第7話 元凶との戦い
家族には、今日は泊りがけで勉強会という言い訳をした。
「じゃあ、行ってくるから。お父さん、お母さん、瑠璃」
「行ってらっしゃい、お姉ちゃん」
本当のことを言えなくて心が痛む。でも仕方なかった。言えば止められる。
四人は夢見神社に集まった。
「みんな来るとは、な。正直驚いたぞ」
「うむ。若い者の力は底知れぬ。みんな、いい眼をしておるのう」
先生は余っていた装置を二つ、取り出した。
「これは俺が付ける。んでもってこっちは神主さん用だ」
「でも、どうするんですか? 今まで僕たちは誰かの夢に行ってましたが、その神主さんの夢には行ってません。装置を使えば行けるんですか?」
「それは俺にもわからない。だが、悪夢にとって、討伐するお前たちは絶対に邪魔な存在のはずだ。その邪魔者が本丸のところに来たら…。俺なら潰しにかかるだろう」
「そうですか…。でも、何で先生もつけるんです…?」
「俺はお前たちの担任だぞ? 生徒だけを危険な目に合わせられん! それに俺も、かつては悪夢と戦っていた。悪夢も俺に恨みはあるはずだ」
「使えないんじゃなかったのか?」
「それは、賭けだ。教師になった後、使わなかったからな。それに俺には今、夢がある。それは…」
先生の眼を見ると、輝いている。まるでいつもとは別人だ。
「それは…。お前たちが無事でいて欲しいっていう、夢だ!」
六人は装置をつけ、眠った。
ついに悪夢との、本当の戦いが始まる…!
気が付くと、いつもの空間ではなかった。そこは、白い。見渡す限りの真っ白。
「どうやら成功のようだな」
六人はみんながいるのを確認すると、神主さんがある一点を指さした。
そこには、あの御神体を収めているという、木箱があった。
「みんな、気をつけい! 出てくるぞ。」
そう言うと木箱が勝手に開く。
そして、悪夢が姿を現した。
「あれが、がしゃどくろ…!」
それは黒い骸骨だった。その大きさは先生の四倍はある。そして胸の、心臓のあたりに赤い核のようなものがあった。核は怪しい光を放っていた。
「みんな、下がれ!」
先生がそう言う。言われた通りに下がる。
「久しぶりだな悪夢よ、決着をつけようじゃないか!」
先生の武器は大きな斧だ。それを振る。
「ケケケケケ!」
しかし、がしゃどくろは余裕で避ける。
次の瞬間、がしゃどくろが先生を弾き飛ばした。
「うおおおおおっ!」
「先生!」
「くそ、俺は、また負けるのか…。あ、脚が…」
紗夜が先生に駆け寄る。
「駄目。先生、右脚、折れてます…」
「すまないみんな、力になれなくて」
「大丈夫だぜ? 俺たちは先生、あんたと違って、逃げなかったんだからよ!」
「そうさ! 僕たちはいつも戦っていた!」
「行きましょ、みんな。悪夢を終わらせるわよ!」
「…絶対に、負けない…!」
四人は持てる力を全て使い、果敢に立ち向かった。
しかし、がしゃどくろも強い。瑠璃の刀をかわし、忠義のマシンガンにも動じず、機敏に動き、慎治に攻撃してきた。
慎治はそれを盾で防いだ。が、軽く十メートルは飛ばされた。
「うわああああ!」
がしゃどくろは慎治に狙いを定めた。四つん這いになって、そっちに向かう。
「そんなこと、させない!」
瑠璃はがしゃどくろの足首目がけて刀を振り下ろした。
パキッという音がした。
「う、嘘でしょ?」
妖刀ヤタガラスが、がしゃどくろの固さに負けて折れてしまった。
私にあれを止めることは、できないって言うの?
放心状態の瑠璃に構わず、がしゃどくろは慎治の方へ行く。
「まずい! このままじゃ…。慎治、スイッチを押せ!」
先生の声が響く。言う通りに、慎治がスイッチを押す。
カチッと音がすれば、慎治は消える。そのはずだった。
「な、な、な、何だ? どうなっちまったんだ?」
何度も何度もスイッチを押すが、慎治は消えない。
「悪夢が、ここに、閉じ込めやがった!」
みんなが感じる絶望感…。死にそうになっても、誰もここから脱出できない…。
「待て、がしゃどくろ。憎いのは、わしじゃろ? ならまず先に、わしを殺めたらどうじゃ?」
「ケケケケケケケケ!」
がしゃどくろは向きを変え、神主さんを狙い始めた。
このままじゃ、神主さんが危ない!
