第2話 うさぎ、命名されて激怒する

「王子!」


 護衛騎士がわたしに顔面を蹴られて地面に蹲った王子に駆け寄って治癒の薬液をぶちかけている。

 この世界で『魔法』が使えるのは聖獣と契約した人だけなので仕方がない。

 勢い良くかけられた薬液でべちゃべちゃになった赤い髪を見て少しだけ溜飲を下げたわたしは他の餌場に行こうと場を離れようとして王子に罵声を浴びせられた。


「このっねぎうさぎ!お前ふざけんなよ!」


 ふざけてるのはどっちよ。

 失礼な子供ガキね。

 わたしは神獣でねぎうさぎなんて種族じゃない。


 他にも色々叫んでいるバカを無視して立ち誘うとしたその時、


「おい!待てよ!ねぎ!」


と、いう王子の声と共に空からキラキラと美しい光の粒子が舞い降りた。


「これは…」


護衛騎士、唖然。

わたし、唖然。


「んだこれ、埃か?」


バカだけが見当違いなことを言っていた。


(はぁぁぁぁ!?ふざっけんじゃないわよ!)


「!!!?なんだ、誰かいるのか?」


わたしの声に驚くバカにダッシュで駆け寄って鳩尾にうさぎキックを炸裂させる。


「っっっってぇぇぇ」


身を屈めて痛みに悶絶するバカの頭の上に飛び乗って思いつく限り罵倒する。


(何勝手に命名してくれてんのよ!)

(あんたなんかと契約しないわよ!)

(わたしが認めてないのになんで承認されちゃってるわけ!?おかしいでしょ!あんたナンか卑怯なことしたんじゃないの!?)

(今すぐ、契約破棄しなさいよ!今すぐ!)


さっきの光の粒子は契約成立の祝福だった。

そして、バカにわたしの声が聞こえているということは…


わたしは神眼しんがんを使ってバカを鑑定してみる。



バーガンディアン・ローズガーデン

種族: 人族

年齢: 10歳

性別: 男

称号: ローズガーデン王国第2王子 英雄王 義兄

契約神獣:ねぎ(翠玉すいぎょく兎)



(いやぁぁぁぁぁ!)

「うるっせぇぇぇぇ」


 鑑定結果を見たわたしの悲鳴にバーガンディアン(略してバカでいいよね、もう)が耳を塞ぐ。

 契約神獣になってるぅぅぅ。

 しかも、名前がねぎっって…ねぎって…

 思わず自分のことも鑑定してみる。



 ねぎ

 種族:翠玉兎

 年齢:10歳

 性別:女

 称号:創世神の使い 救国の神獣 英雄王の義妹

 契約者:バーガンディアン・ローズガーデン



 なに、この英雄王の義妹って。

 意味がわからない。

 創世神様からこの世界のことを色々教わったけれど、英雄王の儀妹なんて称号については聞いていない。

 あたしが姉ならともかく、なんであんなバカの妹にならないといけないわけ!?

 沸々と怒りが再燃してくる。

 いっそ蹴り殺してやろうか、と思っていると嗚咽が聞こえてきた。


 やっばい、子供相手にやり過ぎたかしら?


 と思ったけれど泣いていたのは護衛騎士だった。

 跪いて顔の前で手を合わせて天を仰いで創世神に感謝の祈りを捧げながら泣いている。

 バカも気付いて顔を上げたのでわたしが転がり落ちてしまった。

 コロンコロン。

 でも痛くなんてないわ、神獣だもの。


「お、おい、なんで泣いてるんだ?」

「っ…王子っ、聖獣様とのご契約おめでとうございます。不肖ヤンルースは非常に感激しております」

「お、おう」


 護衛騎士に物凄い勢いで祝福されてバカも冷静になってきたようだ。

 自国の契約聖獣である朱雀鳥とはあきらかに違うわたしとの契約でも泣くほど感激するのだから、護衛騎士ヤンルース君には契約出来ないかもしれないと思われていたのだろう。

 まあ、こんな乱暴そうな子供じゃあ仕方ないわよね。


「ヤン、泣くな。ほら、飴ちゃんやるから」


 ヤンルース君(長いな、ヤン君と呼ぼう)を泣き止ませようとバカがポケットから飴を出して慰めている。

 スマートとはお世辞にもいえないけれど必死なその様子にちょっとだけキュンとする。


 なによ、案外良いヤツじゃない。



 







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