第5話 蘇芳、神獣について語る

 王族の子供としては考えが幼く粗野な振る舞いで王宮の使用人や王城に登城する貴族家当主などに余り評判のよろしくなかった第2王子バーガンディアンが『聖獣』と契約する為に向かった『神々の森』から無事、契約を果たし帰還の一報が入った時、ワシは新しい新入りについてまったく期待していなかった。


 あのようなやんちゃ坊主を主と認めるような『聖獣』は本人も同じような気質じゃろうて。


 ワシの主であるスペルバウンドと出会った時の事を思い起こす。

 正妃ではなく第3妃との間の子供で第10王子という王位に縁遠く思われていた不遇の王子だった。

 しかし、ワシはスペルバウンドに王の輝きを感じた。

 契約するに値すると本能で感じたので契約することにした。

 他の王族の子供たちにも幾人か『聖獣』と契約を果たした者が現れたが、他の『聖獣』たちはワシを知ると皆、道を譲った。

 我々『聖獣』同士にしかわからない存在の強さの強弱がある。

 契約者たちには教えていないが、契約『聖獣』の力量の差で上位の契約者が王位に就くようにそれとなく誘導する仕組みになっている。

 創世神様が『世界平和』の為に決められた『王位継承』による血なまぐさい争いを回避する為のシステムである。

 ワシは、第2王子になんの魅力も感じていなかった。

 契約が成立することすら危ぶんでおったのじゃがのう。

 それがあのような尊きお方と契約して帰還してくるとはのう。


 王の『聖獣』専用の庭園の中でも特に気に入っている樹の枝の上で夜空を見上げて昼間の謁見の間でのことを思い返していたら公務を終えたらしいスペルバウンドが1人でやってきた。


「蘇芳よ、昼間のアレはなんだったのだ。説明せよ。神獣などという存在は聞いたことないぞ」

(そりゃあそうじゃろうのう。ワシも教えた覚えはないわい)


 ワシ自身、昼間この眼でおひぃ様を見るまでは御伽噺の類だと思っておった。


「衆人環視の中で迂闊なことも言えんで『なんと!』ばかり繰り返してしまったではないか!お前が平伏などするから場を治めるのも大変じゃったぞ」

(ハハハ、それはあいすまんかったのう)

「笑い事ではないわ」

(しかし、おひぃ様は特別な方じゃ。ワシはあの方には逆らえんわい)

「それほどか」

(うむ。我々『聖獣』の中でも伝説の存在じゃ。『神獣』様が現れ契約者が選ばれたということは世界の危機が近いということじゃ)


 ワシの言葉にスペルバウンドが驚愕の表情を見せた。


(『神獣』様の契約者は普通の王ではない。『英雄王』となる運命を持つ者じゃ。英雄と称えられる王になるにはソレ相応の災いが前提となる)


 『異世界』から譲り受けた善良なる魂の『聖獣』による『王位選定』のシステムで暴君と呼ばれるような王はどの国にも存在しない。

 国家間の戦争という概念が希薄なこの創世神様の箱庭。

 その平穏が乱れる時、『神獣』と『英雄王』は現れるだろうという『聖獣』が産まれる度に創世神様から聞かされてきた御伽噺だ。


 まさか、ワシの生きておる時代に現れるとはのう。


(スペルバウンドよ、ローズガーデン王国を亡国にしたくないのであれば、バーガンディアンを王に相応しい人材に育てあげるしかないのう。『神獣』様と契約出来たということは災いの芽は既に出ているということじゃ)


 こちらが何もせずともバーガンディアンは自然と『英雄王』への道を進む運命であるが、充分な支援をすることでこの国への被害を最小限に抑えることが出来るかもしれぬからのう。

 このローズガーデン王国の王の契約『聖獣』として出来るだけの尽力はするつもりじゃ。

 暫く今後の公式、非公式の対応について話し合いを続けた後、神妙な面持ちで話を聞いていたスペルバウンドに最後に1つ大事なことを告げた。


(おひぃ様が甘味をご所望じゃったわい。用意せえ)





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