でも私たちの力じゃがしゃどくろを止めることもできない!
忠義のマシンガンは効かないし、紗夜の槍も弾く。慎治の剣も全く意味がない。
どうすれば、いいの?
その時、瑠璃はあることに気付いた。
がしゃどくろの赤い核が、神主さんに近づくにつれてまるで心臓の鼓動が早くなるみたいに瞬き始めた。
あれを狙えば!
でも、投げるものがない――いや、ある!
瑠璃は折れた妖刀ヤタガラスの刃の先を拾って、思いっきり振りかぶった。
「いっけえええええええ!」
折れた刀は、くるくると回りながら飛んで、がしゃどくろの赤い核に突き刺さった。
「ケケケケケケケケケケケケケケケケケケ!」
もがいている。効いた! やった!
がしゃどくろの全身にひびが入り始めた。体も少しずつ、崩れていく。それでも、がしゃどくろは瑠璃の方を向いた。
がしゃどくろの手が迫る。これさえかわせば、後は崩れ落ちるだけだろう。慎治みたいな盾を瑠璃は思い浮かべた。
だが、でない。原因は悪夢だ。慎治が帰れなくしたように、新しく武器を出せなくさせたのだ。ここにきて悪夢は、瑠璃だけでも仕留めにかかった。
「きゃあああああ!」
だが、その一撃は瑠璃には来なかった。
「え、先生?」
目の前には、大崎先生がいた。脚の骨を折ったはずじゃ…?
「生徒一人守れなくて、教師が務まるかよ? それに、全然強くないぜ? もっとも今ので左腕まで折れちまったみたいだがな…」
そう言って、先生はバタリと倒れた。
「ケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケ!」
断末魔が響く。がしゃどくろの全身は、バラバラに砕け散った。同時に、赤い核が空高く飛んでいくのが見えた。
「勝ったのか、オレたち?」
「そうだよね? 勝ったんだよね?」
「悪夢は、消えた…! ついに、やったんだ…!」
「そうよ、やったのよ!」
四人の声が聞こえる。
「見たか、大崎とやら。お前さんの選んだ者は強いのう」
「当たり前だ」
「本当に、やったんだよね? 勝ったんだよね僕たち!」
まだ忠義は驚いている。いや、ここで落ち着けって言う方が無理だ。
「ああそうだぜ! にしても、見事だったな瑠璃!」
「先生にも感謝…。いなかったら瑠璃がやられていた…」
瑠璃は、小太刀を思い浮かべた。すると、普通に出現した。
大崎先生も、インカムのスイッチを押す。すると、一瞬で消えた。
これで確信する。
私たちは、悪夢に勝った!
四人は抱き合い、勝利を分かち合った。
目も普通に覚めた。
「丈、救急車を。大崎先生は怪我してる」
「わかった。すぐに呼ぶ」
丈は百十九番通報した。
「すまないな、みんなを危険な目に合わせて。本当に、すまない」
「私だって先生に感謝しますよ。だって、私を救ってくれたんですもの!」
「ああ! さっきの先生、スッゲエかっこよかったぜ!」
「先生は逃げませんでした! 確かに僕はこの眼で見てましたから!」
「先生、辞める必要ないよ…。寧ろこんなに頼もしい人がいなくなると、困る…」
「そうか。みんな、ありがとう。でも、当分復帰は無理かもしれないな」
やがて救急車が到着した。
「わしが、一緒にいってやるぞ。大崎とやら。わしもお前さんに感謝せねばな。あと、お前さんの選んだ者たちに!」
事情を丈に説明すると、彼も喜んでくれた。
「やっぱり、君たちに託した甲斐があった! 本当にありがとう!」
勝利を喜び合う。
一瞬だけ、瑠璃の視線がそれた。
そっちにあるのはあの木箱。砕け散っていた。
一人、そっちに歩み寄る。そして、朽ち果てた木屑をどかし、中身を確認する。
中身は…布切れだけで、空だった。
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