ねぎうさぎ
ナカマヒロ
第1話 うさぎ、王子に蹴りを入れる
「おいコレ見ろよ!変なヤツがいたぞ!」
わたしの背後からそんな声が聞こえる。
その声の主がわたしに話しかけているからではない。
わたしのキュートな耳を握って相手に見せるように立っているからだ。
変なヤツじゃないし、キュートなうさぎだし。
「!王子、なりません!」
わたしを見せられて若い騎士が慌てている。
そりゃそうだよね、ココは聖獣しか棲まない『神々の森』だもの。
聖獣の耳をつかんでぶらーんしちゃ駄目駄目だ。
聖獣。
それは、神聖なる獣。
どんなに立派な人格者でも、武や知が優れていても、お金持ちでも美形でも、聖獣と契約を交わしていない人物は王として認められない。
創世神様がそうお決めになった。
だから、この世界の王族の子供は10歳になるとこの『神々の森』に聖獣と契約を交わす為に訪れることになっている。
だから、わたしの耳をつかんでいるバカはどこかの国の王子様なのだろう。
「王子、聖獣様を乱暴に扱ってはなりません」
王子付きの護衛騎士なのだろう、15歳くらいの騎士さんは必死に王子にわたしを地面に降ろすように説得している。
ま、別にいいんだけどね。
のんびり草をもしゃもしゃしていたら宙吊りにされて驚いたけれど苦しいわけじゃないし。
普通のか弱いうさぎと違ってこの程度ならなんともないし。
子供のすることだからね。
10歳の男子なんて『日本』なら小学生だからね。
獣みたいなもんだよ。
え?
なんで例えが『日本』なのかって?
それは、わたしの前世が『日本人』だったからだよ。
この世界で始めて目覚めた時、創世神様とお会いして直接お話したんだよ。
他の世界の神々を真似て創ったばかりなので色々な世界の人間の魂を聖獣として譲り受けて『平和な世界』を創るお手伝いをしてもらっているんだって。
だから、聖獣として迎えられる魂は基本的には善良な人物が選ばれる。
わたしみたいにね!えっへん!
話を戻すけど、そんな訳で現状に怒りは感じていない。
王族にしてはお行儀の悪い子供だなとは思っている。
だから、わたしは契約するつもりはない。
他の聖獣に任せるよ。
そもそも、わたしは聖獣じゃないし。
神獣だし。
神獣だよ!凄くない?
え?
神獣って何って?
わたしもよくわからないけれど、『特別』な聖獣なんだって。
だから、わたしと契約する人は絶対に王になる運命なんだって。
スゴイよね。
普通の聖獣は、契約するとステータスに『王の器』って称号がつくけど、わたしと契約すると『英雄王』の称号がつくんだって!
ぎゃあああ、カッコイイ!
未来の『英雄王』の側には神獣のわたし。
よくわからないけれど、カッコイイ!
ぶらーんされながらそんな未来に夢を馳せていたらバカ王子がわたしの顔を覗きこんだ。
真っ赤な髪に赤い瞳の少年漫画の主人公みたいな少年だ。
「王子、その聖獣様を御放し下さい。お怒りを受けると契約に障りがあるやもしれません。それに我が国の聖獣様は朱雀鳥のお姿をされています。うさぎではないですよ」
朱雀鳥。
あー、あの真っ赤な鳥ね。
時々、紅玉の宝石を産み落とす聖獣だね。
つまり、王子と護衛騎士は『ローズガーデン王国』から来たらしい。
長い歴史のある王国だと選ぶ聖獣が決まってるんだって。
え?うさぎはどこの国の聖獣なのかって?
知らないよ?
わたしは『神々の森』で初めてのうさぎで、この『世界』でも初めてのうさぎだもの!
なんてったって神獣ですからね!
「うさぎ?」
王子が護衛騎士の言葉に首を捻る。
「この変なヤツのどこがうさぎなんだ?耳の緑色のうさぎなんて変だろ、つーか、身体は白いのに耳が緑ってねぎっぽくねえ?コイツ」
ねぎっぽい。
バカ王子の言葉がグサグサと心に刺さった。
気にしてたのにっ
わたしも耳が緑色なのってうさぎとしてどうなのって気にしていたのにっ
ねぎっぽいってなんじゃああああ!
わたしは怒りに任せて渾身の蹴りをバカ王子の顔面にぶち込んでやった。
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