第二章 悪夢討伐団

第1話 入団決意

 土曜日。瑠璃は目が覚めると、全身が汗でびしょ濡れだった。璃緒によると、夜うなされていたらしい。

「変な夢でも見てたの?」

「全然、大したことないよ」

 今のは嘘だ。璃緒には申し訳ないが、本当のことを言うわけにはいかない。紗夜との約束もあるし、自分が変人扱いされる。

「そう。ならさっさと部活に行ったら」

「わかってる。じゃあ、行ってくるから」

 今日のバドミントン部の活動は午前中だ。いつもなら張り切って部活動に励む瑠璃だが、昨日の出来事が気になって、今日は全然集中できない。シャトルがラケットに全く当たらない。この日の部活は意味をなしていない。

 夜六時から通っている塾でもだ。完全に上の空で、先生に指名されても答えられなかった。九時までの三時間の授業も、無駄になった。

 塾から帰ってきて、出された課題も手が付かずに、璃緒とともに、同じ時間に寝ることにした。

「珍しいじゃん。塾でもポカーンとしてたし。どうしたの?」

 璃緒がそんなことを言ってくるのは珍しい。普段真面目な分、今日のような様子は凄く目立つみたいだ…。

 次の日曜日も抜け殻だった。机に向かっていても、はかどらない。携帯をいじりながら勉強してる璃緒の方が、もう塾の宿題を終わらせているかもしれない。


 待ちに待った月曜日がやって来た。学校に着くと、カバンを机に置いて中身を机の中に入れると、すぐに教室を出た。

 向かった先は職員室。職員室の戸をコンコンとノックし、勢いよく開けた。

「おお、三船じゃないか? どうした?」

 佐藤先生が反応した。が、瑠璃の耳には入っていない。

瑠璃の視線の先には、大崎先生がいた。彼は新人で、今年理科の教師になったばかり。

「先生、お願いします!」

「はあ、えっと三船…さんだったよね、あの似てる姉妹の…」

「服装がきちっとしてるから、姉の瑠璃だろ?」

 佐藤先生が言うまで、大崎先生は自分が瑠璃か璃緒かわかっていなかった。

「ああ、瑠璃さんね。で、どうしたの? わからない問題でもあるの? 朝から随分と熱心だね」

「違います。先生、お願いがあるんです! 紗夜から聞いたんです」

 そう言うと大崎先生の眼の色が変わった。

「ちょっと、そういう話はここではできないな…」

 小声でそう言う。

「ようし! 今から、その、わからない問題を見てやるぞ!」

 大声で、大崎先生は言った。もちろんこれは嘘。そして二人で職員室から出て行った。

 しかし向かった先は二組の教室ではない。階段で、四階より上の屋上へ続く扉の前まで行く。そこならだれも通らないし、話も聞かれもしないだろう。

「…紗夜は、ただの夢だからそのまま忘れろって言ってなかったのかい?」

 大崎先生が切り出した。

「確かに、言っていました。でも、私は信じます! そして、みんなとともに…」

 戦いたい。そう言いたかったが、大崎先生がそうはさせなかった。

「駄目だ。そんなこと、一々許してたらきりがない。第一、危険なんだぞ? この前だって、剛を失ったばかりなんだし」

「それは、私の責任です。私の悪夢のせいで、剛くんは左腕を骨折しました。だから私も協力したいんです。お願いします!」

 大崎先生が片手で頭を抱え始めた。瑠璃の意志が強いからだ。瑠璃だって、引き下がる気はない。

「恩返しで、済む話じゃないんだよ、瑠璃さん。君に危険が及ぶし…」

 その先に先生がなんて言おうとしたのかはわからない。瑠璃が切り出したからだ。

「それは、わかっています! 十分理解しています! それでも、みんなに協力したいんです!」

 もう先生は呆れていた。これはもう、話しても無駄だ、そう思っているに違いない。

「わかった。じゃあ、特別に、君にだけ、だ。他に仲間を増やそうとか、しても絶対認めないからな! ちょっと待ってろ」

「ありがとうございます!」

 瑠璃は、できる限りの精一杯のお礼をした。


一旦先生は職員室に戻り、またここにやって来た。その手には、あのインカムがあった。それを瑠璃に渡した。

「これが、その装置だ。いいか、今から使い方を説明する。でもメモする必要もない。これをつけて、寝るだけだ。たったのそれだけ」

「帰る時は、このスイッチを押せばいいんですよね?」

「おお、よく知ってるな。自分が危ないって思った時にも使えよ? 怪我ならまだしも、死んでしまったら元も子もないからな。もっともその場合、どうなるかはわかっていないが…」

「わかっています。ところで先生、そもそもどうして紗夜たちにこれを渡したんです?」

 これは聞いておきたい疑問だ。私は駄目と言われるのに、どうして紗夜や慎治、忠義には許されたのか。

「あいつらはね、先生が選別したんだよ。決して優等生だからとか、劣等生だからとかそういう理由で選んだんじゃない。あいつらは、今の君と同じ眼を最初からしてた。だから託せた。あいつらなら、悪夢に勝てる。俺はそう信じていたんだ」

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