁに、心配する事はないさ。
君ならきっとやれる、大丈夫だよ」
「再度確認します。本当に三浦さん、貴方は、僕が5人の殺人鬼を仕留め、この仕事を完遂出来たら僕の記憶を取り戻してくれるのですよね?」
「あぁ、勿論さ。私の命に代えても、それを約束しよう」
「では、もし三浦さんが僕との約束を履行しなかった場合、命に代えてもと仰っているからには、貴方の事を殺しても構わない、ということですね?」
「……そうなるね」
「分かりました。……僕もこれ以上罪は増やしたくない。約束を守っていただけることを願っていますよ」そう僕が皮肉な笑みを浮かべると、
「君が無事に私の依頼を遂行できることを、期待しているよ」三浦も余裕そうな笑みを僕に返した。
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