第4話 うさぎ、聖獣に平伏される

 意味がわからないうちにバカこと、バーガンディアン・ローズガーデンと契約してしまった数日後、ローズガーデン王国の謁見の間に連れて行かれた。

 まあ、バカはローズガーデン王国の第2王子なので仕方がない。

 国内の貴族達にも無事に王位継承権の証である『聖獣』と契約したことを周知しないといけないからね。

 わたしは今、バカに抱っこされているわけだけど、周囲の視線が痛い。


「バーガンディアン、それがそなたの契約した聖獣様なのか?」


 玉座から肩の上に朱雀鳥を乗せた四十路の赤い髪のナイスなオジサマが話し掛けてくる。


 あれがこの国の王でバカの父親かー。

 ねえ、王様ー、子供の躾について話したいことがこの数日で結構あるんですけどー。


「はい、陛下。ねぎです」

(ちょっと、ねぎって呼ばないでったら!)


 わたしは腕の中からバカのあごにパンチを食らわせる。

 ねぎなんて名前、認めてないんだからっ


「そ、そうか」


 国王もバカのネーミングセンスに引いたのか、微妙な表情をした後、


蘇芳すおう、どうであるか?」


と、自分の肩に乗っている朱雀鳥に話しかけた。

 

 蘇芳だって!

 カッコイイ名前いいなあ。


 そんなことを暢気に考えていたら、朱雀鳥がこちらを見てチリッと静電気が走った。

 わたしが聖獣かどうか鑑定したのだろう。


(おおおお、おひぃ様!?)


 蘇芳は全身の羽をぶわっと膨らませたと思ったら叫んで国王の肩から飛び降りてバカの足元へ着地して平伏した。


(こここ、この度は、我が契約者であるスペルバウンドが治めるローズガーデン王国へのご訪問まことにありがとうございます)

(うん、きてあげたわよ)


 人間の甘味を食べにね!


 国王の聖獣が平伏したことで周囲が一気にざわつく。


「蘇芳、これは一体」


 玉座の国王も驚いている。

 蘇芳は身を起こしバッを羽を広げて国王に向かってわたしのことを説明し始める。


(スペルバウンドよ、この方は創世神様直々に選ばれた特別な神獣様じゃ)

「なんと!」

(神獣様と契約した者は必ず王になる運命を持つのじゃ)

「なんと!」


 国王様の語彙がヤバイ。

 まあ、気持ちはわかるよ?

 普通は王族の中で『聖獣』と契約出来た数人の中から優劣を競って次代の王を選ぶ。

 わたしの契約者のように必ず王位に就く運命なんて持ち合わせていない。

 あくまでも『王の器』を持ってる証ってだけだもんね。

 つまり、わたしの契約者であるバーガンディアンが次期ローズガーデン国王に選ばれなかった場合、彼は新しい国を興すことになるわけだ。

 国王の子供が何人いるのか知らないけれど、この事実を知った今、国王の取れる選択肢は限られている。

 どうするの?

 バーガンディアンは現段階ではどう好意的に見ても王族らしさはない。

 きっと、他に優秀な兄姉弟妹きょうだいがいるよねえ?

 王族の子供だから一応、契約者になれるか試しただけで、もし成功しても王位は他の人でって考えてなかった?

 優秀なほかの誰かのスペアくらいに思ってなかった?

 なんて意地悪なことを考えてしまった。

 だって、ねえ。

 国王の契約聖獣だから蘇芳の言葉が聞こえないとはいえ現国王の聖獣が平伏したり周囲が動揺しているこの状況でバカは片手でわたしの耳を弄り回しているのよ?

 大物の器なのか、心底バカなのか。


 バカな方にわたしは一票いれるわ。

 


 

 

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