第2話 にゃんことネズミ

 召喚を29回して分かった事だけど、このガチャで人型は出ないようだ。

 と言うか、召喚獣自体がレアっぽい。9割がスキルかアイテムだった。クソガチャかよ!


 「あと一回か…」


 最後の引き直しガチャを柴犬に頼む。

 柴犬は前足で魔法石を放り投げた。魔法石は魔法陣の中心で浮かび、虹色の光を放つ。今までの経験上、これは召喚獣が出現するエフェクトだ。

 今までの中で虹が出たのは2回しかなく、虹色の光でしか召喚獣は出なかったから召喚獣確定だと思いたい。


 「ウシガエル以外で頼む!」


 因みに過去の虹色に光った召喚では2回ともウシガエルが出現した。

 多分召喚獣が一番出にくくてレアなんだろうけど、ウシガエルはその中でも出やすい部類なんだろう。


 「頼む! 本当に頼む!」


 光の中から出てきたのは黒猫だった。世にも奇妙な〇語で出てくる感じの黒猫で中々可愛い。黒猫はこちらの方を見ながら大きく欠伸をしている。


 「おぉ! 最後がブラックキャットとか幸運だね!」

 「レアなん?」


 柴犬の話ではブラックキャットはこの召喚で出てくる中で最高ランクの召喚獣らしい。敵に不運を与え主に幸運を運ぶ魔獣で、進化していくと人型にもなれるとか。因みにメスだった。当たりやん。


 「にゃー」


 黒猫は魔法陣を抜け出して俺の足に体を擦り付けてくる。あざとい。

 黒猫を持ち上げると俺の頬を黒猫がペロペロと舐めてくれた。可愛い!


 「ブラックキャットは戦闘能力も高いからラッキーでしたねー」

 「マジすか。お前強いんだなー」

 「にゃー」


 黒猫は凄いだろと言いたげな顔で鳴いた。何と言うか、本当に強いか疑わしいが、可愛いから別に良いかと思えてしまう不思議。


 「そうだ、こいつに名前を付けないとな」

 「にゃー」

 「じゃあクロとかどう?」

 「にゃあ……」


 心なしか黒猫が嫌そうに鳴く。気に入らないようだ。

 確かに安直すぎたか……


 ・・・


 「じゃあ、今日からお前の名前はニーナだ」

 「にゃん!」


 30分の名前付けの激闘の末、黒猫の名前はニーナに決まった。

 長かった……因みに柴犬は10分くらい前に飽きたのか寝てしまっている。

 起こさないように静かに出てくか。


 自室に戻って取り合えず座る。色々あってドッと疲れたが、色々ワクワクしてきたな。そういえばダンジョンの入り口は何処にあるんだろうか。タヌキは自室の何処かに入り口があるって言ってたけど……

 部屋の中をいいくら探してもダンジョンの入り口は見当たらない。


 「にゃー」


 諦めかけた時にニーナが座っていた場所をテシテシと叩いて鳴いた。まるでそこに何かがある事を教えるかのように。

 気になったので俺はニーナの座っていた場所の畳を改めてみてみる事にした。


 「あれ? なんか変だぞ、ここ」


 立ってみるとここだけ畳の踏み心地がちょっと違う。畳を持ち上げてみるとそこには地下へと続く階段があった。壁は赤レンガで階段はコンクリートっぽい。明らかに人の手が入った感じがする。壁が明かりもないのに薄ぼんやりと光っていて不気味だ。


 「結構長い階段だな。下が見えないや」


 階段は距離があるようで下の様子をうかがうことは出来ない。

 少し興味はあるが、何の準備もしていないのにこれを進むのはちょっと気が引けた。


 「とりあえず、何か武器を探すか」

 「にゃー!」


 畳を戻そうとすると、ニーナが勢いよく階段を下りて行ってしまった。

 その姿はまるで俺にダンジョンから逃げるなと言っているかのようで……しばらく考えて階段を下りる事にした俺の足は情けない事だが震えていた。


 ・・・


 階段を下りた先は小学校の教室ほどの広さがある石造りの部屋だった。

 洞窟と言うよりは神殿の一室と言った感じだ。ここも壁がボンヤリと光っているから周囲が見えないという事はないが、薄暗くてお化けとか出そうな感じがする。つまりは怖い。


 「にゃー」


 声の方を見てみるとそこにはニーナがいた。少しホッとした俺はニーナに駆け寄って、立ち止まる。

 そこには見た事が無い生物が転がっていた。多分ニーナが倒したのだろう。

 ソレはまだピクピクと動いているがニーナの前足に押さえつけられていて動けないようだ。


 ソレの姿は正しくネズミだったのだけれど、果たしてニーナと同じくらいの大きさのネズミをネズミと認識しても大丈夫なのか疑問が残る。

 ニーナが俺の方を見てニャーと鳴く。多分止めを刺せとでも言っているのだろう。さっきまで現代日本の一般人だった俺にとって生き物を殺す事に忌避感がないわけもなく、正直殺したくない訳だが、これを殺せないと多分遠からず俺は死んでしまうんだろう。


 「やるしかないんだよな」


 俺は足元にあった岩を持ち上げてネズミの頭へと何度も振り落とした。

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