第五章 最後の戦い

第1話 昔の話

 今から百年以上前。時の日本は日清戦争の勝利で酔っていた。

 時刻は丑三つ時。二人の男が夢見神社の境内にいる。

「親父、本当に大丈夫なのか?」

「これしか方法がない。それに、大したことはないだろう」

 二人は木箱を持って、御神木の根元に来た。

「いいから、早く、掘れ」

「これで、解決するんだよな?」

「そうだといいが。さっきも言ったろ。それ以外には何のしようもない」

 一人がせっせと穴を掘る。

「こんくらいでいいか?」

「いいぞ。御神体もそんなに大きくはないだろうからな」

「言い伝えだと、赤子なんだろう?」

「あくまで言い伝えだ。本当に収められてるかなんて、知らん」

 木箱を開ける。

 それは、黒い布に包まれていた。異臭もする。

「これ、本当に…」

「言い伝えが正しかったか。御神体は本物の赤子の死体だ。生け贄にされて、かわいそうに」

「いいから早く、埋めちまおうよ」

 一人がそれを穴に落とす。そして土をかけ、元通りにする。

「これでいい。悪夢の元凶はこの御神木なんだからな」

「それで、こうして御神体をそばに持ってきて、戦わせようって、親父。本当に危険だよ」

「でも、それ以外に、みなが悪夢を見ずに済む方法がない! お前には思いつくか?」

 一人は数分考えたが、何も思い浮かばない。

「…」

「だろう? 俺だってあるのなら、採用したさ。でも何もない。俺にもお前にも、誰にも悪夢を止めることはできん」

「新たに生け贄を用意するとかは?」

「今の時代にそんなこと、できるか?」

「確かに…」

「とにかくこれで解決するはずだ。悪夢はもう、見ずに済む。死人もでない」

「もし、解決しなかったら?」

「その時は、この町は終わりだ。でも大丈夫だ。俺にはわかる。成功する」

「もし、その戦いで、御神木が勝ったら、どうなる?」

「それも、町の終わりだ。でも、戦いはかなり長くなるはずだ。双方ともに強い力を感じる。お前が生きているうちは、いやずっと先も大丈夫だろう」

「その先では、どうなるんだ?」

「知らん。その時は、その時代の者が解決するだろう。とにかく今に、悪夢を封じることが大切なんだ。後のことは考えなくていい」

 二人は空になった木箱に、それを包んでいた布切れだけを入れ、本殿に収めた。

「誰にも言うなよ? 俺とお前だけの秘密だ」

「わかっているよ」

 この出来事は、二人しか知らない。

 同時に、空の木箱には無念が残っていること、これからそれが貯まっていくこともまた、二人は知らない。

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