第2話 初戦
教室に戻ってくると慎治がいた。彼は、瑠璃が持っているインカムを見るや否や、
「お前! どうしてそれを?」
疑問を投げかけた。
「大崎先生に頼んで、もらったの」
瑠璃は小声で答えた。
「そうなのか。それはきっと、剛が使ってたやつだな。先生は作るのに時間と金がかかるって言ってたから、少なくとも新品じゃあねえはずだ」
確かに大量にあれば、あの悪夢の中にも紗夜たち以外にも大勢が来ただろう。それにしてもこんなもの、一教師が作れるの? 先生は大学時代に夢について研究していたらしいけど…。
「剛が抜けちまった分、しっかり働いてぇもらうぜ? この土日は三人で大変だったんだからな! もっとも、しょぼい悪夢はオレの敵じゃねえけどな!」
やがて紗夜が教室にやって来た。瑠璃の手に持っているものを見ると、
「瑠璃! どうして、それ持ってるの?」
慎治と同じ反応をした。
「私が、剛くんの代わりに戦うよ。紗夜たちに協力する!」
「…瑠璃。関わっちゃ駄目」
「大丈夫よ紗夜。私だって…」
「大切な友達が、危険な目に合うのを見たくない!」
紗夜の気持ちもわかる。逆の立場だったら私だって、紗夜と同じことを言うだろう。でも決心している。悪夢に立ち向かわないと! それは人の心を読む達人である、紗夜には言わなくてもわかっている。
「なら、紗夜。お前が、瑠璃が危なくなったら助けりゃあいいじゃんよ! 大事な大事な親友なんだろ? お前が守らなくて、誰がするんだよ?」
紗夜は、それもそうだと言いたげな顔をしている。
ありがとう、慎治。口には出さなかったけれど、瑠璃は心の中で彼に感謝した。
「あっれえ? 瑠璃、なんでそれ持ってるの?」
忠義が来た。また同じ説明をしなきゃだね…。
その夜。今日がデビュー戦となる。楽しみで仕方ない瑠璃は宿題を即行で終わらせ、日課の勉強もせずに、璃緒よりも早く寝ることにした。もちろんインカムをつけて。
緊張しすぎているのか、期待しすぎなのか、それとも時間が早いからなのか、なかなか眠れない。その間に、あの悪夢を見た時に紗夜から聞いた話を思い返す。
「あの悪夢は、性質が悪いの。悪夢を見せる前日に、その人が一番楽しかった思い出をまず、夢として見せる。まるで最後の楽しみと言わんばかりに。そして次の日から、その人が一番嫌っているものを夢に出す。瑠璃の場合は芋虫だね。だから青虫たちが出てきた」
「悪夢は、やっつければもう見ることはないけど、大抵は嫌っているものなんかと戦えない。そんな人、いるわけない。だから、寝るたびに延々と、悪夢を見せ続ける」
「私たちは、大崎先生に頼まれて、装置を渡され悪夢を討伐してる。やっつけてもやっつけても、どこかの誰かが悪夢を見る。この前は、瑠璃の番だった」
「この装置を使えば、眠った時に人の悪夢の中に入れる。人の夢の中では、絶対に怪我をしてはいけない。剛みたいに、骨折すると、自分の体が本当に怪我したと思い込んで、実際に体が傷つく。だから剛は、さっき帰った後、家で寝ながら腕を折ったはず」
そんなことを思い返していると、段々と眠くなってきた。そういえば、他にも何か言っていたっけ。
「私の言ってること、普通じゃ理解できないよね? でも信じて、瑠璃。実際に瑠璃は悪夢を見たし、私たちはその中に入ってきた…」
また、暗い闇の中にいた。
「お、早いじゃねえか!」
右に慎治がいた。
ということは、ここは、誰かの、悪夢の中…?
