第7話 うさぎ、蘇芳と世間話をする

 蘇芳からの贈り物のお陰でわたしの食生活の幅が広がった。

 飴だけではなくケーキでもゼリーでもアイスクリームでも食べるわたしを見てバーガンディアンが、


「ねぎ、コレも食うか?」


と、どこから持ってきたのか木の皿に入ったスープとパンを美味しく頂いたことで今では菓子類だけではなく普通の食事も出てくるようになった。


(まっことおひぃ様は特別なお方じゃのう)


 わたしの部屋の窓の外に遊びに来た蘇芳が愉快そうに笑った。


(そうかしら?)

(我々は似た種の野生動物と同じ食性を持つ者ばかりですぞ)


 『聖獣』と『神獣』は生態にも違いがあるようだ。

 『神々の森』ではお互いの違いなんて気にしたことがなかったから新しい発見にワクワクする。

 え?違うわよ?

 ボッチなんかじゃなかったわよ?

 ほら、まあ、あれよ、わたしは『神獣』だから、ちょっと近寄りがたかったかもはしれないけど…



(では、お姫様があの王子を選んだわけではないのですな)

(そうよ、どうしてなのかしら)

(なるほどのう。ワシもどうしてお姫様があの王子をと不思議に思っておったのですじゃ)


 ですよね。


(きっと創世神様の深いお考えがあってのことじゃろうのう)

(そうは言うけどねえ)


 急に契約成立させられたわたしの気持ちも考えて欲しい。

 そういえば、称号にあったアレも気になる。


(ねえ、蘇芳)

(なんですかな)

(蘇芳はスペルバウンドと義兄弟になってたりする?)

(はて、どういうことですかな?)


 わたしは蘇芳に称号について説明した。


(王子が義兄でお姫様が義妹、ですと)

(うん、意味わかんないよね)

(そうですなあ)


 蘇芳とスペルバウンドの間にはそんな称号は出ていないらしくお互い首を傾げるしかない。


(しかし、創世神様が無意味なことはなさるまい。今は無意味に思えてもいずれわかることもあるやもしれませぬのう)


 わかりたくないような気がするけれど、とりあえず頷く。


(ともかく契約が為された以上はあの王子を育てあげることですじゃ)

(…育つかしら?)


 この間も振りまわされたばかりだ。


(この蘇芳も協力は惜しみませぬぞ)

(感謝するわ)


 わたしはこの国について知らないことが多い。

 蘇芳のように落ち着いて話が出来る相手が出来たのが嬉しかった。

 口調のせいかお爺ちゃんとお話しているようで安心感がある。

 ほっこりした気持ちで蘇芳とあれこれ話しをしていたら、またしてもバンッと扉を開けてバカが入って来た。


「ねぎ、神殿行くぞ!」

(あんたねえ、前も言ったと思うけれど、レディの部屋に入る時は、うきゃっ)


 バカは苦情を言いかけたわたしを問答無用で抱き上げた。

 わたしの悲鳴を聞いた蘇芳が部屋に飛び込んできてバカの頭部を嘴で突いた。


(この無礼者がっお姫様に急に触れるなどしてはならぬ)

「いてっ何だっ何を怒っているんだ!?いくら陛下の『聖獣』でも不敬だぞっ」

(不敬なのはお主じゃっ)

「何をキィキィ言ってるんだ、コイツ」


 蘇芳の言葉は、バーガンディアンには聞こえないのでわたしを抱っこしたまま蘇芳に不機嫌な視線を向けた。

 少しの間、にらみ合いをした後、


「まあ、いいか。行くぞ、ねぎ」


と、蘇芳を無視して部屋を出て歩き出す。


(あんた、本物のバカでしょ?)

「ん?俺は俺だぞ?本物って何だ?それに呼びにくいならガディでいいぞ?」


 見当違いの返事をしてスタスタとどこかへ向かって歩くバーガンディアンの腕の中でわたしは頭を抱えた。

 もしかしたら根本的なことから勉強させなおした方が良いのかしら?

 レディの部屋へ入る時のマナーもそうだけれど、蘇芳に対する態度もそうだ。

 今現在第2王子という身分でしかない自分と、現国王の『聖獣』である蘇芳、どちらの身分が高いかも理解していないなんて。

 まだ短い付き合いだけれど、バーガンディアンが邪悪な性格をしているわけではないのはわかっている。

 『神々の森』でヤン君を慰めた時のように優しさも持っているし、根気良く教えれば色々なことが理解できていても良い年齢だ。


 もしかして、誰かが意図的に教育から遠ざけた?


 特に確証もない思いつきだったけれど妙に心に引っかかった。 





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