第8話 雷は予感とともにやってくる

敦子先輩と出会ってから、2週間が経った。


未だに、康介の居場所はわからない。手掛さえ発見されていないらしい。警察ですらそういう状況なのに、俺たちド素人が放課後に捜索しても見つかるはずがなかった。校内の噂は、出所でどころが発覚したからか、勢いをなくしつつある。世間の反応も薄れてきて、新しい情報に目がいっているようだ。人の関心は、どこまでも目まぐるしく更新されていくのだ。





今日も登校して、すぐに屋上に来た。こんなにいい天気なのに、日向ぼっこをしないなどという選択肢はない!蓮には奇跡的に見つからなかった。今日は幸先がいいな!!


風はほどよい冷たさで、日は春を思わせる暖かさだ。日向ぼっこをするには素晴らしい環境である。これでもし、地面がコンクリートじゃなくて芝生だったら完璧だったのに・・・。そんな愚痴を頭の中で呟きながら、仕方がないなと寝そべる。


やはり日光温度は、今の時期が一番気持ちいい。鳥の鳴き声が聞こえる。田舎では珍しくもない音だが、澄んだ声というのはいつ聞いても心が洗われるような感覚をもたらす。


体の力を抜いて目を閉じてみると、鳥の声量が上がったような気がした。しかししばらくすると、こんどは絞るかのように、緩やかに音が小さくなっていった。





―――ピトッ


「冷たっ!!」


突然首筋に何かが落ちてきた。冷たさにはね上がる。というか、俺寝てたんだ。


見上げると、あれだけ晴れていた空は厚い雲に覆われている。鳥の声もいつの間にか聞こえなくなっている。雫は空からぱらぱら降り続ける。


えー、雨か。


ふてくされながらも、ずぶ濡れになるのは嫌なので、しぶしぶ・・・渋々だが!教室へ引き返そう。やっと着いたと苦労して扉を開けると、まだ昼休みにもなっていないのに教室のなかは騒がしい。


ていうか、なんで皆帰る支度したくしてんの?


「天野!お前またサボってたな!」


「人聞きの悪い。光合成してただけですよ」


「お前は植物か!」


笑いが起こる中、首根っこをひっつかまれて、喝を頂戴する。普段は、ずるずると引きずられ生活指導室へ連行されるのに、今回は席につくように促うながされた。てか、先生何でいるんだ?


みんな、席に座ってるし。今って、休憩時間だよな?


そういえば、廊下にも誰も居なかったような。


「あんた、いい加減懲りなさいよ」


横から、蓮の呆れ声がかかる。


どれだけ席替えしても、教師の決定で問題児の監視役として蓮と前後セットにさせられる。どんな罰ゲームだよ、ほんと。お願いですからせめて横にしてください!後ろからの威圧がえげつないからぁ!!


「俺は日向ぼっこをしないと死んじゃう病なんですー。つか、何かあったのか?」


「ああ、さっきね...」


「えーっと。先程、教員会議で決定した。大雨洪水警報、暴風警報、並びに雷注意報が発生したため、速やかに帰宅するように。ここは山のふもとだから、土砂災害の恐れがある。注意するように。ただ、バスが足りないから人数調整をしながら移動する。指示があるまでここで待機だ」


歓喜の声が沸き上がる。待機命令に、不機嫌な声も交ざっていたけど。


台風かな。今年はやたら期間が短いな。


「おー、そゆことか。ラッキー」


「嬉しいのか嬉しくないのか、どっちなのよ。棒読みじゃない」


いやぁ、嬉しいよ?嬉しいんだけどさ。何か、もやもやするんだよね。


窓の外に目を向ける。雨はさっきより強くなっているが、それほどでもない。空を覆う灰色の厚雲のまわりを、雷が蛇のように滑らかにうねっている。雷って、あんな風ふうだったっけ?なんか、不安が湧き上がってくる。


康介がいなくなった日も、こんな感じだったから、ちょいセンチメンタルになってるだけかも。うわ、自分でそんなこと思うとは。鳥肌たつな。






ようやく俺たちの順番がまわってきて、下校を始める。


「出席番号順に整列しながら下校するって、どうなんだ。」


「ははっ、しょうがないよ。この方が安全確認しやすいんだから」


先頭に立つ委員長の悠真が、乾いた声で笑った。おっと、心の声が漏れていたか。


「問題児が何しでかすか、わからねぇしな」


「くっ。正論過ぎて反論できない」


「わお。自分で認めちゃってるよ、こいつ」


隣から、失礼な発言がとんでくるが、そんなもの今に始まったことじゃない。横を歩くのは、朝木皆尊(あさぎみなたか)。始めに席が前後だったため、いつものメンバーを除く高校からの知り合いでは、一番仲がいい。第一印象はチャラかったけど。


後ろで会話していた女子たちが、髪が跳ねまくっていることに愚痴っていた。


「雨だからか?女って大変だなぁ、いろいろと。」


「確かに」




バスに乗り込むと、上回生が指示を飛ばしているのが見えた。3年、2年、1年がそれぞれ1クラスづつ、共に行動する。上回生は年下の面倒を見ろ、ということだろう。高校生になっても子供扱いだ。ま、実際子供だしな。


「みなさん、静粛に。一年生から乗車するように。いいですね」


げっ!よりにもよって、高嶺たかね先輩のクラスと一緒だ。


と、いうことは・・・。


「くれぐれも、問題は起こしてくれるなよ?」


大きくもないのに、よく通る低い声が響く。なぜ、こちらを見るんでしょうか、宮寺先輩?それはみんなに言っているようで、俺に対する警告でしょうかね。


無口な会長が、わざわざ仰るということは、やらかしたら殺されますな、これは。その前に、高嶺先輩に毒を含んだ言葉で射殺されそうだけど。というか、宮寺先輩の鋭い目つきの割に、口を釣り上げてるようですけど。楽しんでるな、こやつ。


水戸先輩か副会長のクラスの方が良かったな・・・。今日は厄日なのか。


問題児の俺を抑えるために、わざとこの組み合わせにしたな、教師ども。






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