「よっと、忠義参上!」
目の前にいきなり忠義が現れる。
あとは、紗夜を待つだけだが、慎治がもう歩き出した。
「ねえ待って、慎治。紗夜を待たないと」
「あいつは寝つきが悪いんだよ! 待ってると、お前の悪夢の時みたいにこの夢の主がかわいそうじゃあねえか!」
「瑠璃の悪夢の時は、僕が待とうって言ったんだけどね。だって、慎治だけじゃ頼りないんだもん。それにどこだかわかんないし。君だけが役に立たないんだよ」
「なんだとぉ、忠義!」
「二人とも、喧嘩しないで。これから、悪夢が待ってるんでしょ…」
瑠璃がそう言うと、
「ふう、やっと眠れた…」
紗夜がようやくやって来た。
「相変わらず遅いなぁお前。睡眠薬でも飲んだ方がいいんじゃねえか? オレの親父に頼んで処方してもらおうか?」
「…今度考えてみる…」
「とりあえず、四人揃ったんだし、行こっか」
忠義が言って三人が歩き始めようとするが、
「でも、行くって言ってもどこに?」
瑠璃が疑問を投げかけた。
その疑問に答えたのは紗夜だった。
「これがある…」
紗夜はポケットからコンパスのようなものを取り出した。赤い矢印が、四人の後ろを指していた。
「それは、何?」
「これがあれば、悪夢のいる方向がわかる…」
つまりはセンサーのようなものだろう。忠義が紗夜を待つ理由がわかった。
「なあそれ、オレに寄こしてくれよ! 一番寝付くの早いの、オレなんだぜ? オレが持つべきだろぉ!」
「だーかーらー? 君はゲームのし過ぎ! 剣と盾なんて、それだけで戦うのゲームの中の勇者ぐらいだよ? 今の時代の戦いはコレさ!」
忠義は自慢げに、持っているマシンガンを叩いた。
「じゃあ、紗夜はどうなんだよ? 紗夜だって基本は槍だぜ? お前の言う時代遅れなんじゃねえのか?」
「紗夜は、臨機応変に戦ってくれるじゃん。昨日は弓矢も使ったし。しかも狙いも正確だったよ」
二人は武器のことでもめ始めた。紗夜が仲に割って入って、
「はいはい。もうその話はお終い。明日、学校でやって」
「ちぇ、たくよう。とにかくオレはこれで戦うんだ。忠義がなんて言おうとな!」
「ならそうしてなよ、僕はカラシニコフでいくけどね」
「…そう言えば、瑠璃。あなたの武器、何か考えないと」
「え、私?」
「手ぶらじゃあ戦えねえぜぇ? お前が武道家なら別だけどよ」
「でも私、何も持ってきてないよ? どうすればいいの?」
「考えればいいんだよ。僕だって、これを抱いて眠っているわけじゃないし。大体、日本じゃこんなの手に入らないよ」
「考えて、どうするの?」
「夢の中なんだから、何でもあり、なんだぜ? 考えるだけで…ほらよぉ!」
慎治は盾を地面に置くと、空いた左手に剣をもう一本、出現させた。
「な、何今の?」
「だから、瑠璃。考えて、思い浮かべて。自分が一番使えそうな武器を。それが出てくるから」
ええ、いきなり言われても…。ぶき、ブキ、武器、武士? そういえば、家の先祖は武士だったような…。
そう思った瞬間、瑠璃の目の前に、鞘に収まった日本刀らしき黒い刀が現れた。
え、これ、どこから出たの…。
「日本刀か。かっこいいじゃねえか!」
瑠璃はそれを手に取る。不思議なことに、あんまり重くない。これも夢の中だから、ありなのだろうか。
刀を鞘から抜いた。その刃は銀色に輝いている。
「これ、見たことある…。確か札幌のおばあちゃんの家にあった、私の先祖が使っていたっていう、家宝の妖刀ヤタガラス…」
「とにかく、瑠璃の武器はそれで決まり。じゃあ、行くよ? 悪夢はこっち…」
四人はコンパスの矢印と、紗夜の指さす方へ歩き出した。
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