願ったらこうなった

トカゲ

第1話 願ったらこうなった

 目の前が光で溢れている。

 何でこうなったのか分からないが、そんな不思議な空間に俺はいた。


 『あなたの願いは退屈をなくしてほしい、そうですね?』

 「はぁ……まぁ、そう願いましたけれど」


 俺の目の前には神を名乗る存在がいる。

 現状を説明すると、流れ星に「退屈な世界よ消えてなくなれ!」と願ったら、次の瞬間ここにいた。訳が分からないと思うが、俺も訳が分からないんだ。


 『おめでとうございます。あなたは流れ星に願った50億体目の生物です。気が向いたので願いを叶えてあげる事にしました』

 「まじすか……じゃあ100億円ください」

 『……え? 退屈な世界を失くすのが願いですよね?』

 「あ、はい」


 俺が頷くと神様は満足そうに頷いて両手を上げた。



・・・・


 目を覚ますとそこは住み慣れた自分の部屋だった。

 風呂トイレとキッチン、四畳半の小さなアパートだ。古びた畳の上に敷かれた万年床の布団が俺の生活事情を表している。


 「……何だよ、夢かよ」


 少しガッカリしながら布団から起き上がると、トイレに向かうために洗面所の扉を開けて立ち止った。何故なら目の前には見慣れない長い廊下があり、奥の方に見慣れた洗面台が見えたからだ。

 10mほどの長い廊下の両脇には木の扉があって、そこにはそれぞれマークが描かれていた。


 「魔法陣に袋のマークね」


 右の扉に五芒星の魔法陣のマーク、左の扉にRPGでよく見る道具屋のマークが描かれている。俺は取り合えずそれをスルーしてトイレに向かい、用を足して部屋に戻った。


 「うん、夢じゃないのかな? それともまだ夢の中かな?」


  訳が分からない。取り合えずコンビニに行こうと思って玄関の扉を開けると、そこにはいつもの景色はなくて薄暗い岩肌……簡単に言うと洞窟が広がっていた。

 俺はゆっくりと玄関の扉を閉めてもう一度四畳半の自室に戻り、布団の上に正座をした。


 「うん、夢かな? 夢じゃないとしたらこれは願いが叶ったのかな? 確かに退屈はしなさそうだけども。でもね神様、ちょっと想像と違うんですけど!」


 俺は正座から四つん這いに変化し、右手を布団に叩きつけた。

 なんだよもー! 違うんだよな、こういうのじゃないんだよなー! もっとラブコメ風のやつが良かったんだけどなー! 日常系っていうかさー!


 「いや、まだガッカリには早い。異世界ハーレム系かもしれん」


 確かそんな小説があったはずだ。女の子型のモンスターを召喚して冒険するやつ。あの魔法陣のマークが書かれていた部屋が怪しい。


 「……行ってみるか」


 いや、まて俺。まだ早い。もう一つの方の道具屋っぽい部屋から見てみることにしよう。考えてみれば自室にある食料なんて3日も持たないし、もし洞窟にゲームみたいなモンスターが出るとしたら武器も欲しい。


 ビクビクしながら袋のマークが掛かれた扉を開けるとそこにはコンビニがあった。普通のコンビニと違う所があるとすれば、本のラックに巻物や古びた古文書っぽいのが置かれていたり、ATMっぽい機械の上にデカデカと【武器防具カタログ】というポップが置かれている所だろうか。他は飲み物やお菓子、弁当に至るまで普通のコンビニと同じ品ぞろえだった。(若干怪しい商品はあるが)


 「これならお金があれば食うのに困らないな」


 それが分かれば後は通貨が何なのかを知りたいところだ。

 日本円で買い物できるなら貯金箱に5万円ほどあったはずなので、当面はなんとかなる。俺はレジに向かい店員の姿を探した。


 「いらさいー」


 レジの前に立つと、そこにはやる気の無さそうなタヌキが椅子に座ってこちらを見上げていた。普通のタヌキじゃない。大きさは小学生の低学年ほどあり、フォルムもリアルと言うより……そう、あれだ、ジブリの映画のやつに近い。


 「タヌキだ!」

 「うるさいなぁ。そやそや、タヌキやで。何の用や?」

 「いや、ここで使える通貨が何なのか知りたくて……」

 「あぁ、お前今日来た新入りか。ここで使える通貨はこれや」


 タヌキが見せてきたのは1円くらいの大きさの銀色のコインだった。

 これがこちらの通貨で1z(1ゼニー)というらしい。ゼニーはダンジョンのモンスターを倒すと手に入れることが出来るようだ。残念ながら日本円は使えない。


 「ダンジョン? モンスター?」

 「そやで。お前も大なり小なり願い事をしてここに来たんやろ? ならお前の部屋の何処かにダンジョンの入り口があるはずや。ダンジョンにはモンスターがいて危険やけど、金やアイテムが手に入るし、強くなれる。それにクリアできたらご褒美に最初に神様に願ったことを実現してもらえるんやで」


 タヌキが偉そうに説明してくれた。

 あれ? 願いってもう叶ってるんじゃないの? 詐欺かよ。

 しかし、金がないから武器とか買えないんだが、ダンジョンって素手でも行けるんだろうか?


 「ダンジョンの難易度は自分が神様に願ったもんによるけど、最高ランクのダンジョンだと1階からドラゴン出てくるから気を付けるんやで~」


 タヌキの注意を聞いた俺は普通に泣きそうになった。

 買うお金もないのでコンビニ? を出た俺は次に魔法陣のマークの部屋に行く事にした。


 「しっかし、冷静になると魔法陣が描かれた扉って怪しいよな……」


 ゆっくりと扉を開くとそこには某女神転生みたいな魔法陣が書かれた空間と柴犬がいた。


 「いらっしゃいー。初めてさんかな?」

 「あ、はい」


 柴犬は当たり前のように日本語をしゃべり始めた。

 柴犬がである。それを言ったらタヌキもそうだが、こっちはリアルに柴犬なので違和感ハンパない。


 「ここは召喚の間だよ。なんと魔法石5個で1回できちゃう!」

 「ガチャじゃん」


 まじかよ。課金制ですかね?

 あれですかね? 美少女でますかね?


 「初回みたいだし、1回はサービスで引けるよー。しかも初回のみ30回引き直し可能!」

 「マジかよ。スマホゲーじゃん」

 「これ人間界のやつ参考にしてるからね。パクッてんの!」

 「そんな悪びれもなく……えっと、何が出るの?」

 「目玉は召喚獣とかな。後は武器防具とかスキルとか」


 召喚獣が出るらしい。戦闘要員確保できるかな。あとスキルとかも出るのか。なに? 剣術スキルとか出るの? 飛天御〇流とか出来るようになるの?


 「スキルは本とか巻物で出てくるよ。召喚獣以外は隣の道具屋にもあるから後で見てみるといいよ!」

 「ふーん」


 なんか良く分からんが、ゲームみたいに魔法とか必殺技使えるようになるんだろうか。そりゃ召喚獣がいても自分の身は守らないといけないし、武器防具とかスキルも捨てがたいか。向こうのコンビニでも買えるみたいだけど、金もないし強いスキルとか武器防具は召喚限定の可能性もあるんだよな。


 「どうする? すぐやるかい?」

 「やる」


 俺が頷くと柴犬は器用に二本足で立ち上がり、魔法石を放り投げた。

 血のように赤いダイヤの様な宝石は魔法陣の真ん中で虹色に輝く。徐々に光は増していき、最終的に部屋全体が光で包まれる。

 眩しさの余り目を閉じていた俺が目を開けた時、魔法陣の中にはウシガエルがキセルを咥えてこちらを見ていた。


 「ゲコ、ゲ~コ」

 「チェンジで」


 俺は無表情でそう言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る